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私と彼女の物語  作者: 雪桃
高校一年生(全27話)
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お預け

 時は経ち、入学式から早一ヵ月が経った。その間、新入生である高校一年生は学校生活を行うにあたってのガイダンスに加え、部活見学もそこで行われた。


「碧くんは何か部活に入るの?」


 さくらも流石に一ヵ月経てば碧の存在に慣れてくる。敬語を使わず、どもることもなく話すことができたのはつい一週間前だが、それでも十分成長したと言えるだろう。ただしまともに会話をできるのはクラス内で碧のみだが。

 今は時間割通りの授業が始まり、十分の休み時間である。


「いや、今のところ考えていない」

「そうなの? うち一応野球部あるけど」


 部活紹介も既に行われており、今はどこの部活に入ろうかという話題でクラス内で話題になっている。さくらは中学から継続して和楽部に入ることは決まっているので特に迷いはない。

 一方で新入生の碧はそれこそどこに入るか検討することが楽しい時期だろうに、全くその素振りを見せていない。


「学年委員長の仕事もあるし、勉強に集中したいから」

「そうなの」


 さくらの通う高校では帰宅部も多くいる。碧の理由も納得がいくものだ。

 さくらが一人で考えていると今度は碧の方から話を振ってきた。


「神海さんは?」

「え? 私?」


 さくらが自分を指す動作に碧は一つ頷く。


「和楽部に入るって言ってたから。家のことと勉強に加えて委員会の仕事もあるのに部活の時間ってあるのかと思って」


 委員会に無理矢理入れたのはあなただろうとさくらは嫌味を言いたくなったが寸での所で飲み込む。


「何とか時間は確保してるよ。半分の時間で以前の二倍練習してるから」

「跡継ぎっていいことばかりじゃないんだ」

(そうしたのはあなたですけどね!)


 他人事のように──他人事ではあるのだが、自分を多忙にさせた張本人が呑気だと流石にさくらも額に青筋を立てる。そんな彼女にお構いなしで碧は次の教科の準備を始めた。


「あ、そうだ神海さん」

「何?」

「来週から体育祭の会議があるから放課後一時間集まれだって。週二日」

「会議って何するの? 私達だけ?」


 さくらの質問に碧は一枚用紙を机の上に出す。どうやら先ほど職員室に呼ばれた時に説明を受けたものらしい。


「序盤は俺達だけで、ある程度まとまったら全体で会議するらしいよ。俺も初めてだから詳細はわからないけど、プログラムを考えたり来賓者の名簿作成とかするんじゃない」

「それも生徒の仕事なんだ。わかった、来週から一時間ね」


 さくらは自身のスマホで碧から見せられた用紙を撮影する。高校に入学したお祝いとして両親から新しくスマートフォンを買ってもらったさくらだが、電話とメール、簡単な写真撮影しかできないため未奈達に色々教えてもらっている最中だ。

 ちなみにメールのやりとりができるアプリには碧のアドレスも記載されている。なぜそれで送らないかと言うとさくらが一度委員会で行われた機密事項を誤送信しそうになったからである。


(一時間削るとすれば部活かな。勉強時間とお稽古の時間はこれ以上削れないし、かと言って睡眠時間を削ったら倒れるのは目に見えてるし)


 家では時間に追われる分高校ではのんびり好きなことをしていたかったさくらだが、来週からはそののんびりすることすらできなくなるという。改めて自分の断れない性格を恨むさくらだった。




「え、妖精ちゃんこれから来れなくなるの!?」


 配布早々入部届を出してきたさくらだが、委員会の事情で早々にほとんど来れなくなったことを顧問に伝えた。碧から聞いた週二日と部活が行われる曜日が丁度被っている。

 それを片耳で聞いてた彩果が即座に食いついてきた。


「ずっと来れないわけではないんですけど、放課後一時間は必ず残るので、ほとんど練習はできなくなるかもしれません」

「まあ、神海さんは家でも十分練習してますし、伝達事項だけ聞き逃さなければいいことにしましょう」

「ありがとうございます先生」


 本来長期休みはあまり良しとされないことだが、さくらに至ってはやむを得ない事態であり、尚且つさくらの実力であれば部活に来なくても演奏会に出られるため顧問は臨時で了承を出した。一方で横で聞いていた彩果はショックを隠せない様子でさくらを見た。


「この二か月間妖精ちゃんがいなくて我慢してたっていうのに、今度は多忙で来れないですって? その委員会とやらに潜り込んでやろうかしら」

「やめてください先輩。無駄に目立つでしょう」


 もちろん部活に来られないことは寂しいさくらだが、彩果が委員会に来ると確実に何かトラブルを起こすに決まっている。それくらいなら寂しさを我慢した方が何倍もマシだとさくらは冷静に考える。


「妖精ちゃん絶対に毎週来るんだよ。約束だよ」

「ええ、来ますともそれは。ちょっとの息抜きもないのは流石の私も辛いですから」


 明るく彩果に返答するさくらだが、この後その言葉が不可能になるとは思いもしなかった。


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