元帥会議
現在、17時45分、横須賀連合艦隊基地、本部作戦室。
「彭城元帥、演習お疲れさまでした」
私の正面に座る、大澄総理大臣が言う。
「いえ、頑張ってくれたのは私ではなく、有馬君とWSの子たちですから」
これは、謙遜などではなく本心だ。
「それで、今回至急集まってもらったのは、その有馬君についてだ」
総理の顔は、少し厳しいものになる。
「はい、どのように処罰をいたすおつもりですか?」
私がそう問うと、隣にいた、海自の代表である酒井直人が発言する。
「その子への処罰は、正直必要ないのでは? さすがにあの記者の発言は、度が過ぎています」
その言葉に、大臣もうなずく。
「うむ、私も、正直処分したくは無いのだが、正当な理由があるから、処分とまではいかなくとも、罰則を与えないと、示しが付かなくてな……」
それを受けて、陸自の代表である、今村健介が提案した。
「なら、謹慎だけでいいのでは? 簡単ですし、罰則らしいでしょ」
それに首を振ったのは、空自の浜松壮介だ。
「だめです、彼は近々、うちから『Ⅿ0―J』を借りて、ロシアに行く予定なんです、謹慎にしてしまったら、向こうにも迷惑がかかります」
どうしようかと皆で首を捻っている中、防衛大臣の小堀が発言した。
「なら、謹慎にしているように見せかけて、ロシアに飛ばし、謹慎が終る頃に、日本に帰ってきてもらえばいいのでは? 期間限定島流しのような感じで」
期間限定島流しか……まあ特に異論はないが。
「ロシアの情報が、日本に伝わってニュースで報道されたらどうする?」
酒井がそう尋ねると、小堀は肩をすくめていう。
「そもそも、有馬君がロシアに渡ること自体、あっちは上層部しか知らないさ」
なら大丈夫だろう、ロシアの情報統制は厳しいからな。
「よし、ならそうしよう、本来は日帰りで行かせるつもりだったが、二泊三日で行ってもらうとしようか」
そう総理が言い、皆頷いた。
誰も、特に異論はないようだ。
「ではそう伝えておいてくれ、空君」
私がそう言って、天井を見上げると、上でごそごそ音が鳴った後、天井のパネルが開いて、空君が降りてきた。
「あちゃー、バレてましたか」
空君は、舌を出して、てへっとしているが、他の代表は大きなため息だ。
「警備は何をやっとるんだ……」
「違う、この子が異常すぎるだけだ」
そんな会話を、陸と空の代表がしている中、私は、空君に正式に伝令を頼んだ。
「空君、有馬君とともに二泊三日、ロシアに飛んで、これを渡してきてくれ、同時に、軍も見学させてもらってきなさい、時間が余ったら、好きにしていいぞ」
「了解! いつ飛べばいいですか?」
私は、手帳を取り出して、予定を確認する。
「五日の午前六時半に飛んでもらうから……午前六時頃には、横須賀の航空基地に来てくれ」
「了解です、では」
そう言って、空君は再び天井に消えた。
「あの子が裏切ったら、この国は亡ぶな」
総理が半笑いで、冗談とも言い切れないことを言った。
「大丈夫ですよ、あの子は有馬君のことが大好きすぎるからで合って、有馬君が日本を攻撃しない限り、あの子も裏切ることはしないと思いますよ」
そう言って、私は会議室を出ると、そこには、明野沙織提督が資料を片手に立っていた。
「お疲れ様です元帥、こちらが報告書です」
私も敬礼を返し、資料を受け取る。
「うむ、ご苦労……ん?」
私は、一枚の写真と報告書に、目が留まる。
「首のない死体?」
その写真は、首のない死体が大量に転がっている街並みを映していた、付属する文には。
『最近、戦場の片付けに来ると、人間の兵士たちの頭が、大きな刃物で切り取られていることが多くなってきた、その後の首は見つかっておらず、詳細を確認中』
「欧州戦線や、ロシアの戦場など、陸戦が多発しているところで見られるようです」
WASも、何を考えているのか分からんな……。
「まあこの件は後だ……あの件は、有馬君に話したのかい?」
そう聞くと、明野提督は薄く微笑んで首を振る。
「もし聞かせたら、元帥殿に詰め寄ってくるかもしれませんよ?」
私は、頭を掻きながら、その考えに同意する。
「そうだな……本当にすまない、君にこんな任務を押し付けて」
そう言うと、明野提督は首を振る。
「いえ、父と約束したので……これが、私の使命なんです、たとえ命に代えても、南の海は、私が守らないといけないんです」
その目には、決意と覚悟、その両方を感じさせる、強い光が宿っていた。
「そうか……なら、精一杯頑張ってくれ」
そう私は、明野提督に告げ、その場を立ち去ろうとするが。
「あ、そう言えば、有馬君なら、今頃軍の寮にある、取調室に居るから、会いたければ行くと良い、別れの挨拶もまだだっただろう」
そう、最後に付け足してから、今度こそ、その場を立ち去った。
「……取調室、ですか」
私は、元帥を見送った後、有馬さんに別れを告げに行くため、軍の兵士たちが、寝泊まりしている寮に向かったのだが、どうも、目的の部屋が見当たらない。
そんな時目の前から、背の小さな一人の兵が歩いてきたので、尋ねてみることにした。
「あの、取調室ってどこだかわかりますか?」
その兵は、こちらに視線を向け、胸元の階級章を確認して驚いたように敬礼する。
「わわわ! 中将殿⁉」
つやつやとした黒い髪、まだ少年の面影を見せる顔つきから、学生兵だとわかるが……。
「えっと、何歳ですか?」
どうも、背が小さいように思い、そう尋ねる。
「申し遅れました! 私は、大和第348部隊所属、衛生兵兼食事課の、浅井圭十六歳、少尉であります!」
「大和第348部隊……」
どこかで聞いた気が……。
「えっと、一様分隊長は有馬さんです」
ああ、なるほど、有馬さんの部隊の人だったんですね。
「私は明野沙織中将、パプア国際軍港で、提督をしている者です」
私も、自己紹介を終え、本題に入る。
「それで、有馬さんのいる取調室はどこでしょう?」
そう聞くと、少尉は、指差しで教えてくれた。
「ここの突き当りを、右に曲がって真っすぐ行った突き当りです、私も、先ほどまで有馬さんとお話していたので」
そう最後に付け足した。
「ありがとうございます……ところで少尉」
私は、もう一つ気になっていることを聞いた。
「はい?」
「貴方、何故その年で、少尉になれたのでしょうか?」
有馬さんも対外だが、話に聞く、第348部隊は、皆士官クラスの階級で、何かしらの勲章を持っているらしい。
雨衣さんが中尉で、射撃き章と、重要物を護衛した時にもらえる七星勲章。
作戦中に亡くなられた、坪井さんが、栄誉昇級で大尉、整備を誰よりも早く終わらせられる人に与えられる、ボルト勲章。
清原さんが、整備長の大尉で、航空き章と、同じくボルト勲章。
だが、この子は勲章やき章を、話を聞く限りでは持っていない、なのに小尉なのは、少し気になる。
WSの件で階級を上げられたのは知っているが、それでも16歳が元一等兵とはどうゆう事なのだろうか?
「えっと……長野事件って知っていますよね?」
おずおずと、そう聞いてくるので、私は首を捻りながら答える。
「ええ、まあ、知っていますが?」
丁度その頃、私はパプア国際軍港に配属したので、報告を聞いたくらいだ。
「そこで、いろいろありましてね……まあ詳細は、有馬さんから聞いてください、僕はこの後、食堂に戻らなくてはいけないので」
そう言って、一礼してから、去ってしまった。
「……まあ、聞けばわかりますか……」
そう思って、私は有馬さんのいる取調室に向かった。