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ウェポンスピリッツは未来に継げる!  作者: 古魚
大規模海戦演習編
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アリゾナの奇策

「凄い音とフラッシュでしたね……」


 モニターの先に居るリポーターが、感嘆の声を漏らす。


「凄かったけどさ、なんで砲撃をやめたの?」


 ピーナツちゃんが俺に聞いてくる


「そうですね、ではまたしばらく時間が空きそうなので、戦艦同士の砲撃戦について、解説しましょうか」


 そう言って、俺は再び、大和の模型の前に立つ。


「戦艦同士の砲撃戦の命中率は、10回一斉射を行って、数発当たる程度です」


 俺は、模型の主砲を動かしながら言う。


「向きを変える回頭中などは、さらに命中率は下がるので、現在大和は、砲撃を止めたのでしょう、弾の無駄ですからね」


 俺が言うと、今度はハスミさんが聞いてくる。


「そう言えばさ、なぜ敵艦は発砲しなかったんだい? 『大和』の射程に入っていたのなら、『アリゾナ』の射程にも入っていたのだろう?」


 それが残念。


「ええ確かに、30キロ圏内なら、『アリゾナ』の射程には入っています、射程には、ね」


 そう言うと、画面越しで再び、大和の砲声が響く。


 今度は三つの砲が火を噴いている、全砲門の射線が開けたということは、同航戦に移ったという事か。


「どうゆう事なんだい?」


 ハスミさんは、一度画面に目を向けた後、再び俺に聞いた。


「大和の射程、どれくらいだと思いますか?」


 俺が聞くと、橋本さんが答える。


「そりゃ30キロぐらいだろ、さっき、それぐらいから撃ち始めたんだから」


 俺は首を振る。


「少しオーバーに言うと、約46キロです」


 俺の一言に、会場は固まる。


「二次大戦の戦艦の主砲は、基本的には、砲サイズをそのまま砲弾の飛距離と考えていただいて大丈夫です、『アリゾナ』は36、5センチ砲を装備しているので、射程は約36キロです」


 まあ実際の所は、射程約41キロちょいだが、分かりやすいようにそう説明した。


 しばらく皆の口は塞がらなかった。


「じゃあなぜ、30キロまで近づいてから撃ったんだ?」


 橋本さんはそう疑問を付け足す。

 

 まあ気になるよね、俺も最初不思議に思ってたもん、なんで最初から撃たないんだ? ってね。


「さっきも言いましたが、戦艦同士の砲撃戦は、命中率がかなり低いです、そこに距離が入ると、さらに当たらなくなります、なので、あくまで射程に入るというのは、弾が届くだけであって、当たる距離ではありません」


 皆が「ふーん」と納得したところで、大和が各砲塔の二番砲で、砲撃を行った。


「じゃあ私からも質問いいですか?」


 今度は、アナウンサーが聞いてきた。


「先ほどから、『大和』は三連装砲を、各一門づつで発射していますが、最初から、全て同時発射してはいけないのですか?」


 あー交互撃ち方のことか。


「別に、絶対交互撃ち方から始めなくてはならない訳ではありません、ただ、あの撃ち方で仰角と、旋回角を調整して、より当たる可能性が高まった時、始めて、一斉射での撃ち方を始めます、要するに交互撃ち方は試射で在り、まだ大和は、狙っている最中だという事です」


 そう俺が言い終わるのと、画面越しのリポーターが、声を上げるのはほぼ同時だった。


「今、『アリゾナ』の砲にも、まぶしいフラッシュが浮かび上がりました!」


 『アリゾナ』も、砲撃を始めたな……と言うことは、大体25キロ圏内か、ならそろそろ、大和の砲も当たっていいころだが……。


 そう思いながら、画面に視線を戻す。


「お、夾叉したな」


 最初の砲撃から、通算六度目の交互撃ち方で、大和は、敵を挟み込む夾叉弾を出した、次から斉射に以降するだろう、俺はそう思って画面を見つめていたが、先に『アリゾナ』の砲弾が着弾した。


「おお、凄い水柱ですね」


 大きくそそり立つ水柱、大和の艦橋の半ばを超えるほどの大きな水柱。


「おかしい……」


 しかし、そんな水柱に俺は、違和感を覚えた。


「何がおかしいのですか?」


 アナウンサーが、俺の呟きに気付いたのか聞いてきた。


 ああそうだ、おかしい。


「『アリゾナ』の主砲は36、5センチ砲弾のはず、あそこまで大きな水柱が上がるか? いやそんなはずはない、せいぜい副砲のあたりまでしか伸びないはず……」


 俺は、司会の言葉を聞き流して、考察を始めた。


 爆発量の大きい榴弾を使った? いやない、今使っているのは演習弾、そんな能力は無い……なら考えられるのは、一つしかない。


「『アリゾナ』の主砲が、36,5センチ砲じゃない? このサイズだと……

38センチ?」


 俺の一言に、ハスミさんが首を捻る。


「さっき自分で、『アリゾナ』の主砲は36、5センチだと言っていなかったか?」

「ええ、二次大戦中の『アリゾナ』は、間違いなく36、5センチ砲です、しかし、先ほどから上がっている水柱の大きさが、それよりも大きいんですよ……」


 米に帰っている間に、何があった……主砲の改装を行ったのか? でも、そんな報告受けてないんだがなぁ。


「しかし、たかが1、5センチ違うだけで、そこまで変わるものなのですか?」


 そうアナウンサーが聞くと同時に、画面越しで、一際大きな爆音とフラッシュが瞬く、それに合わせて、リポーターの短い悲鳴が聞こえた。

 まあ間近で、斉射の風圧と音を感じれば、声は出てしまうものだ。


「ええっと、主砲サイズの話ですね」


 斉射の姿に、皆が目を奪われる中、俺は話始めた。


「結論から言ってしまうと、主砲サイズはもちろん、大きい方が威力は大きくなります、ですが、砲の威力は口径とのバランスに在ります」


 俺がそう言うと、再び大和の周囲に水柱が上がる、やっと、砲撃戦と言えるものが始まったように感じる。


「日本や米の戦艦は、基本45口径の砲を持っています、この45口径と言うのは、主砲サイズを45個分の長さの砲と言う事です、つまり大和の主砲は46センチ45口径砲ですので、全長20、7メートルと言うことになりますね」


 俺が言うと、橋本さんが口を開く。


「じゃあさっき、君が零した、38センチ砲は、一体何口径なんだい?」


 一呼吸おいて、答える。


「アリゾナの現在装備しているであろう38センチ砲は、元はドイツの、『ビスマルク』級戦艦の主砲で、口径は、47口径という、特殊な主砲です」


 そう、38センチ砲と言うのは、元々ドイツの主砲なのだ、それを、何故アメリカの戦艦が積んだのかが疑問だ。


「その38センチ47口径砲というのは、一発の破壊力はそこまで大きくないものの、弾道の直進性が高く、狙ったところに的確に命中、さらに弾速も良好なため、貫通性に優れます、なので多少砲サイズは小さくても有効な打撃を大和に与えることができます」


 いくら大和と言えど、主砲のリベットや、エンジンを壊されれば、戦うことはできない。


「そうなんですね、しかし、どうも先ほどから、『アリゾナ』の主砲弾は、『大和』の後方に着弾し続けていますが?」


 そうなのだ、先ほどから、ほとんど『アリゾナ』の主砲が修正されず、大和の遠い後方に、着弾している、なぜ着弾を修正しないのか……。


 そんなことを思っていると、再び『アリゾナ』の砲弾が、大和の艦橋付近を通り抜けて後方に……上部構造物を、通り抜けて……。


「……まさか!」


 今俺の頭には、戦艦にとって、最悪な状態がよぎった。


「ど、どうした?」


 橋本さんが、驚いて聞いてきた。


「まさか、『アリゾナ』の狙いは!」


 そう俺が声を上げた瞬間、予期していたことは、現実となった。





「どうもおかしいですね」


 私の最初の斉射の後、零は呟いた。


「おかしいって何が?」


 私は、主砲の装填を進めながら、零に聞く。


「『アリゾナ』の着弾ですよ、さっきから……あ、今の砲撃夾叉です、仰角、向きそのままで」


 会話の間にも、しっかり着弾は観測してくれている。


「『アリゾナ』の着弾? 一度至近弾が出てから、ずっと後方に着弾してるから、まだ当たらないと思うけど……」


 私がそう答える、その瞬間、再び『アリゾナ』の艦上に発射炎が瞬く。


「どうも何かを企んでいるような……」


 零が言い終わる前に、艦橋から、『アリゾナ』の姿を見ていた私のもとに、一発の砲弾が飛んでくる。


 え? まさか、アリゾナは……。


「あああああ!」


 砲弾が視界に入った直後、私の右目は、真っ暗になった。





「大和さん!」


 私は、悲鳴が聞こえて叫ぶ、たった今、大和さんの艦橋上部に着く、測距儀に命中弾が出た、そして、その瞬間を狙ったかのように、敵水観は、全速で大和さんの上空に侵入してきた。


「まずい!」


 私は、急いで身を翻し、水観を追いかける。

 不意をつかれたからと言っても、こっちは水戦、速度では私が勝っている、全速で追いかければ間に合う、はずだった。


「大和さん⁉」


 しかし、大和さんは航空機のエンジン音を聞いて焦ったのか、対空砲火を発射し始めてしまい、私は、近づくことができなくなった、しかも、その対空砲火も、ただがむしゃらに打ち上げているだけで、当たる様子を見せない。


「ッツ!」


 私は、覚悟を決めて、再びエンジンを全速にして、大和さんの対空砲火の中に突っ込む、何とかして、あの機体を堕とさないと、何をするのか分からない。


「当たれ!」


 私は、今からでは間に合わないと思い、少し遠い所から、演習用の機銃弾を撃ち出した、しかしその弾は、敵機の下方をすり抜け、命中はしなった。

 私の射撃と、大和さんの対空砲火を潜り抜けた四機が、後部艦橋めがけて降下していく。

 まずい、今あそこを潰されたら!


「大和さん、取り舵一杯!」


 私は精一杯、大きな声で大和さんに言ったが、その声は届かなかった。

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