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ウェポンスピリッツは未来に継げる!  作者: 古魚
大規模海戦演習編
119/340

間章 決着の後に


現在、15時37分、横須賀第一工廠。



「さて、お前んとこの『大和』と『アリゾナ』の様子だが」


 西村さんは、手に持った請求書を俺に投げる。


「どんだけ鉄使う気だ!」

「すいません……」


 俺は、その請求書を見て、血の気が引いてくる。


「え、嘘こんなに……?」


 『大和』の改装案と、その他の艦の改装案、そこに『アリゾナ』『大和』『長門』『扶桑』の修理費が重なっていた。


「もともと改装案と、二隻の修理費で膨れていたのに、そこに余計な修理費重ねやがって! お前の戦艦組は何考えてんだ!」


 西村さん大激怒、まあそりゃそうか、これ全てをこなしたら、横須賀に貯蓄してある金属が全部吹っ飛ぶ、いくらか残るが、雀の涙程度だ……。


 次の輸送船が来るのって、いつだっけかなぁ。


「ほんと、申し訳ないっす」

「まあ、資金の面はしっかり提示されてるから仕事はするが、これじゃあすぐに、日本の鉄が枯渇するぞ?」


 そんな西村さんの忠告を受けながら、俺は艦体の方へ目を向ける。


「『アリゾナ』だいぶ削られてるなぁ」


 『大和』に衝突された衝撃で、左舷が凹、対空設備や副砲がへし曲がっている。


「全くだ、一体どんなことを教えたら、敵艦に体当たりするという発想にたどり着くのか、ぜひとも教えてほしい」


 そう言いながら、コルト長官が『アリゾナ』の甲板から降りてくる。


「ふん、まあ最後まで足掻く姿勢は認めてやろう」


 その後ろから、アリゾナも姿を現す。


「コルト長官、お疲れさまです」


 俺は、降りてきた長官に敬礼をする。


「『大和』を打ち倒せると思ったんだがな……その為だけに、38センチ砲を輸入したんだが」


 えぇ、その為だけに、38センチ砲をドイツから買ったってのか? イギリスの対処で忙しいドイツから? なんつうことだ……。


「実際、測距儀を壊された時は焦りましたよ」


 そんな話をしている時、隣のドッグに、もう一隻の巨艦が入ってきた。


「最強の姫を乗せた、黒鉄の城のご登場だな」


 アリゾナは、そう皮肉るように俺に言う。


「迎えに行ってやれ、鉄の城に住む、世界最強の姫様を」


 そう、コルト長官も付け足す。


 俺は、そんな二人に敬礼をし、言葉通り、『大和』に上った。





 俺が甲板に上がると、聞きなれない、誰かの声が聞えた。


「君は『大和』が好きか?」


 俺は、一瞬の間を置き、艦橋に向かって歩き出しながら、その問いに答えた。


「好きです」

「そうだな、だが私は嫌いだ」

「そうでしょうね」


 航空主兵主義の貴方なら、そうですよね。


「でも、誇らしいとは思っているぞ」

「ええ、知っています」


 艦内に入り、長い階段をゆっくりと、俺は上がっていく。


「きっと、君は私より、上手くこの子を使うことができるのだろうな」

「そうですね、そうだと良いんですけど」


 俺は、苦笑いをしながら、その声と会話しながら、階段を上る。


「君はもう知っているであろう『大和』の重要さと、素晴らしさを、大和に教えておいた、だから大丈夫だ、もうあの子は、自分を見失ったりしない」

「……ありがとうございます、貴方が言ってくださったのなら、きっと大和の心にも響いている事でしょう」


 階段を上り終え、艦橋の中に入る。


「君には、最後の仕上げを頼みたい、『大和』の存在証明を、な」

「証明、ですか?」


 艦橋の中に在る、防空指揮所に上る階段の前に立ち、俺は声に聴き返した。


「いくら言葉で教えられたとしても、それを証明してやらなければ、あの子は満足しない、だから……」

「『アイオワ』を倒して、『大和』が最強の戦艦であることを証明する、ですか」


 声の主は、最後に少しだけ笑い、気配を消した。


「娘を、頼んだぞ」


 俺は、その声を聴いてから、防空指揮所に上った、見慣れた場所に安心感を浮かべながら、そこに立って待っていた、姫の名前を呼んだ。


「迎えに来たよ、大和」

「うん、待ってた」


 その短いやり取りの後、大和は俺の体にしがみついた。


「今はまだ何も言わない、君と俺が『大和』を心から信じられるようになった時、改めて話そう」


 そう言いながら、俺は大和の頭に手を乗せる。


「その時は、司令官と戦艦ではなく、有馬勇儀と大和の関係で話そう」


 俺がそう言うと、大和は静かに俺から離れ、綺麗な敬礼を見せた。


「明日の演習、よろしくお願いします、司令官」

「ああ」


 その短いやり取りを終え、大和は姿を消し、俺は指揮所を降りた、決意を胸に秘めながら。


 明日、俺達は勝つ。

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