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私と彼女の物語  作者: 雪桃
中学三年生(全26話)
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小説と精露山

 枯れた花びらをそのまま手に持っているわけにはいかないが、枯れたとは言え捨てることもできないので、ティッシュで簡易的に保管しておく。


「有季君。除霊はできる?」


 さくらが朝食中に何の前触れもなく突然話を切り出したので聞かれた有季はもちろん隣にいた昨夜も手を止めて驚いたような表情を浮かべながらさくらを見返した。


「ど、どうしたのさくらちゃん。まだ体調でも悪いの」


 悪気なく真剣な表情で質問しているさくらにとっては何故心配されるのかわからないとでも言うように首を傾げた。


「今日は体調いいよ。それで除霊はできるの?」

「いや、術をいくつか使えるだけで除霊はまた別の力が必要だから」

「そっか……やっぱり無理かぁ。あ、お寺の人に頼んでお経唱えてもらうっていうのも」

「待てさくら。説明しろ」


 自分の世界に入ろうとしたさくらを何とか引き止めて説明を求める。


「……言った方がいい?」

「なんで隠し通せると思ったのさくらちゃん!?」


 我に返ったさくらが急に話を逸らそうとするがもちろん通用するはずもなく説明するはめになった。


「昨日部屋に幽霊が出て、襲われるかと思ったらその枯れた花びらをもらったと」


 朝食が終わった後すぐに部屋に向かったさくらはついてきた二人に花びらを見せた。丁重にバッグの中に入れていたので一枚も欠けることはなかった。


「幽霊が持っていた時はまだ枯れてなかったの。白っぽい花びらで、私の手のひらに落ちた瞬間生気がなくなったみたいに萎れて」


 術関連に詳しい有季に試しに調べてもらおうと思ったが、有季はさくらの依頼を拒否した。


「僕の前世である有理なら強大な力を持ってただろうけど今の僕にはある程度使えるしか力はないんだ。それに前世を知る前は普通の人間だったからそこまで知識もないよ」

「そうなの? でも幽霊から渡されたものを軽々と廃棄したらなんか祟られそうじゃない」


 正直なところ枯れた花びらをいつまでも持っているわけにはいかないので早々に捨てたいと思うさくらだが、どんなものでも無神経に捨てると(ばち)が当たりそうな気がするので返された花びらを再びティッシュで包むとバッグにしまった。


「ネットでは調べられないよね」

「情報量が少なすぎてね」


 どうにか合宿が終わる前にあの幽霊にこの花びらを返したいところだが、いかんせん今見えるのはさくら一人だ。女子部屋に有季と昨夜を連れてくることもできるが弥生に説明できない。さくらが思案していると部屋の戸が開いた。


「あれ、先輩?」


 入ってきたのは同室の弥生だった。さくらならともかく別室の有季と昨夜まで部屋にいるので目を丸くしている。


「あ、ごめん弥生。今出てくから」

「いえ別に構いませんよ。なんですか? 逢引きですか?」

「違います!!」


 未奈達がいない今、揶揄ってくる人はいないだろうと予想していたさくらだが、まさか後輩に傷口を抉られるとは思っていなかった。ニヤニヤ笑いながらさくらを見る弥生に一喝する。さくらが説教しようとすると、弥生の手に何か見慣れないものがあるのに気づいた。


「弥生、それ何? 本?」

「ああこれですか。ここ今イベントコーナーみたいなことやってて。私が好きな小説があったので貸してもらったんです」


 弥生に表紙を見せてもらうとそこには『真夏の夜の夢』と書かれていた。下には作者名としてシェイクスピアと訳者名が書かれている。


「これです。一番好きなんですよ」

「ああシェイクスピア。面白いよねこれ」


 さくらの隣に来た有季が本を見て弥生に返事をした。


「ですよねですよね! 加治先輩も好きですか?」

「僕はどちらかというと悲劇の方が好きかな。リア王とか」

「顔に似合わず結構残酷なものが好きなんですね」


 有季の正体を知らない弥生が驚いたように返した。


「弥生。真夏の夜の夢って何?」

「え、まさか先輩読んだことないんですか」

「ロミオとジュリエットしか」

「えー。喜劇も見てくださいよ。面白いですよ。ね、相澤先輩」

「俺はあまり読まない」


 蚊帳の外になっていた昨夜だが、あまり小説の内容もわからないらしいのでそのまま聞き手に回すことにした。


「真夏の夜の夢っていうのは有名な喜劇です。登場人物は貴族もいますが主に妖精世界の話でもありますね。妖精王のオーベロンとその妻であり自由奔放な女王がティタニアです。話の内容は色々ありますが私はその中でも二人の夫婦喧嘩が一番好きですね」

「夫婦喧嘩?」


 物騒なものを好むとさくらは密かに思った。


「ティタニアは自由ですから、人間の子どもと妖精を取り換えっ子してしまうんです。そうやって取り換えられた方の人間が焦るのを見て笑っているティタニアに痺れを切らしたオーベロンが注意するんですけど、夫は弱気なので妻に言い負かされてってところからお話が始まります」

「でもなんで急にこの民宿地でそれのイベントが開催されたの? 関係なくない?」

「それがそうでもないんです」


 弥生が指さす方を見る。そこには精露山しかないが。


「西洋で話題になったこの妖精の森。日本ではこの精露山がモデルになっているんです」

「つまり?」

「この精露山は取り換えっ子。つまり神隠しが起きるかもしれない山と言われているんです。実際にあったらしいですよ。十年前くらいに」


 弥生の爆弾発言にさくらの背筋がすっと寒くなった。

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