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私と彼女の物語  作者: 雪桃
中学三年生(全26話)
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自由行動

 午前の稽古が終わると部員一同動きがせわしくなった。それもそうだろう。


「片付けが終わった学年から各自外に観光に行っていいことにします。ただし必ず地元の方がいるところまでにすること。他のお客様もいるから迷惑にならないこと。貴重品は自己管理してください。点呼は十七時です。遅れないように」


 三味線をしまいに部屋へ向かったさくらは思い出したように窓の向こうを見る。だがそこには幽霊などいなかった。


「もう来ないのかな」

「何がですか」


 驚いて振り返るとさくらの後ろには弥生が立っていた。彼女もまた出かける準備をしている。


「う、ううん別に。弥生は誰かと行くの?」

「はい。同級生と。本当はさくら先輩と行きたいんですけど」

「私はいいよ。友達と楽しんでおいで」


 先にさくらが手提げ鞄を肩にかけて出て行こうとする。その瞬間弥生が呼び止める。


「そうださくら先輩。言い忘れてたんですけど」

「なに?」

「神隠しに遭ったその真矢さんには顔半分に大きな痣ができてたんですって。蝶みたいな。それってティタニアの奴隷紋みたいな証らしいです。見たら逃げてくださいねって地元の人が」

「また神隠し? ていうか逃げた方がいいの?」

「なんか奴隷紋を見た者はティタニアに引きずられて妖精の国に連れていかれるらしいですよ。まあ真矢さんに会わなければいいんですけど」

「でしょ? 大丈夫よ。一人では行動しないし」


 弥生の冗談が混じった忠告を聞きながらさくらは手を振って部屋を出た。




 さくらは旅館の人にもらった観光マップを眺めながら首を傾げた。


「どこ行こうか」


 観光地として有名な場所を教えてもらったが、まずは昼食を摂らなければならない。こういう時未奈がいれば的確に美味しい店などを当ててくれるが今日はいないので自分達で探すしかない。さくらは箱入り娘ということもあり、値段などの価値観がずれているので昨夜と有季が分担してルートを探索する。


「折角だから有名なものがいいよね。でも調べる限りいいものがないよね」

「そうなの? 結構いいところありそうだよ」

「さくらが指してるところはほうとうかもつ鍋だぞ」

「こんな真夏に食べられるものじゃないよね」


 不思議そうに二人の間からマップを覗き込むさくらを引いてスマホで調べ始める。


「あ、ここなんかいいんじゃない? 安いし」

「B級グルメか」

「びー? 何それ」

「ソウルフードとかそんなものだよ。さくらちゃん焼きそばいける?」


 さくらが首を縦に振ったので早速目的地に向かうことにした。道中気になる店があったら昼食後に寄ることを決めて三人は玄関の方へ足を進めた。


「あれ? あそこにいるの」


 ロビーにあるソファーに一人で腰かけているのは紛れもなく彩果だ。彩果はつまらなそうに宙を見上げている。彼女はさくら達に気づいていないらしいので近づいてみる。


「先輩。彩果先輩」


 さくらが手を彩果の目の前で振るとようやく気付いたらしく驚いたようにさくらと目を合わせた。


「わっ、なんでいるの妖精ちゃん!?」

「いや今から自由行動ですよ。先輩は行かないんですか。真っ先に外に出そうな性格なのに」

「ああいや、私はその……」


 視線を逸らして言葉を濁す彩果に疑問を感じる。辺りを見渡した後、さくらは名案を思いついたように再び彩果と目線を合わせた。


「先輩。一緒にご飯食べに行きます?」

「え?」

「一人じゃ行きづらかったからここで呆けてたんじゃないですか。私達で良ければ一緒に行きましょう」

「えっと、そういうわけじゃ」


 彩果が口ごもりながら断ろうとしたが、言葉を切って何かを考えている。


「……妖精ちゃんが一緒なら許されるかな」


 彩果が呟いた言葉は違うことに思考をとられていたさくらには聞こえなかった。彩果は返事を待っているさくらに笑顔で頷いた。


「じゃあご一緒しようかな。急いで仕度してくるからちょっと待っててね」


 彩果が小走りで自分の部屋に戻る。さくらはその後ろ姿を見送りながらその場で待っていた。有季もさくらの隣に立って待っている間話に華を咲かせた。


「……」


 ただ一人、昨夜だけは無言で、彩果の姿を見ながら険しい表情を崩すことはなかった。

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