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ウェポンスピリッツは未来に継げる!  作者: 古魚
大規模海戦演習編
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高速戦艦『アイオワ』

 現在、午前十一時四十八分、横須賀港


 『アイオワ』と『大和』は、横須賀のドックではなく、港の近くで、一旦錨を下ろしていた。


「さて、これから大事な仕事が在るが、その前に……」


 まだ会見には時間があるので、俺は、大和を連れて、『アイオワ』の艦上に移っていた、そこには、腕を組んで立つ、アイオワの姿が在った。


「アイオワ、これが大和の力だ、お前がホテルと言った、戦艦の実力だ」


 そう俺が言うと、アイオワは目を伏せる。


「どうして、私は生まれたのかしらね」


 その瞬間、俺の脳内には、記憶が流れ込む。

 久しぶりの感覚に酔いつつ俺は、アイオワの記憶に、身を任せることにした。





「測距よし、砲撃始め!」


『アイオワ』の艦橋だった、そしてその艦橋窓の先に見えるのは、小さな島……ポナペ島か?


「全く、何回艦砲射撃してると思っている、まだ落とせんのか」


 艦橋に立つ男は、そう言ってため息をつく。


「まあ、あくまでこの艦が搭載しているのは、戦艦の砲であり、対地攻撃用の砲ではありませんから」


 そういって、もう一人の男が答える。


「もう日本に戦艦は残っていないのだから、いっそ、対地攻撃用の戦艦に変えてしまえばいいのに」


 そういった後、さらにその男は愚痴を零した。


「何が『大和』型に対抗できる戦艦だ、こんな艦作るぐらいなら、『エセックス』級空母を、もう二隻作った方が、十分戦力になるわ」


 『アイオワ』は、太平洋では艦砲射撃を主に行ってきた、戦艦で合っても、艦隊戦をさせてもらえずに、ずっと。




視線が切り替わる、今度はCICの中だ。


「何⁉ 武蔵が沈んだ⁉」


 誰かの怒声が響く、『武蔵』ということは、レイテ沖海戦か……。


「shit! おとなしく、さっきの艦隊を追っていれば、私の主砲が火を噴いたのに、艦に向かって火を噴けたのに!」


 アイオワの怒声も、俺の耳には届く。


「結局役損じゃないか! この艦は! 何が『大和』型と戦えるかもだ! 結局、空母の艦載機じゃないか、航空機じゃないか!」

「ッツ!」


 アイオワは、その一言に拳を震わせる。


 レイテ沖海戦時、『アイオワ』は、反転した小沢艦隊の生き残った戦艦と、空母を撃滅すべく追尾していた。

 だが、『武蔵』率いる栗田艦隊が、レイテに近づいているという報告を受け、艦隊戦の掩護の為に反転したが、結局『武蔵』は、艦隊戦ではなく、艦載機の五時間にも及ぶ、猛攻の末、撃沈された。


 『アイオワ』は、最後と言っていい艦隊戦の好機を、逃したのだ。





 視線は、再び艦橋に戻る、またしても島が見えるが、先ほどよりも大きい。


「現地より砲撃支援要請! 日本軍が、湧いて出てきたとのことです!」


 血相を変えて、一人の兵が伝令を伝える。


「噂に聞く要塞塹壕か! すぐさま砲撃を開始する! 島に残っているジャップどもを、ミンチにしてやるぞ! 榴弾装填!」


 そう言って、CICに射撃命令を下した。


「なんで私は、大きさも固さも、火力も違う人間なんて撃っているのかしらね……なんで私は、戦艦ではなく人を直接殺しているの……」


 そんな中、寂しげな、どこか怯えているような声で、アイオワは呟いていた。

 結局『アイオワ』は、最後の最後まで戦艦とは撃ち合わず、陸の上に立つ人間だけを殺し続けた、抵抗できない人間だけを。



「どんなに強い戦艦でも所詮戦艦」「アメリカに戦艦などもう必要ない」

「対地砲撃艦が海軍の旗を掲げるな」「ドッグの邪魔だ」

「なんだこの金食い虫は、早く解体所へ連れていけ」



 俺は、この言葉たちを聞いたことがある。

 必要とされなかった戦艦、栄光を与えられなかった戦艦。

 だが前に聞いた時とは違い、ただ一つとして、『アイオワ』を必要としてくれる人の声が聞えない。

 こんな環境の中で、アイオワは戦い続けたのか、空母の栄光を陰から支え、自分を必要としてくれる存在を探して……。





 そんなことを思った瞬間、俺の視線は、現代の『アイオワ』の上に戻る。


「大丈夫?」


 大和が心配そうに、俺の顔を覗き込む。


「ああ、大丈夫だ、アイオワの記憶を見ていただけだ」


 そう言うと、大和は頷き、正面に立つアイオワに視線を向けた。


「貴方がいたから、私は生まれた、でも、貴方が居なければ私は、世界最強として君臨できた、そうすれば、必要としてくれた人は、一人でもいたのかしらね?」


 俺に言葉を返すことはできない、返す言葉が見つからないのだ。

 困っていると、大和がすっと前に出て、アイオワの前に立った。


「何よ? 笑えばいいじゃない、貴方に負けた以上、私は世界最強ではなくなった、存在意義なんてどこにも……」

「あるよ」


 アイオワが言い切る前に、大和がその言葉を遮った。

 言葉を遮られたアイオワは、顔を上げて、大和の顔を見る。


「え?」

「戦艦の役割なんていくらでもある、私には私の、貴方には貴方にできることがある、たとえ私に艦隊戦で勝てなくても、貴方が私に勝てる分野はいくらでもある」


 俺は、大和が戦艦の長所を、艦隊決戦以外の所にも焦点を置いていたことに、少し驚いた。

 お前も、伊達に空母の時代を見てきたわけでは無いみたいだな、大和。


「私が、必要なの? 最強じゃない戦艦でも、必要なの?」


 俺は、アイオワの肩に手を置き、言う。


「確かに君は、大和に負けた、でもだからなんだ? 有力な戦力であることに代わりはない、大和と互角に渡り合える戦艦は、姉妹艦を覗けば君しかいないんだぞ?」


 俺がそう言い切ると、アイオワは目を潤わせ。


「ほんとに、私が必要なの?」


 そう聞いてきた、俺と大和は、視線を交わせた後、答えた。


「ああ、君が必要だ、アイオワの、アイオワにしかない強さを貸してくれ」


 俺の言葉に続いて、大和は、アイオワに言った。


「私の唯一のライバルなんだから、もっと胸を張りなって」


 その言葉を聞いて、アイオワは、大和に抱き着いた。


「ホテルって言ったことは謝るわ、ごめんなさい、そしてありがとう、私をライバルと認めてくれて、私の事を認めてくれて」


 言い終わるとアイオワは、今度は俺に抱き着いた。


「指揮官もありがとう、私を必要としてくれて」


 言い終わると、アイオワはくるりと一回転し、いつもの調子に戻った。


「Ⅿy name is IOWA! これからよろしくね、指揮官、大和」


 そう言って、手を差し出した


「ああ、よろしくなアイオワ」


 そう言って、俺と大和は、アイオワの手を握った。


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