41㎝50口径砲の砲声
「始まったみたいやな」
橋本さんは、そう言いながらモニターを見ている、その隣で、ピーナツちゃんが、スマホで写真を撮りながら、アナウンサーと話している。
「昨日の有馬さんの言葉を思い出しながら、今回も当番組は、軍の演習を、ライブでお送りします」
アナウンサーがそう決まり文句を言って、またこの番組は始まった。
「ほんとに、この二隻は大きいですね」
「ハスミもそう思うか? 確か、あいつが全長言ってたよな?」
橋本さんがアナウンサーに聞く。
「ええ、確か『大和』が263m、『アイオワ』が270mですね」
アナウンサーが解説する、今回は、解説役として軍の人がいないから、どれだけ昨日教えて貰った知識を活用しながら、番組を面白くできるかどうかだ。
「まあ、見てるだけでも視聴者は楽しいんじゃない? だって、世界一と世界一が戦うんだよ? 実質、世界大会だよ?」
そんなピーナツちゃんの言葉で会話は止まり、皆の視線はモニターに集まった。
「有馬君の、解説が欲しいな……」
俺は、静かにそう呟いた。
あの子の解説は、実に分かりやすく、そして面白かった、でもあの子の兵器に対する愛情は、正直異常なものを感じた。
それこそ、得体のしれない恐怖だ、あの子が本気で戦争に取り組んだ時、兵器を使用した時、その本性は現れることになるのかもしれない、あの子の心の中に潜む悪魔は、その時まで静かに息をひそめているのかと、あの時私は思った。
戦争なんていいものじゃない、と、君はそう言ったけど、その時の君は、飢えた獣のような目で、口元が歪んでいたよ。
まるで、狂人のようにね。
「前方艦影確認、『アイオワ』と認」
大和が、淡々と俺に報告する、俺はその報告を聞いて、大和に告げる。
「これより、戦艦『大和』の指揮権を、大和に移行する」
「え⁉」
大和は、素っ頓狂な声を上げて実体化する。
「指揮を執ってくれないの?」
不安そうな声で聴いてくるが、俺は表情を厳しくしたままで、大和に言う。
「必要なことは教えた、お前の疑問にも答えた、後は、お前がどれだけ頑張るかだ」
そう俺が言い放つと、大和は目を閉じ、大きく息を吸った。
「……了解、司令官の期待、応えて見せます!」
そう意気込んだ後、大和は艦橋の真ん中に立ち、大きな声で下令した。
「両弦前進全速! 測距はじめ!」
声が響いてから少し経つと艦体は加速され、上部に着く測距儀が、活動を始めた。
距離の測定が終る頃、速度は、最大の27ノットに到達し、『アイオワ』の姿が、双眼鏡越しに、はっきり見え始めてきた。
「第一第二砲塔、左砲戦準備! 距離調整三〇《さんまる》!」
俺は、少し緊張しながら『アイオワ』の姿を見つめる。
ちょうど『アイオワ』も、砲塔の旋回を始めていた。
「砲塔旋回完了、仰角調整完了、各一番砲、射撃準備完了!」
大和は、一つ一つ確認するように、言葉で動作を言いながら準備を進め、前方の『アイオワ』を睨んだ。
「負けないから」
無意識なのか分からないが、大和はそう呟いた後、大きな声で、指示を飛ばした。
その一瞬だけ、大和から、あの時と同じ様な、黄色い光が見えた気がした。
「各一番砲、砲撃始め!」
その一声で、前方に在る一、二番砲塔の、一番砲が火を噴く、その数秒後に、『アイオワ』の艦上にも、発射炎が煌めいた。
「だんちゃーく!」
大和の掛け声に合わせて、遠くで水柱が上がる。
ここからだと、よく見えないが……。
「着弾、全弾遠、上げ一〇〇」
零が、『零観』にのって着弾観測を行ってくれている、大和は、『零観』を、自身の直上に置いたため、相手の対空砲火で撃墜されることはない、安心して、着弾観測を行えるはずだ。
「仰角調整良し、続けて二番砲、撃てぇ!」
大和が、二度目の砲撃を行うと同時に、『アイオワ』の射弾が『大和』の後方に着弾する、まだ弾は遠く、爆圧はほとんど感じない。
「まだ遠い、二五まで引き付けてから……」
どうやら、大和には何か考えがあるらしく、細かく距離を確認している。
「全弾遠、下げ五〇」
零との連携で、着弾は確実に近くなっているが。
「仰角調整、次の砲撃で……きゃあ!」
それは、相手も同じで、どうやら先に至近弾を出したのは、『アイオワ』の方だった、艦橋からでも確認できるほどの水柱と爆圧を、俺は感じた。
「まずい、連続斉射が来る」
その言葉通り、『アイオワ』の艦上では、一度目の斉射が行われてから約30秒後、こちらの砲撃が着弾する前に、『アイオワ』は二度目の斉射を放った。
「主砲弾夾叉! 一発命中!」
そう零が報告すると同時に、『アイオワ』の一度目の斉射弾が『大和』を取り囲むように着弾する。
「っく!」
爆圧で艦が揺さぶられる、『大和』の排水量をもってしても、約1、2tの爆圧は効く。
そんなことを考えていると、『アイオワ』の艦上で、三度目の発射炎が起こり、二回目の斉射弾が落下する。
「ぐは! ッツ! まだまだあぁ!」
一発が側面防循に命中する、だがそこはぶ厚い装甲で、貫通判定は貰わなかった。
「仰角そのまま、右砲戦準備! 取り舵一杯!」
ここで取り舵⁉ せっかく夾叉弾を得られたのに……射撃位置を捨てたら、圧倒的に不利になる気がするが……。
「距離は二〇まで詰めてから、一斉打ち方!」
……読めた、大和、本気で自身の長所に懸けるつもりだな。
「回頭完了、主砲旋回完了!」
『大和』の艦体が回る間にも、『アイオワ』の斉射を受けたが、『アイオワ』も『大和』の動きを見て、面舵を取ったため、互いの射弾は当たることなく、海中へと消えた。
「零、敵の様子は?」
「『アイオワ』、速力依然として最大、回頭は終了した模様で、主砲の調整が始まっています」
零が『アイオワ』の状況をこちらに伝える、一つ気になり、俺は零に尋ねてみた。
「零、アイオワに、被弾の損害は見えるか?」
「いえ、三番砲塔に、赤い命中跡がありますが、目立った損害は出てないようです」
やはり、数発の命中弾で、『アイオワ』に大きな損害を出すのは、『大和』の主砲でも無理なのだろうか……そんな疑問を浮かべながら、俺はゆっくりと動く『大和』の主砲を見つめた。
「第三砲塔が死にかけ……クッソ!」
たった一発食らっただけなのに、第三砲塔の防循にヒビが入って、リベットが回りにくくなった……。
「shit! ジャップのくせに!」
私は、怒りを込めながら、再び各第一砲塔で、交互撃ち方を開始した、さっきの感覚で撃てば、またすぐに直撃弾を取れるはずだ。
「ええい、第二砲塔も続けて撃て!」
着弾を待たずに、私は各二番砲、三番砲で砲撃を行った。
「どうせすぐに至近弾が出るはず……」
その予想は的中し、二番砲での射撃は夾叉弾となった、私は薄く笑い、各砲塔に、連続斉射の準備をさせた。
「さあ、フィニッシュと行きましょうか」
砲塔を調整した瞬間、今私がいるCICが、大きく揺すられた。
「この爆圧、さっきのとは違う!」
私は、まさかと思い、艦橋へと体を移した、さっきまでの交互撃ち方とは、比べものにならない爆圧、それはつまり。
「斉射に踏み切った⁉」
艦橋へ移動して数十秒後、『大和』の艦上に、真っ赤な爆発光が瞬いた、さらにその数秒後、私の周りには九本の、艦橋にまで届くほど大きな水柱が上がった。
「チッ! 火力で捻りつぶすつもりね」
上等じゃない。
「全砲門、fire! fire!」
私は、連続斉射を開始した、砲身が焼き切れようとも、最速で撃ち続ける。
「お前さえ倒せば! お前さえいなければ! 私たちは、最強なのよ!」
そう怒声を響かせながら、私は約30秒ごとに、1、2tの砲弾を撃ちだす、連続斉射に踏み切った。