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空の心

 俺はできる限り意識しないように壁に顔を向け、眠ろうと努力したが、すぐには眠れそうになかった。


「ねえ有馬?」

「なんだ?」


 空はベッドに入ってから少し経った後、俺に話しかけてきた。


「有馬はさっきお風呂場でOKしてくれたけどさ……」


 なにかをためらうように少し間を置き、再び空は話始めた。


「私、有馬の恋人になった、ってことで良いの?」


 俺は恋人という言葉に心臓の鼓動を速めながら静かに肯定する。


「そう……だな……」


 答えると空がもぞもぞとこちらに寄ってきて言う。


「私、まだ有馬に好きって言ってもらってない」

「……言わなきゃ、ダメか?」


 俺がおずおずと聞くと


「だめ」


 甘い声で空は言ってきた。


「普通恋人は、互いの愛を確認してからなるものじゃない? じゃあ有馬も私に愛を伝えてよ」


 なっかなかこっぱずかしいことを堂々と言いやがってこの娘は……。


「……す、好きだぞ……」


 俺はのどから声を絞り出して言うがどうやらお気に召さなかったようだ。


「聞こえないなぁ~? ちゃんとこっち見てくれないと」

「絶対聞こえてるだろう」

「早くしないと『Ⅿ0―J』乗って暴れてくるよ」


 ワンチャンこいつならやりかねないので、俺はおとなしく空の方へ顔を向ける、そうすると近づいていた空の顔が目前に合った。


「ッつ!」


 俺は反射的に下がろうとするが、空がそれを制止した。


「逃がさないよ、ちゃんと私の顔を見て、今だけは私の事を考えて」


 真剣な眼差しでこちらを見つめる、吸い込まれそうなほど美しい灰色っぽい目、その目から下がって頬は、朱色に染まっていた。

 微かに呼吸が荒い、肩が上下する速度が速い。


「私は、有馬勇儀、貴方のことが大好きです」


 再び俺は空に告白された、その事実を噛みしめつつ、俺は覚悟を決める。


 一人の少女が覚悟を決めて俺に告白してくれたのだ、俺も精一杯答えてやらねばいけない。


「俺、有馬勇儀も、雨衣空、君のことが……好きだ」


 そう言い切ると、空は薄く笑い、頬に雫を垂らした。


「えへへ、やっと、言って貰えた、私を受け止めてくれた……」


 空は、必死に涙をぬぐうが一向に止まらない。


「嬉しいよ、やっと私を見てくれた、ひとりの私と言う存在を好きになってくれる人ができた、私にも大切な人ができた……」


 俺はいつまでも涙をぬぐう空を見かねて、頭の上に手を置いた。

 そうすると空はその手をつかみ、より一層泣き出してしまった。


「暖かい、之が私の求めた人の温かさ……寒かった、寂しかった、ずっと一人で、誰も私を見てくれなくて、誰も守ってくれなくて……」


 ずっと、寂しかったのか……。

 俺は何とも言えない感情に襲われ、何も考えずに空の体をそっと抱きしめた。


「これなら……寒くないだろ?」


 そう聞くと空は少し驚いたような、困ったような顔をした後、一層顔を赤くして言った。


「もっと強く……抱きしめて……もっと有馬の温もりが欲しい」


 空はそう言って顔を俺の顔に近づけ、体をより一層密着させる。

 互いの胸が密着し、鼓動が聞こえてくるほどだ。


 空の細い脚は、まるで俺を逃がさんとするように足に絡め、細い腕は俺の背中に回されている。

 小刻みに震える、何かを期待し、同時に緊張しているように。


 俺でもわかる、空が俺に何を求めているのか、互いの息があたるほど近くまで寄せられた顔は美しかった、ただ美しく、まるで雪の結晶の用だ。


「お前は、俺のために死なないでくれ、俺も、お前のために死なないから」


 そう言うと空はゆっくりと目を開ける。


「うん、わかった、私は死なないよ」


 空の瞳が俺の視線と交わった瞬間、俺は空の小さな唇に自身の唇を重ねた。


「んっ!」


 空の瞳が驚きで一瞬見開き、驚きの吐息が俺の鼻をくすぐるが、すぐに抵抗はなくなり、自ら唇を圧しつけてきた。


「ぷはぁ」


 空は一瞬唇を放したかと思うと、俺の思考がまだはっきりしないうちに、再び口を近づける。


「んっつはぁ、んん」


 二度目のキスはさっきのものとは違い、より深い口づけとなった、空が強引に俺の口を開け、舌を絡ませてくる。

 俺はまだ試行がマヒしているのか空の行動を止められない、むしろこの快感に負け、自ら舌を絡めに行ってしまった。


「はぁっつ、んんっん」


 俺と空の吐息と、唾液がじゅるじゅると音を立てる、しかしそんなことは気にせず、空は俺の舌を嬲るように舐めまわす。




 何秒立ったのだろう、俺と空は長い長い濃厚なキスを交わした、ゆっくりと唇が離れ、互いの唇から銀の糸を引く。


「有馬、大好き」

「ああ、俺もだよ、空」





  現在、10月6日、05時40分。




 いつもより少し遅い時間に俺は目が覚めた。


「朝か……」


 俺は布団の中の温もりに気付き、自身の胸元に目を落とすと小さな少女が寝息を立てていた。


「可愛いな畜生」


 こうして寝ている姿は、歳よりも幼く見え、とても愛おしく感じる。

 そんなことを考えながら俺は空の髪を撫でる、サラサラとしていて、ずっと撫でていたいほど心地が良い。


「ん? ふぁあ~……おはよう」

「おはよう、起こしちゃったか?」


 俺が聞くと空はまだ開ききらない目をこすりながら、首を縦に振る。

 少し待っていると空は体を起こし、パジャマを整えると。


「んっ」


 そう軽いキスを、俺の口にお見舞いしてきた。


「おはようのキス、一度やってみたかったんだよね」


 俺は頭を掻きながら笑う。


「もうお前の行動には驚かないよ」

「そうみたいだね」


 そう言うと二人して笑い、ベットから出た。


 その後俺と空は交代でシャワーを浴び、身支度を整える。


「さて、朝飯食ったら飛ぶか」

「そうだね、今日はどこ行くんだけっけ?」


 今日向かうのは、ここより北西の方向に在るコムソモリスクナアムーレ軍事基地。

 研究所、空軍、陸軍の共同基地になっているため、東の基地の中では一番大きいらしい。


「コムソモリスクナアムーレだ、行ったことあるか?」


 俺が聞いてみると空は顔をしかめて言う。


「言ったことも何も、もともと私が所属してた基地だよ、そこ」

「じゃあ里帰りってことだな」

「まさか、亡命者が出張で元居た国に顔を出すことになろうとはね」


 やれやれと空はため息をつく。

 まあ歓迎はされないかもしれないな。


「あと一つ言うとすれば、その基地、ルカの戦車大隊の本拠地だから、今なら会えるんじゃない?」


 ルカか……アジア作戦ぶりだな。


「そうなのか、まあ見かけたら挨拶ぐらいしておくか」


 そんなことを話していると、部屋の扉が叩かれた。


「Это Белфабр. Ваш самолет готов к полету, сэр.」


 ロシア語が飛んできたので、髪を整えている空の方へ視線を送ると、悠長なロシア語で返答した。


「Спасибо, я возьму свой завтрак и пойду.」

「понимать」


  空がロシア語で会話をした後、足音も遠ざかって行った。


「なんて?」


 俺が尋ねると、空はブラシを使って髪をすきながら答えた。


「航空機の準備できたって、だから朝食取ったら向かうって言っといた」


 空はどうも髪をすく手がおぼつかない。


「どうした?」

「ん? ああ、いつもは吹雪にすいてもらうから鏡見ながらだと難しいなーて」


 そう言いながらこちらをチラチラ見てくる。

 

 なるほど、そうゆうことね。


「俺がすいてやろうか?」

「そう来なくっちゃ!」


 空は目を輝かせてブラシをこちらに渡す。

 俺は鏡の前に座る空の後ろに立ち、ブラシを空の髪に通す。


「いいねぇ、有馬、女の子の髪すくの上手だよ」

「お褒めに預かり光栄ですよ、お姫様」


 俺はそう茶化しながら髪をすいた、空は終始ご機嫌だった。


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