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ウェポンスピリッツは未来に継げる!  作者: 古魚
大規模海戦演習編
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対となる最強

 数秒の沈黙の後、アナウンサーが我に返ったのか、あせあせと言葉を絞り出した。


「あ、はい、明日もほぼすべての番組で、この時間帯に、軍の海戦演習の様子を放送します、その詳細を、有馬さんに説明してもらいましょう」


 アナウンサーに合わせて、モニターが切り替わる。

 その画面には、『アイオワ』の姿が映し出された。


「明日の大和の相手は、この戦艦、アメリカの誇る超弩級戦艦、『アイオワ』級戦艦一番艦『アイオワ』です」


 俺は、淡々と説明を続ける。


「この艦は、世界で数少ない、『大和』と互角以上にやりあえる戦艦です」


 その一言に、ピーナツちゃんは反応した。


「でも、『大和』が世界最強の戦艦なんでしょ?」


 まあ少なくとも、俺はそう思ってるよ。


「ええ、まあ、この『アイオワ』と『大和』どちらが世界最強なのかと言う論争は、昔から続いているようですが、一様言っておきますね」


 俺は、言葉を区切り、力強く言った。


「『アイオワ』と『大和』は、どちらも同じだけ強いですし、そもそもこの二隻は、作られた目的が違いますから」


 今度は、ハスミさんが反応した。


「目的が違う? 同じ戦艦なのにかい?」

「ええ、そうです、簡単に言えば、『大和』は艦体決戦用の戦艦、『アイオワ』は空母を護衛するための、または砲撃支援のための戦艦です」


 その言葉に、皆一層首を捻る。


「ええっとですね、では端的に、二隻の特徴について見てみましょうか」


 俺がそう言うと、用意してもらっていた、『アイオワ』の百分の一スケールも引っ張り出してもらい、それを『大和』の横に並べる。


「こうしてみると、二隻とも同じくらいの大きさなのですね」


 模型を見ながら、アナウンサーが呟いた。


「『大和』は全長263m、『アイオワ』は270mですからね、ただ、艦体の幅は『大和』の方が大きいので、全体的な大きさだと、『大和』の方が大きいですね」


 そう言った後に、俺は二隻の説明を始めた。


「まずは、『大和』の三つの長所と短所ですね」


 四人は、俺の言葉を聞いて体を乗り出し、『大和』の模型を見つめる。


「端的に言うと、『大和』の長所は、50センチ装甲の圧倒的な硬さ、46センチ砲の打撃力、263m×39mからくる艦体の安定性ですね」


 まあ、大体言った通りの性能だ、硬くて高火力で安定してる。


「そして短所が、いくら乗せても性能が悪い対空設備、圧倒的重量からくる燃費の悪さ、決して遅いとは言わないが早くない速力、ですね」


 どうやらピーナツちゃんは、何かに気付いたらしく口を開いた。


「さっき『大和』の対空力は高い、って話して無かったっけ?」


 おお、良く覚えてくれていた。


「はい、確かに『大和』の対空は高いですよ、日本艦の中では」

「へ?」


 ピーナツちゃんは、まだ納得していないようだ。


「日本の戦艦は、その全てが、艦隊戦に打ち勝つために設計されました、よって対空火力なんて二の次だったわけです、まあそのせいで、時代に取り残されていったわけですが」


 俺がそう言って、『アイオワ』の方の前に立つ。


「その点、アメリカの戦艦は正反対と言えます、それを踏まえて、『アイオワ』の長所と短所をご説明しましょう」


 そう言うと、一斉に目線が『アイオワ』に向かう。


「『アイオワ』の長所は、空母に随伴できる高速性、『大和』の倍の航続距離を誇る燃費の良さ、圧倒的な対空火力です」

「実際、どれくらいの高角砲と機銃が乗ってるんだい? 確か『大和』は、高角砲が十二基二十四門と25ミリの三連装機銃なんだよね?」


 よく覚えてるな、俺はそう心の中で感心し、説明を続ける。


「はい、12、7センチ連装高角砲六基十二門、25ミリ三連装機銃をメインに、サブの単装機銃なども合わせた機銃の数は、166挺です」


 俺が言うと、橋本さんは顔をしかめる。


「166本も機銃があるのに当たらないのか」


 まあ、そうゆうもんなんですよ。


「そして肝心の『アイオワ』の対空兵装ですが、12、7センチ両用連装砲が十基二十門、40ミリ四連装機銃と、20ミリ単装機銃が合計120挺ですね」


 そう言い終わると、アナウンサーが口を開いた。


「機銃や、高角砲の数は、『大和』の方が多いようですが……」


 うんまあ、数に注目するのは大事、だが、重要な事を見落としているようだ。


「ええ、確かに数は『大和』の方が設備数は多いですよ、ですが数を撃っても、当たらなくては意味がないんです」


 そう言うと、ハッと何かに気付いたのか、ハスミさんがうなずいた。


「レーダーか!」


 俺は頷く。


「ハスミさんの言う通り、当時のアメリカは、日本よりもはるかに強い対空レーダーと演算機を積んでおり、弾の命中率は、日本の倍と言っても過言ではないでしょう、そしてそこに、ⅤT信管が付けば、命中率はさらにアップ、最高の対空力の出来上がりって感じですね」


 と言っては見たものの、別に今の技術が『大和』にも入ってるから、命中率なら大差ないんだけどね。


「ⅤT信管?」


 ピーナツちゃんは、また新たな単語に首を捻っていた、他の人も分かっていないようだ……。


 まあ、そんなもんか……。


「まあ簡単にいえば、敵機の近くで、自動で爆発する対空弾ですね」


 その一言に、再び沈黙が流れる。


「え、全部そうじゃないんですか?」


 アナウンサーがその沈黙を破った。


「はい、過去の一般的な対空弾は、人力で爆発する高さを調整しているんですよ」


 まあ、今考えるとよくそれで弾が当たったなと思うよね……でも、実際手慣れた人がやると当たるんだよねぇ……。


「えっと、時間が押していますし、続きを話してもいいでしょうか?」


 俺が聞くと、司会が答える。


「あ、はい、後は『アイオワ』の短所でしたね」

「ええ、短所として挙げられるのは、40センチ主砲の打撃力の低さ、電子機器が多いので、電源がやられた時の被害、重心が上に在るため、航行の安定性がそこまで良くない、ってところですかね」


 言っては見たものの、やはり皆上手く理解できていないようだ。


「簡単に言うなれば、『大和』の長所は火力、防御力、安定性で、短所が対空力、燃費、速力です」


 簡潔な漢字だけで並べて話すと、皆うなずく。


 最初からこう言った方がよかったかな?


「逆に、『アイオワ』の長所は、燃費、対空力、速力で短所が火力、防御力、安定性ってとこですね」

「確かに、まんま反対やな」


 橋本さんがそう言って頷く。


「はい、確かに反対ですが、注意してほしいのが、別に大差ないってことです」


 そう言って、俺は二隻の主砲を指さす。


「さっきの比較は、互いを見比べた時に見れるもので在り……」


 俺は、『大和』と『アイオワ』の主砲を動かし、言葉を続ける。


「例えば主砲、確かに『アイオワ』の40センチ主砲は、『大和』の物より小さいですが、『アイオワ』が使うのは50口径の主砲で、貫通力なども考慮すると、ほぼ五角です」

「なるほど、本当にこの二隻は、同等の力を持つ戦艦だけど、作られた目的が違うから、少しだけ性能に違いがあるってことなんだね」


 さすがハスミさん、呑み込みが早い。


「そうゆう事ですね、同等の実力を持つこの二隻が明日、演習を行い、その様子を放送します、是非、どちらが勝つのか予想を立てながら、ご覧になってくださいね」


 そう俺が締めくくり、番組が終わった瞬間、四人は俺に詰め寄って言った。


「WSって本当に何なの?」

「兵器に人格があるって言ってたけどAIか何かなのかい?」

「そもそもなんで今まで隠してたん?」

「明日部下を連れてと言っていましたがそれは誰のことなんでしょうか?」


 そんなに一斉に聞かれても、答えられないって。


「さっきも言った通り、明日全て言いますから、それまで待ってもらえないでしょうか?」


 そう答えると、ハスミさんが最後に付け加えた。


「じゃあ一つだけ、そのWSたちは人格があるのだろう? ならば、人を乗せなくとも自動で戦わせられるわけだよね? なのにどうして一人で……」


 ……そうだよな、確かにそう考えるのは当たり前だ、だが、俺はそれをさせるのは嫌だ。


「……たった一人で」


 俺は、ハスミさんが言おうとした、言葉を遮って言う。


「WSは一般人からしたら、道具でしかないかもしれない、ですが、その道具に命を任せる我々軍人は、兵器のことを道具としてではなく、仲間として扱っています」


 俺は、机に置いていた士官帽をかぶり直し、言う。


「そんな仲間を、一人で戦場に出すだなんて、悲しいことをしたくはないんです、軍人たちの魂の具現体で在る兵器を、道具として扱いたくないんです」


 俺はその言葉を残して、会場を立ち去る。

 去る寸前、もう一度振り返って一言残した。


「何より、人のいない戦争は、終着点を見失ってしまいますから」


 その言葉を聞いて、ハスミさんの目の色が変わったようにも見えたが、俺は気に留めもしなかった。

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