4.理由
城内に敷かれた赤いカーペットの上を歩く。異様なまでに長い廊下、等間隔に設置された窓からは茜色の光が差し込んでいた。俺はただ前を向いてゆっくりとした足取りで歩いていく。
自室に到着し汚れた衣服から正装に着替ると、休む間もなく俺は外に出た。昼間の件もあり俺の足は限界に近かったが、この予定はサボれない。
「失礼します」
「うむ、座れ」
俺とユカさんは王の命で王家執務室に呼ばれていた。理由は間違いなく、地竜との戦闘の件だ。俺とユカさんは王の対角に並んで座り、その左右には上級騎士が2人立っている。これまでこの部屋には何度か来ることがあったが、この緊張感はどうしても慣れない。それはユカさんも同じだったようで、さっきから何度もこちらを見てきている。
「なぜ呼ばれたかは、わかっているな」
「はい、地竜のことかと」
「そうだ。君たち2人は今休暇中であろう。特にベル、君に関しては何時も戦闘させるつもりはなかったのだが」
「申し訳ございません」
やはりそこか。俺はこの国に必要不可欠な存在だ。それが独断で地竜に突っ込もうなんて馬鹿げた話、言い訳のしようがない。
「だが、君のおかげでユカ殿を助けることができたというのも聞いている。そもそもこれは我々の杜撰さ故招いてしまったことだ。無闇に君を責めるつもりもない」
あ、そうだ。白髪で目が座ってて、王族だし一見怖いけど、この人はいい人だった。よしさっさと謝って部屋に戻ろう。
「この度は私の勝手な行動により、ご迷惑をおかけしてしまい申し訳ございませんでした。それでは、自分はこれで」
「待て」
あれ
「あの、まだなにか」
「うむ。とりあえず座りなさい」
「はい」
俺は渋々先程の椅子に腰を下ろす。
「こうして生きて帰ってきてくれたのだから、君たちが地竜と戦ったことは大きな問題ではない。それより問題なのは地竜がなぜ王都に現れたのか、だ」
確かにそこは俺も考えていた。文献でしか読んだことがないが、地竜含め、竜種は高所にしか現れなかったはずだ。一方で王都は海に近くとても高所とは言えない。本来竜種が現れるなどあり得ない話なのだ。
「竜種が魔族ではないことは知っているな」
「はい、竜種と魔王は関わりがなく、人間や王都を襲う理由はないはずです」
俺が答えるよりもさきにユカさんが口を開いた。まあ実際に何度も竜種と戦ってきたユカさんの方が、竜種についてよく知っているのは間違いない。
ユカさんの返事に続いて王が話す。
「こうなってしまった以上、我々は竜種以上の脅威に備えて行かなければならなくなった。そのため誠に言い難いのだが」
「分かっています。もちろん私も出来る限りのことをさせていただくつもりです」
ユカさんは申し訳なさそうに話す王の様子を汲み取ってか、食い気味に言った。王も安心したのか少し表情を和らげた。
「本当か。よろしく頼む、ユカ殿よ」
「ええ、私もこの王都を愛する民の1人ですから」
そんなこんなでユカさんは不定期の王都防衛に従事することになった。当然戦闘に向かない俺には何も任されることはなかったわけだが。
「さて」
さっさと部屋に帰って寝るつもりだった俺だが、何を思ったか宮廷図書館に来ていた。別に本を読みたいわけでも、勉強したいわけでもない。ただ俺には気になることがあった。
地竜がなぜ王都に来たか、だけではない。王は気にしていなかったが地竜の動きにはもう一つ違和感があった。
それは地竜が中心地に向かわなかったことだ。地竜は簡単に門を突破したにも関わらず王都の中心地に向かうことはしなかった。いやというよりも地竜はユカさんを狙っていた、と言った方が正しいだろうか。
まだ確定したわけではない。ただ地竜が執拗にユカさんを追っていたことは紛れもない事実だ。だから俺はここに来たのだ。この宮廷図書館の蔵書数はこの国で圧倒的だ。魔物や竜種、その他多くの基本的な情報については全てここで調べられる。今日調べたいのは竜種について、そして魔王についてだ。まだそれらが関係あると決まったわけではないが、数年間魔物の出なかった村にオークが現れたこと、そしてその1週間後に地竜が王都に襲来したこと。関係を疑うには十分な理由がある。
3時間ほど経っただろうか。まず一つ分かったことは、これまでに魔族と竜種には一切の関わりはなかったということだ。加えて魔物が竜種の縄張りに入った際には、竜種と魔物が戦っていたという記録も存在した。そしてもう一つ分かったのは、魔物にも竜種を模した個体が存在していたということ。ただそれらは黒竜と呼ばれ、基本的に全身が黒色で染まっているという特徴があるようで、王都に現れた地竜には当てはまらなかった。とすると今日王都に現れた地竜はただの竜種ということになるが、だとすれば王都に来た理由が分からない。そして魔族にしろ竜種にしろユカさんを狙っていた理由も分かりそうになかった。ともかく今日はもう時間が遅い。俺は大人しく部屋に戻ることにした。




