WSを知っていますか?
「体当たり……」
万が一、主砲の命中が望めない状況になった場合、この身を持って、敵を打ち倒す……。
「やってやろうじゃないの!」
私は、気合を入れ直し、零に通信を入れる。
「零、誘導お願い」
そう言うと、零は大きく息をつく。
「やっと落ち着いてくれたのは嬉しいのですが、本当にやるんですか?」
まあ、そう言う反応になるよね、なんたって、体当たりしようってんだから。
「やるよ、演習だからって、負ける気はさらさらないもん」
私がそう言うと、零は小さな声で笑い、声を大きくして、指示を出した。
「取舵75度!」
癖をつけず、伸ばさず、聞き取りやすい声に合わせて、私は艦首を左に振った、その時、飛翔したアリゾナの主砲弾は、私の第三砲塔を叩いた。
「……ああ、そう言えば俺が言ったんだった」
画面越しで俺は呟き、口角を吊り上げた。
「一体、どうゆう状態なのでしょう……」
リポーターや、他の四人は、静かにこの戦いの行く末を見つめている、素人の目でも見てわかるぐらい、稀なことが演習で起こっている。
何も知らない側にとっては静観し、結果を見ることしかできないのだ。
そんなことを考えている間にも、『大和』はぐんぐんと『アリゾナ』に近づいていき、『アリゾナ』は避けようと、取り舵を取り始めるも。
「あと数十秒で、この戦いは終わります、しかし、このような決着の仕方は、通常はありえませんので、そこのところはご注意を」
そう俺が告げると、画面の大和は、勢いよく面舵を取り、艦中央部を『アリゾナ』の右弦中央部に近づけていく。
まさかマジで、これを実際にやることになるとは……実戦で、こんな状態はないと良いんだけど……。
「『大和』の側面が『アリゾナ』の側面に接触し! 金属音を響かせています!」
現場のリポーターが、そう大きな声で伝える、金属が擦れ、捻じ曲がる音は、カメラ越しでも伝わってきた。
「アリゾナ、覚悟!」
私は、そう叫んで止めの面舵、振られた私の艦体が、取り舵で逃げようとしていた『アリゾナ』の右舷を叩いた。
「うぐうううううううう!」
さすが32、567トンの、戦艦の排水量、そうやすやすと押されてはくれない。
「大和さん頑張って!」
零の声援を受け、私は傷ついた艦体に、鞭を打ってスクリューを回す。
「72、809トンなめるなあああああ!」
そう叫びながら、アリゾナの艦体を押し続けていると、一際大きな金属音がすると同時に、ブザーが鳴り響いた。
「勝った?」
そのブザーが鳴ると、私の演習でのダメージ判定が消え、視界が開ける、そうすると、目の前の艦には、白旗が上がっていた。
「貴方の勝ちです、大和さん」
零は、優しい声で私にそう告げた。
「勝った……よかったああああああああ」
私は、大きなため息を零しながら、その場にへたり込んだ、勝った喜びより、安心感の方が大きい、もし負けるようなことがあれば、有馬はもう二度と、私の事が見えないままかもしれなかったのだ、それを考えたら、もう震えが止まらない。
「でも、ちょっとやりすぎたかな?」
『アリゾナ』は、現在エンジンを停止して浮かんでいるが、右舷に大きな亀裂が入り、新しくつけたのであろう高角砲たちも潰されている。
「修理費、馬鹿にならなそうですね」
零もそう言う、もとより、演習弾で破壊されることはないから、私が体当たりした際、潰してしまったのだろう。
「ま、アメリカだから大丈夫でしょ」
「そうですね」
昔から、アメリカの修復スピードや、資材については、全くと言っていいほど心配していない、心配なんかしたら、それこそアメリカに失礼だ。
「有馬、大丈夫かな?」
私がそう呟くと、零が言う。
「テレビでもつければいいんじゃないですか?」
うーん、確かに見れないこともないだろうけど……
「やっぱりいいや、まだ演習の後片づけがあるしね」
有馬のことだ、私の事を、熱烈に紹介してくれていることだろう……いつもの有馬なら。
「また後でね、有馬」
そう、有馬がいるであろう方向に向けて、声をかけた私だった。
「それでは、そろそろ締めに参りましょうか」
司会がそう言って、スタジオの雰囲気を切り替える。
大和の体当たりを見終わった後、軽く演習を振り返ると、ついに、俺がこの番組に出された二つ目の理由を話すことになった。
「最後に、有馬さんからお知らせがあるんですよね?」
「なんだ? 番宣でもするんか?」
そう橋本さんは言うが。
「残念ながら僕が出演する番組はこれが最初で最後だと思いますよ?」
皮肉をこめて答えると、橋本さんは『一本取られた』と言うような表情で、カメラに視線を送った。
「それで、なんなんだい、お知らせとは?」
ハスミさんが聞いてくるので、俺は改めて名乗ることとした。
「私の名前は有馬勇儀、中佐、桜日帝国海軍、戦術的作戦思考及び最前線管理長官」
二度目の自己紹介に、皆目を丸くするが、俺は間髪入れず続けた。
「そして、ウェポンスピリッツ管理責任者で在ります」
そう、新たに付け加えると、今度は皆首を捻った。
「ウェポンスピリッツ? と言うのは?」
最初に言葉を発したのは、ハスミさんだった。
「はい、今回私はウェポンスピリッツについてご説明するためにこの会場に出向きました」
俺は、大きく息を吸って話す。
「率直にお伺いします、皆さん、ウェポンスピリッツという言葉をお聞きしたことは?」
国会内が中継されるときは、WSの名前を口に出さないようにしてきたため、きっと知らないはずだが。
「ないね」
「俺もないなぁ」
「僕もないかな」
「私も初めて聞きました」
アナウンサー含めた四人が、そう答えてくれて少し安心した、国家秘密レベルのものだ、漏れていたら、シャレにならない。
「2045年より使い始めた、過去の大戦の兵器達、先程の『大和』や『アリゾナ』達、それらの総称を、ウェポンスピリッツ、省略してWSと呼んでいます」
俺がそう言い切ると、橋本さんが首を捻る。
「それがどした? そんな言い方だけを、隠していたわけじゃないんやろ? わざわざテレビで発表するってことは」
ああそうだ、これだけじゃない、俺が説明しなくちゃならないのは。
「端的に言います、WSには、人格が存在します」
俺の一言に、会場の四人どころか、スッタフも皆あっけらかんとしている。
まあそうだよね、急に、兵器に人格があるとか何言ってんだって思われるよね。
「我々桜日軍だけでなくユニオンなどのWSのほとんども人格を持って、自立して活動しています、今回の演習もそれを利用して行っています」
「ちょっと待ってくれ、何も話に追い付けないんだが」
橋本さんはそう言って、俺の話を遮る。
「ええ、分からなくて結構です、明日全てをお教えします、自分の優秀な部下たちを連れて、軍の現状をお話しします」
俺はそう言って、微笑む。
「それでは、明日の演習について、説明と宣伝でもしておきますね」
一様、スタッフのカンペに『明日の演習の説明もお願いします』とあったので、俺は強引に話を変えた。
会場の皆はまだ、状況を飲み込めていなかった。