世界最強のタイマン
10月3日、09時15分、横浜軍港前。
「横浜軍港前には多くの人が陣取っています、この方達は皆、演習から帰ってくる戦艦二隻を待っているのでしょうか?」
私の前でリポーターは話し続けている、海側では、大きく設置されたスクリーンに海の映像が映し出され、町の方では、左翼、反戦主義者たちのデモが行われている。
「では、ここで海軍の最上位の立場にいる、彭城元帥さんにお話を伺いましょう」
そう言って、私に出番が回ってくる。
「どうも」
「こんにちは彭城さん、早速ですが今回の演習について解説をいただいてもよろしいでしょうか?」
そういって、私の前にマイクを差し出す。
「解説と言っても、昨日有馬君が話していたではないですか」
そう言うと、リポーターは苦笑する。
「しかし、元帥さんであれば、あの子より詳しい解説が、出来ると思いますが?」
やはり、有馬君は世間一般的に良い目で見られていないようだ。
「はぁ……言っておきますが、あの子より軍艦を詳しく解説できる人なんて、日本にはいないと思いますよ」
そう言ってもなお、マイクを下ろそうとしない。
「じゃあ私はこれで」
その状況に、呆れと面倒くささを覚え、その場を離れた。
「あ、ちょっと!」
リポーターが私を追いかけようとしてくるが、カメラが私に追い付く前に、今度は新聞記者が私の周りを囲んだ。
「今回の演習は、どう言った意図で⁉」
「今の日本軍は、本当に必要なのでしょうか⁉」
「アメリカとの関係性は⁉」
質問が、MMGの如く飛んでくる。
「落ち着いてくれ、順に答えるから」
私はそう言って、近づくマイクとカメラを抑えつけながら、質問に答えて行った、その途中私の機嫌を揺さぶる質問が飛んできた。
「高校生が、長官の立場にいることについて、どう思いますか?」
私は、その言葉を受けた瞬間、殺気を抑えられなかった。
「今の質問をしたのは、どこだ?」
辺りは一瞬静まり返り、一人の中年の記者が手を上げた。
「夕日新聞です、ご意見いいですか?」
「また夕日か、お前たちの質問はほんと気に障る」
そう言って、私はその場を立ち去ろうとすると。
「ちょ、まだ全社の質問に答えてないでしょ、情報を開示する義務を、放棄するのですか?」
「放棄だ? 情報をご都合よく解釈して、悪いようにしか言わないお前たちの会社に、言われたくないね」
そのまま、私はその場を立ち去った。
「まったく、めんどくさいものだ、メディアとは」
こんな環境に、若い有馬君を放り投げてしまうのは、いささか気が引けるな……。
現在、09時25分、三宅島沖。
「さて、そろそろ時間か」
俺は、自身の腕時計を見つめながら呟いた。
上空には、自衛隊の『SH60Jブラックホーク』が二機飛んでいる、運用開始1979年とだいぶ古いが、かなりの名機であるため、現在でもよく飛んでいる、この二機は、テレビ局の人間に代わって、テレビ撮影している。
「どう立ち回りますか? 司令官」
大和はどうやら、昨日の俺の言葉通り、今は、部下と上司の立場で話すようだ。
「敬語は別にいいぞ」
「……わかった」
堅苦しい敬語は苦手なのでそう伝えると、少しの間をおいて、返事を返した。
「今回特に特別な立ち回りは考えていない、正面からぶつかってぶっ飛ばす、だ」
勝敗は、キューブに秘められた乗組員たちの、熟練度で決まるだろう、なら余計なことはせず、その人たちを信じることにしたのだ。
そもそも、何か手を打たなくとも、『大和』は勝つ。
「分かった、じゃあ同航戦を目指すね」
「ああ、頼む」
大和は姿を消し、俺は艦長席に座った、意外に座り心地が良い。
「司令官、私が勝ったら、彭城艦長に、一つお願いをしようと思ってるんだけど」
大和が、声だけで俺に話しかけてきた。
「何を頼むんだ?」
聞き返すと、しばらくの沈黙の後に、答えてくれた。
「司令官を、私の艦長にしてもらいたいの」
「俺を艦長に? それって、俺が元帥レベルにならないと無理じゃないか?」
『大和』は現在海軍の中で最高位である、連合艦隊旗艦の位置にある。
して今の規則だと、連合艦隊旗艦の艦長は、桜日軍トップの人間になるということ、戦略を練るためにいる戦線長官が、トップになるなんて無理な話だ。
「詳しいことは艦長と話すよ、でも私は、司令官に艦長になっていてほしい、艦にとって艦長という存在は……」
大和が言い切る前に、辺りには、試合開始を告げるブザーが鳴り響いた。
「時間だ大和、やるぞ」
俺は、そう大和に告げる。
「うん、わかった」
少しだけ、大和は言葉に詰まったが、切り換えて返事をしてくれた。
俺は、その言葉に続くように、士官帽を深く被り大きく叫ぶ。
「連合艦隊旗艦、戦艦『大和』! 「抜錨!」」
最後は、大和の声と重なり、辺りに、重い汽笛が鳴り響いた。
「ふん、ジャップの戦艦の分際で『IOWA』に歯向かおうなんて、生意気なのよ」
私は、艦橋に立ちながら、前方の海を見つめる、私の目には、微かだが、『大和』の艦影が見える。
「兵器を愛してくれる、指揮官、私が探し続けた理想の指揮官、しかも、指揮の能力も高くて、戦艦を好んでくれる、ベリーグットな指揮官、そんなの、ジャップにはもったいないネ!」
私は、ずっと待っていた、就役した1943年からずっと、でもついに、私の求めていた人は、冷戦が終わるまで現れなかった。
「でも、100年の時を超え、出会えた運命の人、絶対に、私のものにして見せる」
静かに私は、決意した。
「もう、この世界に戦艦は、一隻で十分なのよ、私と言うBattleShip一隻で」