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ウェポンスピリッツは未来に継げる!  作者: 古魚
大規模海戦演習編
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負けてはならない

「まずは、軍ができて最初の戦い、ハワイ沖海戦ですね」


 司会が言うと、それに合わせて橋本さんが口を挟んだ。


「……そう言えばなんだけどさ、軍ができたのって、もっと前だよな? それなのに、何でこんな最近の戦いが、最初の戦いなん? これまで何も起こらんかったんか?」


 鋭い質問だ。


「どうでしょう、有馬さん」


 俺に話が降られたので、きちんと皆に解るよう解説する。

 と言うか、その質問の内容、何回か前のこの番組で、解説者が話してなかったか?


「ええとですね、確かに、各国での戦いが激化するころから、軍は生まれていました、ですが、当初は人員も兵器数も少なく、とても軍と呼べる組織では無かったため、自衛隊の一部として存在していました」


 そう、軍は最初、自衛隊攻撃特化師団という名前だったのだ。


「その後、日本が正式に、WASとの戦いに参戦することを発表したのが、2045年8月15日なので、そこで桜日軍は、自衛隊から切り離され、軍として正式に認定されました、なので、軍としての戦いは、と聞かれるとハワイ沖海戦になります」


 ま、その前に南鳥島沖防空戦やってるんだけどねー。

 この戦闘は、領域内での戦闘と言うことで、国民に不安を与えてしまうため、発表は見送られている。


 言い終わると、橋本さんは「ほおーん」とうなずき、先に進めるようアナウンサーに促した。


「それでこの海戦では、敵艦四隻撃沈、二隻に被害を与え、こちらは戦艦一隻の被害で済む大勝利だとなっていますが、間違いありませんか?」


 俺に確認を取るようにして聞いてくる。


「ええ、大まかな戦果と被害は間違っていません……あの、被害を受けた戦艦の名前って、放送されなかったのですか?」


 俺が聞いてみると、司会は困ったような顔をする。

 そんなことが必要か? とでも言いたそうな顔だ。


「いいかい、その道のプロはな、道具や使ったものに、愛情を込めるものなのさ、俺が工具を話す時も、一つ一つ略称だけじゃなくて、正式名称を言うだろ? それと同じで有馬君も、自分が乗っている船の名前を、皆が知っているのか気になるんだよ」


 そうハスミさんが言う、この人とは、どうも気が合いそうだ。


「そうなんですね……では、これから話す戦いで、使われた兵器の紹介も是非、お願いします」


 そう笑顔でアナウンサーは言う、その顔は本心なのか、作りものなのか、俺には分からない。


「でさ、結局その被害を受けた戦艦? って、なんていう船なの?」


 そうピーナツちゃんが聞いてくる。


「その艦こそが、今回演習を行う、日本に取っての、最大の矛であり最大の盾である戦艦、『大和』です」


 その一言に、橋本さんは大きく笑い声をあげ、皆が笑い出した。


「はははははは! お前、そんなにその船のこと好きなんだな!」


 え? 何かおかしなこと言っただろうか?


「いや、あまりにも君が明るい顔で話し始めたから、皆可笑しくて笑ってしまったんだよ」


 ああ、俺そんな顔で話していたのか……。


「そうですね、では、解説者が波に乗ったところで、次の戦いに参りましょうか」


 そう言って、アナウンサーは、次の張り付けられた紙をめくった。


 それから、あと二つの戦いを振り返った、俺からしたら、掘り返したくないこともあったが、ほとんどの質問に答えた。

 だが、親友である航大と、上司であった咲間長官の、目の前での戦死のことだけは、絶対に話すことはなかった。


「さて、ここまで簡単に振り返ってみたわけですが、全て完勝とは言わずとも、勝利を収めているのは、一重にどのような点があったと思いますか?」


 アナウンサーが、そう俺に質問してくる。


「そんなの、この子の作戦が上手かったんじゃないの?」


 ピーナツちゃんはそう言うが……。


「そうですね……確かに、私の作戦は上手くいったのかもしれません」


 そう言うと、橋本さんがにやけながら、


「お、自賛か?」


 そう言うが、気にせず続けた、俺の考えを。


「日本は、作戦を失敗してはいけないんです……正確に言えば、絶対に負けてはいけないんです」


 俺が言うと、ハスミさんが首を捻る。


「でも、一度も負けない戦争なんて、無理なんじゃないか?」


確かにその通りだ、でも。


「第二次世界大戦、日本とドイツは、たった一戦で、優勢から敗勢に傾きました」


 俺がそう言うと、ピーナツちゃんが喋りだす。


「はいはい! 私知ってるよ! 日本はミッドウェー海戦、ドイツはスターリングラウンドの戦いでしょ! 歴史勉強した時に、聞いたことあるよ!」


 一番知らなそうな人が、正解を出してくれた。


「はい、その通りです、そしてなぜ、それは劣勢どころではなく敗勢に直結したのか、それは、日本とドイツの国土の限界です」


 俺は一息入れる。


 皆、俺の次の言葉を待っている、その期待に応えるべく、俺は考えを述べた。


「アメリカやソ連は最初、枢軸国に負け続けていました、しかしそれを、手早く回復できるだけの人手と工業力があった、だが日本とドイツには、それがなかった、だから、一度の大敗の損害を埋めることができず、ずるずると戦力が減っていき、最終的には敗北しました」


 他にも要因はあるが、俺は、日本の負けた理由の一番は、これだと思っている。


「だけど今は、アメリカの支援があるから、昔と違うんじゃないか?」


 橋本さんの、鋭い指摘が入る。


「確かに、今はアメリカからの支援を受け取っていますが、正直、根本的な解決にはなっていません、詳しいことを話してしまうと、時間が長くなってしまうので省略しますが、現状、今の桜日帝国は、100年前の日本と、殆ど変わっていません」

 

 そうだ、日本はいつの時代も変わらない。


 内部に、大きな大きな爆弾を抱えながら、常にぎりぎりの綱渡りを続けている、持ち前の勘と技術と度胸で、渡り続けている。


 そう言うと、ハスミさんは言った。


「だから、日本は失敗してはいけないのかい?」

「はい、日本はたった一度でも大敗北を喫すれば、ほぼ100%の確率で負けます」


 俺がそう言うと、皆が息を飲むのが分かった。


「だから私はこれからも、どんなことがあろうと勝利し、この国を守ります、たとえ、どれだけの責任を負うことになっても……」


 その一言を、俺が言いきると。


「いったんCM入りまーす」


 そう言って、現場の空気を落ち着かせ、皆が休憩モードに入る、一分ほどの休みだが、ものすごくありがたかった。


「疲れた……」


 俺がそう呟くと、隣に座るピーナツちゃんが、俺の背中を叩いた。


「君すごいねぇ! テレビ初なのに、あんなに自分のことべらべら喋れるなんて凄いよ!」


 なんか馬鹿にされている気がする……。


「まあ気楽にいきなって、さっきの言葉の意味、あんまりよくわかんなかったけど、日本のために頑張ってくれるってことでしょ? それってすごいことじゃん!」


 そう言ってピーナツちゃんは、自分の席に戻る、日本のために頑張るのが凄い、か……。


「CM終わりまーす」


 そう言って、スタッフは3、2、1、とカウントして、再び放送が始まった。


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