019:大日皇和帝国
殿下は数時間に渡り悩んだ末、国名を〈大日皇和帝国〉という風に決まった。
大和帝国列伝によると2118年7月29日に、釧路県は元皇族である《豊徳 秋蘭 為臣》殿下を皇帝とする大日皇和帝国の建国した。
国が誕生した数時間後には周辺地域に、この建国が知らされる事となる。
春雷のところに情報が入るのは3日後。
「なに? 為臣が釧路県で国を建国した?」
「はい! 姿をくらましていた為臣が、釧路県の知事と計り大日皇和帝国を建国しました!」
「生きてはいるとは思ったが……そうか、国を作ったか。さすがは為臣殿下だ、安静にしていれば良いものを」
「どういたしますか? 直ぐに兵を派遣して、帝国を潰した方が良いのでは?」
殿下が大日皇和帝国を建国した事を聞いた春雷。
そこまで激しく驚く事はなく建国を聞いた瞬間、やっぱり面白いと言わんばかりに鼻で笑った。
側近は危険だから早めに潰した方が良いと上奏する。
しかし春雷は「いや、待て」と言って側近を制す。
「あんな片田舎で、国を作ったところで力など高が知れているだろう。そんなところに兵を割くより、今は関西の方に目を向けるべきだ」
「陛下の言う通りだ! 今は何としても長野を取らなければいけない、あんなところに兵を派遣している余裕は、今の帝国には無い!」
「そうだ! あんな10歳の子供に、春雷陛下の帝国が遅れをとるなどあるわけがない!」
春雷は大日皇和帝国の討伐に前向きでは無かった。
まだまだ小国で下手したら、同じ北海道地方の県に潰される可能性がある。
そんなところに兵を割くわけにはいかない。
春雷の大和帝国は関西の反春雷同盟連合との戦いで勝利し、立地として有利な長野県を取らなければいけない。
この意見に春雷の腰巾着たちは肯定し賛同し、ゴマをするように春雷を褒め称える。
独裁者とは異様なモノである。
春雷の他にも多くの地域で困惑を呼ぶ。
大日皇和帝国の東側に面している隣国の根室県も、その1つとして挙げられる。
真隣というのもあって、緊張感が高まっていた。
知事は緊急の会議として根室県の5人の郡長を呼んだ。
郡長たちも驚いており、知事の招集に対し迅速に対応して根室城に終結する。
「どうなっているんですか! どうして殿下が釧路県で、国を作るなんて事に!」
「そうだ! 皇族の方々は皆、殺されたんじゃないのか? それがどうして殿下だけが生き残って……」
「そんな事は、今どうだって良い! 少なくとも殿下は生きてらっしゃったという事だけが変わらぬ事実だ」
郡長たちの動揺は甚だしく混乱を招いている。
そんな中でその動揺を止める為、根室知事はテーブルをバンッと叩いて静かにさせる。
今は生きていたのかという話はどうでも良いから、事実に目を向けろと郡長たちを叱責した。
叱りを受けて郡長たちは「うぅ……」と冷静になる。
「それにしてもどうするんですか、知事? このまま静観というわけにもいきませんぞ?」
「そんなの分かっている、普通ならば従属して根室県を殿下にお渡しするのが筋だろう……しかし今となっては、皇族は滅亡へと向かっている。そんな泥舟に乗るわけにもいくまい! 悩ましいところだな」
知事として筋を述べた上で、今の皇族には力がない事を挙げて悩んでいる。
確かに贔屓目なしにしても殿下につくのは頭が悪い。
普通ならば皇族を殲滅した春雷軍につく方が、上に立つ人間としては正しいというもの。
しかし忠義というところもある。
主人を裏切ったとなると、もしもの時に自分たちの立場が危うくなってしまう。
すると部屋の隅にいた男が、スッと手を挙げる。
「ん? 幸政、どうした?」
「意見があるんですが、良いですかぁ?」
「本当は、お前のような男が喋られるようなところでは無いが……まぁ良い、聞かせてみろ」
手を挙げたのは郡長の部下の代官である《佐々垣 幸政》という男だった。
身長は大きいが垂れ目で、喋りの速度もスローである。
本当なら代官が意見できる場所では無い。
しかし今は困っているので、知事が意見する事を許可するのである。
「為臣殿下の下に着くのは、まだ別として……春雷に着くのは止めた方が良いと思います」
「お前が、そこまで言うなんてな。何かあるのか?」
「何があるとかではなく、春雷には決定的な欠点がありますが故、味方になれば破滅が必須かと」
幸政代官は殿下に着くのは考えるとして、今は春雷に着くべきでは無いと否定した。
理由として不完全ではあるが、ある欠陥が春雷にはあると真顔で答える。
この言葉に知事や郡長たちは「欠陥?」と溢す。
それ以上、幸政代官が答える事は無かった。
「し しかし! 今の勢いは確実に、春雷殿にある。そこを見逃して殿下に着くのは、あまりにもリスクがあるんじゃ無いですか!」
幸政代官の意見を聞いた上で、ある郡長は「それでも春雷」という風に意見する。
欠陥があるとしても勢いがあるのは春雷だ。
なのに落ち目の殿下側に着くのは、明らかな愚策。
そう考えている。
「誰も殿下側に着くなんて言ってませんよ? 少なくとも春雷に着くのは止めましょうって言ってるだけです」
「じゃあどうしろというのだ! どちらかに着かなければならないんだぞ!」
「本当にそうですか? 別に今は静観という形で良いと、俺は思いますけどね。無理して選んで破滅するよりは、少し遅れてでも行く末を見た方が良いかと」
幸政代官はひたすらに、静観するが吉と提言する。
しかし郡長たちは、とにかく早めに立場を決めたいと思っているのである。
それは早く決めなければ、その派閥での立場が危うくなってしまうと考えていたのだ。
「まぁ俺的には決定権は無いので、郡長たちが勝手に決めれば良いと思います」
「なんだ、その言い方は! 郡長である我らに無礼では無いか!」
「はいはい、すみまけんすみません」
「その態度はなんだ! ふざけているのか!」
上官への態度とは思えず、幸政代官は郡長たちに叱責を受けるが、それでも態度は改めない。
ギャーギャーと騒がしくなってきた。
そこで知事は「静まれ!」と叫んで黙らせる。
すると郡長たちは、ピタッと動きを止めて静かにさせ、知事は「うんうん」と頷く。
「とにかく幸政の言う事も確かだろう。急いては事を仕損じるって言葉もある事だしな」
「しかし知事のお立場は……」
「俺の立場なんて、どうだって良いんだよ! どちらにしても力がなければ上に這い上がる事はできないからな」
知事は幸政代官の言う事も理解できるので、急がずに様子を見てから判断しようと静観路線を進む事にした。
必死に郡長たちは反対する。
しかし早く仲間になろうが、後からになろうが力がなければ這い上がれないのも同じだ。
だから今は様子を見るのが吉であると判断した。
もう覚悟を決めているようで、郡長たちは知事を説得するのを諦めたのである。
「静観するにあたっても大日皇和帝国への監視の目は、絶対に緩めないで欲しい。何か少しでも動きがあったら、俺と他の郡長たちに知らせろ」
『はっ!!!!』
静観すると言っても帝国への情報は、常に集めるように指示を出す。
何か動きがあったら、些細な事でも領地内の支配階級に知らせろと指示する。




