生放送
10月02日、13時25分、大島沖。
「今日と明日の演習は、地上波で生放送するみたいですね」
そう零が、私の参謀席に座って言う。
「そうだね、今日明日は、学校も臨時休校になったらしいし、私の、日本の戦艦の強さを示す、いいチャンスだね」
私は、艦長席に座って返す。
「どう戦うつもりですか、大和さん? 火力、装甲、速力、対空火力、全てでこっちが勝っています、普通にいけば、負ける通りはありません」
しかし、相手はあのアリゾナとコルト長官だ。
「一体どんな手を打ってくるのか分からない以上、下手な真似はしない、正面からぶつかって、同航戦でアリゾナを倒す」
そう言って、私は立ち上がる。
「有馬は、実況で呼ばれたらしいし、しっかり勝っていかないとね」
今日の朝知ったが、どうやら有馬は、テレビ局に解説役として呼ばれているらしい、テレビ局は、普通の歴史学者に頼みたかったらしいが、どうやら政府が、有馬を推したようだ。
「有馬さんは、誰にでも好かれるような性格をしていますからね、それに総理的には、軍のイメージアップを図りたいという、細やかな思惑があるのでしょう」
イメージアップ?
「軍は、子供でも活躍でき、決して悪い組織ではないということを、少しでも、遠回りにでも日本に伝えて、軍の兵力を少しでも増やしたいのだと、思いますよ」
そう零が言って、席を立つ。
「あーでも、有馬がそんな気の利いたことが言えるかな?」
私は頭を捻る。
有馬は、人の心を気遣えるいい人だし、察しも悪い方ではない、でも、嘘は嫌いだ、聞かれたことは美化せずに、本当のことを言うと思う。
「まあ、有馬さんですからねぇ、そこのところは、上手くやるんじゃないですか?」
……それもそうか。
「よし、そろそろ時間だね」
私は艦橋に備え付けられている時計を見る。
現在、午後13時30分、演習開始の時間だ。
「さて、行くよ!」
私は、勢いよく顔を叩き、気合を入れる。
「両弦、前進半速!」
そう言って、私はゆっくりと、前へ進み始めた。
現在、13時00分、テレビ局内のスタジオ。
「それでは、本日最後の話題となる軍事演習についてなのですが、私達では知識不足と言うことで、今回特別に、演習の様子を解説していただくために、お呼びさせていただいた、有馬勇儀中佐さんです、今日は、よろしくお願いしますね」
そうアナウンサーが言うと、カメラがこちらを向く。
うわ……めっちゃ緊張する……。
「こちらこそ、よろしくお願いします」
俺は、そう簡単な挨拶をして頭を下げる。
その挨拶が終わると、陽気な一人のゲストが、俺に話しかけてきた。
「ねね、今何歳なの? 若そうに見えるからさ、めっちゃ気になるんですけど!」
「ぽやちゃん、急に話題ふったら、びっくりしちゃうでしょ、テレビなんて出たことないだろうから、ごめんね、驚かせちゃって」
俺に最初に話を振った人は、最近よくテレビで見ていたお笑いタレント、ピーナツちゃんだ、いつでも明るい話し方と、独創的なネタが話題になっている。
逆に、そのピーナツちゃんを止めているこの男の人は、ハスミさんだ、本名は川城蓮見、お笑いタレントで在りこの番組のコメンテーター、レギュラーを務めている。
「そうですね、ではまず、有馬さんのプロフィールから見ていきましょう」
そう言って、アナウンサーが手元の資料をめくり、話始めようとするが、それを、一人の芸人が遮る。
「そんなボード使わなくたって、本人から直接聞いた方が早いんだから! だろ? ピーナツちゃん?」
この人は、アップアップという、レジェンド芸人コンビの一人である、橋本博司、様々な角度からの正直な突っ込みで、笑いを交えながら、ニュースを考えるレギュラーの一人だ。
「そうそう! だからさ! 君何歳?」
俺は「ははは」と苦笑いしながら答える。
「今年で、18歳になりました」
そう答えると、ぽやちゃんはオーバーな反応を取る。
「えー! その年でこんな偉いの! 凄すぎて写真撮りたくなっちゃた、いぇーい!」
「何でスタジオにスマホ持ち込んでるの⁉」
ピーナツちゃんの行動に、ハスミさんがツッコミを入れる。
この人を番組に入れると、何が起こるかわからないから他の参加者も大変なのだろう、まあ、それが面白いから、出しているのだろうが……。
「でも本当にすごいよね、18歳で中佐の……何とか長官ってのに就いてるんでしょ?」
ハスミさんが、そう優しい目で、新たな質問を俺に投げかける。
「はい、軍の戦線長官……いうなれば、現場の司令官を務めています」
そう言うと、アナウンサーは、俺のプロフィールが書いてあったボードをひっくり返す。
そこには、「有馬指揮官の指揮した戦場三選!」と書かれていて、いくつか、文を隠す紙が張り付けられていた。
「有馬さんは、今まで、三つの大きな戦いで、指揮を執ったそうですね?」
アナウンサーは、ボードの紙をめくる。
「はい、ええと、民間の呼び方で言うと……ハワイ沖海戦、カウアイ島の戦い、インド救出作戦ですね」
俺は、軍の内部で言われる、ハワイ沖輸送護衛海戦、ハワイ奪還作戦、アジア電撃戦と言いそうになったが踏みとどまり、民間に伝わっている名前で言った。
「ありがとうございます、では、それぞれの戦いを振り返ってみましょう」
そう言って、アナウンサーは指し棒を取り出した。
「これまで三つとも、専門家の方にお越しいただいて、解説を行いましたが、それよりもさらに詳しい現場の方がいるのですから、もっと深いところまで、お伝えできるかと思います、よろしいですか?」
アナウンサーは俺に目線を向ける。
「はい、お答えできる範囲なら」
俺がそう言うと、アナウンサーは、慣れた手つきで、紙をめくり始めた。