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私と彼女の物語  作者: 雪桃
中学三年生(全26話)
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束の間の休息

 弥生が力説したため結局幽霊の話は有耶無耶になった。だがさくらはそれで終わりとまではいかなかった。


「神隠し……まさかあの幽霊は山に置き去りになった子どもの幽霊」

「心配しすぎだよさくらちゃん。それに今のところ何も危害を加えてきてはいないんでしょ。悪霊でないことは確かじゃないかい?」


 和楽器の準備をしながら不安に陥るさくらの隣で有季は落ち着かせる。昨夜も隣に来てスマホで何か調べた後、画面をさくらに見せた。


「確かに昔この近辺で神隠しの事件はあったみたいだが、結局全部誘拐事件だったり監禁事件だったり人間の仕業らしいぞ」

「だって。人間の仕業ってことはこの中にいれば神隠しに遭うこともないよ」


 確かに神隠しというものは人間が作った架空のものに過ぎないかもしれない。しかしさくらの気にしている点はそこではなく幽霊だ。あの幽霊が存在している理由に神隠しが当てはまっても否定はできない。


「もう嫌。あの部屋で寝たくない」

「何をするわけじゃないけど流石に僕達の部屋で寝かせるわけにはいかないよ。ていうか伊部さんにはどう説明するの」

「わかんない。でもまた今日も幽霊が頭の上に来るんだったらいっそ男子部屋でもなんなら廊下でもいいから寝たい。あの部屋にだけは入りたくない」


 落ち込むさくらを間に有季と昨夜は困ったように顔を見合わせる。さくらは──というか彼らの覚えている限り、前世のさくらこは元来『悪』や『怨念』と称されるものをよく引きつけていた。それをさくらが引きずっていないとも考えにくい。可哀想だがまだ中学生の男子部屋に少女を寝泊まりさせるわけにもいかない。そんなことをしたら完全に生徒指導行きだ。


「誰かに頼んでみたら? あ、でもさくらちゃんあんまり部員とも話したことないんだっけ」

「うぅ。こんな時に限って未奈も泉もいないなんて。必要な時にいないなんて」


 友人がいないことに腹を立てるさくらだが、泣き言をいくら出しても解決しないものはどうしようもない。三人で悩んでいると背後から足音が聞こえた。


「お疲れ様三人とも。何? なんか悩んでるの?」


 三人が一斉に振り返るとそこにはにこやかに手を振っている彩果がいた。さくらは昨日の彩果を思い出すがその前に有季が声をかける。


「お疲れ様です先輩。いいえ、大したことじゃありません。ただ演奏の仕方とかパート分けだとかで話し合ってました」

「おお。やけにやる気だね」

「まあ名門のお嬢様がいるので」


 すぐに話を切り替えられる有季に感心していたさくらは自分に話題を振られたことに数秒遅れて気づいたため、慌てて相槌を打った。


「無理しないようにね。でも今年の三年生は全員上手いから結構先輩達焦ってるんだよ」

「え、そうなんですか」

「当の本人が驚いてどうする。まあ妖精ちゃんの実力が高いことは承知の上なんだけど、他の四人も何だかんだ言って高いから。高校生は結構躍起になってるよ。後輩に注目を全部持ってかれないようにって」

「先輩達も十分上手ですけど」

「名門に言われると意外と自信がつくわね。根詰めすぎないようにだけ気をつけてね」


 世間話をしにきたのだろうかとさくらが思っているとそのまま彩果は同学年の部員の方へ行ってしまった。


「なんだっただろう」

「さあ。でも久しぶりに話したかったんじゃない。さくらちゃん昨日ほとんどいなかったし一昨日も少ししか話してないし」

「新手の後輩いじり?」


 さくらが有季と談笑している間、昨夜は離れていった彩果を見続けた。

 何も変わった様子はない。普段通り気さくに部員と会話を交わしている彩果の姿がそこにはある。その後に奈子がいる方を見る。こちらも普段と変わりのないように見える──が。


「やっぱりか」

「ん? 何か言った相澤君?」


 昨夜の視線の先にいる奈子。彼女の視線が捉えているのは楽器でも友人でもない。紛れもなく彩果だ。今は部員の中にいる彩果にその視線が向いているが、先ほど、さくら達と話していた時はこちらに向いていた。


「なあさくら。高岡先輩と未名河先輩って何かあったか」

「え、どうしたの急に」


 あったにはあったが、答えていいものかどうかわからずさくらは狼狽する。その様子を見て昨夜は更に顔をさくらに近づけた。


「何か知ってるんだな」

「いや、知ってるっていうか昨日偶然見かけたというか」

「全部吐け」

「相澤。君いつも頼み方が強引すぎるんだよ。尋問じゃないんだし普通に聞きなよ。さくらちゃんだって怯えてるよ」


 その碧眼で睨まれるように質問されて涙目になっているさくらを有季は引き剥がして庇う。


「こうしないとはぐらかされるだろ」

「関係ないよ。女の子に優しくする。これは鉄則だから」

「その女の子を操り人形にしようとした奴はどこのどいつだか」

「ちょっと痛い目見たいのかな」


 挑発する昨夜と呪符を展開する有季の間に挟まれたさくらは嫌な予感がしてすぐに二人を止めた。


「話す! わかった話すから!」


 さくらの説得により、渋々二人は休戦した。

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