第十九話 動揺
「もしもし? 父さん?」
終業式の日の夜。颯太は家の電話から父親に電話をかけていた。
『どうした?』
「夏休みに悠介が泊まりにくるんだけどいい?」
去年と同じで、了承されるのは分かってたが、一応確認の為に電話をかけたのだ、
『別に構わないが』
「ありがとう、父さん」
父親とは離れて暮らしているせいなのか、颯太には父親の声がやけに懐かしく聞こえた。
『颯太、八月の二日にそっちに行こうと思ってる』
「そうなんだ」
『すまんな、一日しか一緒にいれなくて』
「全然平気。むしろありがたいくらい」
父親は東京に残り、毎日仕事に忙しく、颯太と明里が住んでいるマンションに年に五回も来ていない。
仕方がない事であるのは、颯太も明里も理解している。だから、会えることが嬉しいのだ。
「最近、母さんはどう?」
『ああ、医者が言うには異常はないらしい』
「そっか、良かった」
『颯太、最近どうだ?』
「あー、まぁ普通に過ごしてるよ。明里も毎日学校楽しいみたいだよ」
二人で晩ご飯を食べる時には、明里は決まって学校の話をしてくれる。
『ご飯はちゃんと食べてるか?』
「うん、毎日作って食べてるよ」
『そうか。なら良かった』
「じゃあ、二日にまた」
『ああ、夏休みだからって怠けすぎないようにな』
「はーい」
颯太は電話が切れたのを確認して、受話器を置いた。
同じタイミングで、お風呂から上がったパジャマ姿の明里がリビングにやってきた。
「お兄ちゃん、次どうぞ」
「その前に、明里に伝えないといけないことがある」
「なに?」
「八月の二日に父さんが来てくれるってさ」
「本当!?」
「嘘つくわけないだろ?」
やった、と小さなガッツポーズをして喜ぶ明里。やはり、離れて暮らしているせいか、久しぶりに会えるのは嬉しいのだろう。
「じゃあ、僕は風呂に入るから」
「いってらっしゃーい」
そのまま、風呂の中で綾菜の悪夢のことをずっと考えていた颯太だった。
「ありがとうごさいましたー!」
そんな声が響くのは颯太がバイトをしているファミレスの店内。
今日は七月二十四日、金曜日。いつも通り、颯太はバイトに勤しんでいた。
夏休みに入ったことからなのか、店内にはいつもより多くの客がいた。
フロアの片付けや料理を運んだりと、とても忙しい。
「一段落ついたかな」
そう呟いたのは颯太の数少ない友人の砂川泰斗だ。いつも通りの爽やかさだ。
「ほんと、多かったですねー」
隣で溜息をついたのは一葉葵だ。イマドキの女子高生を満喫しているらしい。
「砂川先輩は来週の祭り行きますか?」
「ああ、彼女と一緒に。一葉さんは?」
「私は仲のいい友達と行きます」
そんな会話を横目にぼーっとしているのは内海颯太。
「おい、颯太? 大丈夫か?」
泰斗は颯太の顔の前に手を出して縦に動かした。反応するか確認している動きだ。
「あ、すまん。なんかあったか?」
「お前どうした? 体調でも悪いのか?」
「先輩、今日おかしくない?」
二人とも心配の目を颯太へ向けていた。
「大丈夫だろ。いつもこんな感じだし」
泰斗と葵は顔を見合わせて、お互いに首を傾げていた。
「あ、先輩は祭り誰と……あ、彼女さんと行くんだよね」
「まぁ、そうだな」
本当は泰斗も一緒に行こうとしていたが、彼女と行くと言っていたため、綾菜と行くことになったのだ。
「いいなー、私彼氏いないからなぁ」
葵は二度目のため息をついた。これに対し、颯太と泰斗は、
「その見た目だったら、困らないだろ」
「まぁ、確かに一葉さんは可愛いと思うよ」
と、息のあった連携をとった。そんな二人からの褒めに葵は、
「そ、そうですか?」
と少し頬を赤らめ、照れていた。
「お、そろそろ時間じゃないか?」
「そうですね」
そう言って、三人は従業員の控え室へ戻り、タイムカードを通した。
「じゃあ、着替えたら外で良いですか?」
「それでいいよ」
男子更衣室と女子更衣室はもちろん別であるため、葵と同級生二人は、ここで一時のお別れだ。
「颯太? おーい颯太?」
「なんだ?」
「お前、さっきからぼーっとしすぎじゃねえか?」
「あんまり寝れなかったからだな、きっと」
「また、あの夢でも見たのか?」
「いや、それじゃない」
今朝の夢は覚えていないが、優衣が出てきている夢ではなかった。
「まぁ、しっかりしろよ」
「ああ」
「遅いですよー」
従業員用の出口をでて、自転車置き場に向かう途中に葵はいた。
スマホを見て何かをやっていたらしく、スマホを鞄の中に素早く入れた。
「ごめんごめん、颯太が着替えるの遅くて」
「僕のせいにするな」
「ほんとのことだろ?」
泰斗の言う通りだ。颯太の着替えが遅いおかげで時間を食ってしまっていたのだ。
「先輩、大丈夫?」
「まぁな」
自転車の鍵を開けて、ストッパーを上げて自転車を動かした。
「じゃ、俺は帰るから」
「またな」
「お疲れ様でしたー!」
泰斗は自転車に乗り、颯太達が帰る方向と逆に走り出していった。
葵は姿が見えなくなるまで、泰斗に手を振っていた。
二人になると、いつも通る道をたわいもない話をしながら帰っている。
「先輩、なんかあったの?」
明らかなにおかしく感じたのだろうか、葵が怪訝そうにそんなことを聞いてきた。
「なんかなかったら、ぼーっとはしないだろ」
「確かにそうだけど……」
「気にするな、考え事だから」
「なんかあるなら相談乗るからね?」
身長差からの上目遣いで見てくる葵。
「その気持ちだけ受け取っとく」
いつも通り、葵を家に送った後、颯太も家に向かって急いで自転車で走り出した。
「どうしたらいいんだろうな」
と、颯太は一人で呟いた。




