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1/4話 入学式。


 魔術師。それは、この世界の理を操る術……魔術を扱う人間。人々は太古から、この魔術という奇跡を扱い、文明を発展させていった。

 ここは、そんな人類の作り上げた魔術大国の一つ、エルネス。その首都であるエレインの街道を、一人の少女が走っていた。


「はぁ、はぁ……こ、このままじゃ、遅刻しちゃう……!」


 少女の名はメルト・コールソン。青髪のポニーテールは、彼女が一歩を踏み出すたびに揺れ、健康的なその体からは艶やかに汗が流れる。

 彼女の格好は、通り過ぎていく平民たちの格好とはとても似つかないものであった。彼女の着る服……それは、いわゆる学生服と呼ばれるものである。

 何を隠そう、この少女は、エレイン国立魔法学校に入学した、新入生なのだ。


 エレイン国立魔法学校といえば、この国では最高レベルの魔法学校だ。その入学資格を得るのは難しく、貴族ならまだしも、基礎の教養を満足に受けられない平民が入学するのには相当な才能と、血が滲むほどの努力が必要だ。

 しかし、一度入学すれば、学費はタダ同然、大きな寮での生活、大量の高価な書物と優秀な教師たち、そして……一度得れば、一生金に困ることはないとされる、魔術師の国家資格を得ることができる。平民からすれば、まさに、夢のような暮らしが約束されるのだ。


 メルトもまた、平民の仕立て屋の出である。己に魔術の才能があると分かった時から憧れていた魔法学校。残念ながら、彼女の家には満足な金がない。それ故に、エレイン国立魔法学校に通うために、必死になって勉学に励んだ。それこそ、血が滲むような努力である。

 数少ない、平民出身の入学生。ここに住まう平民たちからすれば、彼女は期待の星だ。


「よう、メルトちゃん! 今日から学校か、頑張れよ!」

「はい! ありがとうございます!」


 通りがかる大きな丸太を持った男から、暖かい声援がかけられる。急いでいる身ではあるが、彼女はしっかりと返した。

 彼女は、男の言葉を胸に、走る速度をさらに上げていった。




「あ、来た来た。遅いよ、メルト!」

「ふ、ふぇぇ……置いていくなんてひどいよ、エリー……」


 学校の大講堂に入ると、後ろの方の席に彼女の知り合いが座っていた。

 彼女はエリー・ハーレイ。金髪ショートのスレンダーな女の子で、彼女と同じく平民の出だ。昔馴染みで今でもよく交流がある、気の知れた仲だ。


「寝坊するあんたがいけないんじゃない。待ち合わせまでして……私が何分待ったと思ってるのよ。さあ、あとちょっとで集会始まっちゃうから、座った座った!」

「う、うん!」


 急いでメルトは、エリーの左隣の席に移動する。

 まだ彼女のあとから大講堂に入ってくる人もいて、席もまだ全てが埋まっているわけじゃない。


「ねぇ、エリー。これって適当に座ってていいのかな?」

「大丈夫大丈夫。教師が自由席だーって言ってたんだから。それに、こんな後ろの席には流石に変な貴族も来ないだろうからさ。あ、そろそろ始まるよ」


 その言葉を聞いて、メルトは前に視線を移す。講堂の壇上に、3人ほどの教師らしき人物が上がっていた。

 そのうちの一人、眼鏡をかけた、壮年のスマートな男性が前に出てしゃべり始めた。


「ようこそ、新入生諸君。私はこの学校の教頭であるジオ・バークレーだ。これから入学式を執り行う。これからすぐにこの学校の学校長の話があるので、皆、しっかりと聞くように」


 その言葉と同時に、ゆっくりとした足音が響いてきた。前方の、壇の端のあたりからだ。

 一歩、一歩。聞こえてくる足音に、メルトは息をのむ。


 エレイン国立魔法学校の学校長、エレノア・シャノアール。この国最強の魔術師と名高く、その異名は『全能』。しかし、普段人前に出ることはなく、相当な名家の貴族であっても、その姿を知る者はめったにいない。おそらくこの場にいる生徒の全員も知らないだろう。メルトの前からも息をのむ音が聞こえるのがその証拠だ。


 壇上に上がってきたのは……幼女であった。


 はじめは何かのドッキリだと思う生徒諸君。しかし、その少女が現れると同時に、先に登壇していた教師は軽く会釈し、その場からはけていくのだ。間違いない、彼女がこの学校の校長、エレノア・シャノアールだ。

 その幼女は生徒らの方を向くと、コホンと一つ咳払いをして、話し始めた。


「あー、コホン。えーと君たち、まずは入学おめでとー。私はエレノア。さっきこのメガネが紹介してくれたけど、一応ここの校長をやっていまーす」

「なんだ、ここの校長は。あまりやる気がなさそうだな」

「そうだn……え?」


 突如左から声が聞こえ、驚くメルト。そちらを見ると、先ほどまで何一つ気配を感じなかったはずの隣の席には、一人の少年が座っていた。


「え、えと……?」

「ああ、すまないね。私はハルト・ベルトラン。同じ新入生だ、よろしくね」

「ああ、はい。私はメルト。メルト・コールソンです。よろしくお願いしますね、ハルトさん」


 差し出された手を快く握るメルト。その間彼女は、まじまじと彼の格好を見てみる。

 彼の服装は間違いなく、この学校の男性用の制服だ。学年を表す腕のバンドの色も赤……今年の新入生の色と相違ない。茶髪で、顔も悪そうではない。むしろ穏やかで取っ付きやすそうだ。

 会話の声が聞こえたらしく、エリーも校長の話そっちのけでこちらの話に混じってくる。


「あれ。メルト、その人誰? 彼氏さん?」

「え、エリー。変なこと言わないでよ……。えと、この人は同じ新入生の……」

「ハルト・ベルトランだ。よろしくね」

「なんだ、つまらないの。ああ、私エリー。同じ新入生同士、平民同士仲良くしようね。それで、なんの話ししてたの〜?」

「いや、軽く挨拶しただけだよ」


 そうこう談笑している間にも校長の話は進んでいき、いつのまにか校長は降壇し、再び、最初に登壇していたジオ・バークレーが話を始めていた。


「それではこれから、君たちの過ごすクラスを発表する。成績や魔力量の上の方から決めていった結果だ、文句は受け付けない」


 この学校では、己の実力に応じてクラス分けが決まってしまう。残念ながら、これにはどんな貴族が金を積もうと、このクラス分けに介入することはできない。

 その方法は、入学試験の得点や、己の魔力量から決まる。その総合点が優秀な生徒を1組から順に当てはめていくのだ。そのため、この学校にはカーストのようなものが存在するのだが……新入生の、それも平民の出の者たちには、そんなものはわからない。


 1組から順に、成績優秀者から順に発表されていくが、彼女たちの名前はまだ呼ばれない。ついにクラスは、最低クラスの20組の発表に移っていた。


「次、エリー・ハーレイ! 771位! 試験は398点、魔力量は250点……総合点は、648点!」


 試験と魔力は双方500点満点で採点されている。一般人であれば、その魔力量は50点に満たないことが多いため、250点もあれば相当量とも言える。

 しかし、このエレイン国立魔法学校では、その値ですら低いと取られてしまう。先に発表されていった1組などの連中は、軽く400点を超えているためだ。少し上のクラスには、これより魔力量が低い生徒もいるにはいるが、大抵そうした人間はいじめの対象になってしまう。


「うーん、点数、存外に低かったなぁ……」

「でも、合格できたんだからいいじゃない。私なんてまだ呼ばれないしぃ……本当に受かったのかなぁ?」


 ちなみに余談ではあるが、入学ラインは総合点数で500点である。

 なんだ、簡単じゃないかと思うかもしれないが、残念ながらここの入試の難易度はトップクラス。そこらの平民が……いや、たとえ名門の貴族だとしても、魔力が少なければ、合格にはそれこそ並々ならぬ努力が必要だ。

 しかし、何故魔力が多い人間が優遇されるようなシステムなのだろうか。それは、この世界の一般常識とやらが原因なのだ。


 昔、こんなことを言った魔術師が居た。『魔術の知識をいくら溜め込んだところで、相手との魔力の差が二倍以上あれば、例え相手に教養がなくとも、勝つことは敵わない』と。この言葉自体は、この世界における魔力の性質によるものである。

 魔力が持っているのは、魔術、魔法という、術式を用いて現象に手を加える力だけではない。ただ単純に魔力を集中、付与させるだけで、物を強化したり、壁となるように放出させたりすることで魔法を防いだりすることができるためだ。先の言葉は、本来ならばこの性質の事を踏まえた上で、魔力の少ない人を哀れむ皮肉である。

 現在ではさらに魔力至高主義の風潮は高まりつつある。そもそも、魔力がなければ魔術は使えない。魔力が多ければ多いほどに、行使できる魔術のレパートリーや回数は増える。知識だけを詰め込んだ頭でっかちなだけの魔術師と、知識も豊富で、それらを行使できる魔術師では、後者の方が価値が高いとされるのは必至だ。

 

「次、メルト・コールソン! 試験は……490点! 魔力量は111点で、総合点は601点! 順位は803位だ!」


 ほんの一瞬、場が騒つく。490点。この点数は、1組の一位が取った点数と同じだからだ。そして、今まで発表された人の中に、この点数を超える点を取った人はいない。


「す、すげぇ……」

「へ、平民のくせに……」


 なにやら尊敬以外にも、恨みがましい言葉が聞こえたが、そんなことは、今の彼女に気にかからない。


「おお! メルトは頭がいいんだな!」

「え、えへへ……そんなことはないですよぉ〜」

「流石は本好きだねぇ、頑張った甲斐があったじゃない」

「え、エリーだって、私より魔力量高かったじゃん!」

「……魔力量、ねぇ」


 490点。この点数だけでクラス分けがされるのであれば、彼女は間違いなく1組だった。魔力が低くなければ、こんな底辺のクラスにいなかったのに……。エリーはそんなことを思い、スカートの裾を強く握る。


「でも、803位かぁ……」


 今回の新入生は811人。803位は、下から数えて9番目……。魔力量がもう少し多ければなぁと、己の運命を少し恨みがましく思う。


「でも、ハルトさんも全然呼ばれないね」

「ふふふ。さあ、なんでだろうね?」

「もしかして……魔力量だけ凄いあって、ものすごいバカなんじゃない? ねぇねぇ、どうなのさハルトくん〜?」

「まあまあ、あともう少しで全員呼ばれるから、しっかり聞こうよ」


 バークレーは、残りの人も次々と呼んでいくが、未だハルトの名前が出る気配がない。もしかしたら不合格者なんじゃないか? まさか最下位? なんて考えながら、二人はドキドキしてバークレーを見つめる。

 そして……最後の一人となってしまった。バークレーはゆっくりと、その一人を呼ぶ。


「最後は……ハルト。ハルト・ベルトランだ。えー、入学試験の得点は……500点。魔力量は……10点だ」


 緊張感のなかった、緩み切り、話し声の聞こえていた大講堂が、一気に静まり返った。


「う……うそ……? あの試験を……満点?」

「し、しかも、魔力10って……平民以下じゃねぇか!?」


 メルトとエリーは、驚きに目を見開き、隣にいるハルト本人をちらりと見る。

 成績最低辺のその男は……なぜか誇らしげにふふん、と鼻を鳴らした。

 こんにちわ! 今回初投k……えー、二度目の投稿となります、五六一二三でございます。

 この作品を見てくれた方々……御精読、誠にありがとうございます。至らぬ点がございましたら、感想なんかにドシドシ苦情を入れてくださいませ!

 次回の投稿は……明日のこの時間あたりに投稿させていただきます。ではでは、今後ともご贔屓に……。

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