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私と彼女の物語  作者: 雪桃
高校一年生(全27話)
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さくらと詩織の攻防

 さくらの心がある程度落ち着いた後、他の部員はそれぞれ自主練習に入った。新入生の歓迎公演が一月後にあるため、それで大忙しなのだ。だがそれに高校一年は出ない。当たり前だがさくら達は一応新入生。今も部室にいるが実はまだ仮入部中だ。

 そのため楽器の準備をすることはできても新しい曲を練習することはできない。


「ちょっとさくらさん。何当たり前のように自主練習に潜り込もうとしてるの」

「だって仮入部ってことは好きに練習してても」

「よくありません。私達は一応見学の立場なんだから」

「私からこれ以上和楽の時間を奪わないで!」

「ちょっとくらい我慢しろこの世間知らず!」


 高校に入ってからさくらと未奈の口喧嘩が増えた気がする。それというのも元凶は基本的に二人のうちのどちらかなのだが。周りの面々はまたかと呆れるばかりだ。

 さくら達五人は暇潰しに使用されていない楽器を調整したり、高校から始まるであろう曲の本を読んだりと時間を潰していた。


「もう帰ろうよ。見学ってことはいつ帰ってもいいんでしょ」

「さくらからその言葉が出るってことはこの世の終わりが近づいてるのかしら」

「だって和楽部に来て何も弾けないって意味ないでしょ。大体なんで私達今日ここにいるの」


 さくらの純粋な疑問に未奈と泉は一拍置いて首を傾げる。その後、隣に座っていた昨夜と有季に目を配らせるが二人もよくわからないというような表情を見せる。


「彩果先輩」

「ん?」

「私達なんでここにいるんですっけ」

「知らない。私も思ってたけど何か先生に呼ばれたと思ってほっといてたけど」


 正直高校一年は部活に来なくていい。というよりも見学目的でない持ち上がり組が部活に来ていること自体がそもそも不思議なことである。


「あ、なんだ。帰って良かったんだ。わーい、練習できる」

「さくらって高校入ってから色々頭おかしくなったよね」

「多分クラスでボッチになったことと委員長になったことと学年副委員長になったことでキャパオーバー起こしてるんだよ。そっとしておこう」


 さくらが即座に帰宅の準備を始める間、未奈と彩果は彼女に憐みの視線を向けた。




 帰宅後、さくらは制服から私服に着替え、スクールバッグを部屋に置いた後、早速稽古部屋に入り楽器を手に取った。その表情はいつにも増して笑顔が浮かんでいる。そんなさくらに母・詩織は引き攣った顔を見せる。


「怖い顔してどうしたのお母さま」

「学校から帰った後にそんな元気に楽器の練習をする娘を今まで見たことがないから気味が悪いんです」


 今までのさくらと言えば帰宅後、疲労で楽器の準備さえも億劫だというようにゆっくりと行動していた。それが今日は詩織が何も言わないまでも勝手に楽器を持ち出し勝手に調弦し、勝手に練習を始めている始末だ。流石の詩織も気味悪いと思う他ないのだろう。


「だって部活では弾いちゃいけないって言われたんだもの。ただの生殺しでしょ」

「それをわかっていないのはあなたくらいでしょう」

「え、お母さまは知ってたの?」

「それはもちろん。高校に入ったのはあなただけではないので」

「あ、お姉さまのこと?」


 さくらの確認に詩織は肯定を示すよう首を縦に動かす。


「私お姉さまと違う高校なんだけど」

「原理はどこの学校でも一緒です」

「そういえばお姉さまって何の部活に入ってるの? 私全然すれ違わないんだけど」

「剣道部です。最近は空手と柔道も興味があるって言って最終下校が十九時だからってことでギリギリまで練習してるそうですよ」


 さくらとは二つ違いの姉は現在高校三年生。現在は大学受験に向けて勉学に励む時期なのだが、新学期早々毎日夜遅くまで練習しているらしい。


「あなたが和楽の練習に励むようにあの子も得意分野に励むそうですよ」

「お姉さまは将来武術系の道に進むの?」

「さあ? まあ全国大会で優勝するくらいですからそれくらい熱を入れているんでしょう」


 神海家は代々二番目の女子が跡継ぎとなる。そのためさくらが産まれた時から姉は跡継ぎ候補として除外されている。

 それに対し悲観することは一切なく、むしろ和楽に向いていなかった姉は万々歳で我が道を貫いていった。


「それはそうと、どうやらさくら、委員長になったそうですね」

「な、なんで知って」

「未奈ちゃんから聞きました。さくらは絶対秘密にするだろうから代わりに伝えておくって」

(未奈ぁ……!)


 さくらは詩織に隠れて殺意を剥きだしにする。詩織に委員長になったことがバレれば何かと面倒になるから秘密にしていたというのに。


「委員長になったということはこれまで以上に勉学や稽古への時間がなくなるということ。それならこれまで以上に力を入れて取り組まないといけませんね」

「いや、お母さま、私の体調も考えて」

「大丈夫。睡眠時間や食事の時間は変えず、短時間で全て両立させてみせます」


 詩織の本気の表情を見せられて、さくらは引き攣った笑みを浮かべた。


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