2/4話 クラス
この巨大な校舎の一室、彼らは担任の案内の元、1年20組の教室にたどり着いた。
「さあ、ここがお前らの教室だ。さっさと入りな」
そう言うのは、眼帯をつけたグラマラスな女性。いかにも魔術師といった感じの黒いローブと三角帽子で、鋭い視線と男らしい口調が、一部の男女の心を射抜く。
「あ、あのぉ……席は……」
「あ゛あ゛ん!? んなもん勝手に自由に座っとけや!?」
「ひぃぃ!?」
メルトがおどおどとした様子で話しかけるが、激しい口調での返しにさらにビビってしまうメルト。
その、担任の気難しい様子を見て、他の生徒たちもビクビクとしながら教室へ入っていく。
適当な席にみんなが座ったところで、教師の女性は、教壇に上がって話し始めた。
「お前ら、これで全員だよなぁ……? えーと……しっかり42人いるな。よし、そんじゃあ自己紹介だ。俺はリネイア。気軽に名前で呼ぶんじゃねえぞ貴様ら?」
「「は、はいぃ〜……」」
「元気がねぇなぁ……? おいっ!!」
教卓が強く叩かれ、バンッ、と大きな音がなる。生徒のほとんどがびくりと肩を震わせ、力強い言葉で返事をした。
「「は、はい! 先生!」」
「よっし、いいぞ貴様ら。今後も何かあればその調子で返事しな。良いか? 貴様らは全員ゴミクズだ。例え家が良かろうと点が良かろうと魔力が多かろうと、今の貴様らは、魔術のまの字もしらねぇ雑魚だ。違うか?」
「「はい! 先生!」」
「ほう、今の一度でちゃんと学習したな。貴様らは雑魚からよく訓練された雑魚に昇格したぞ、良かったなぁガキども。これから貴様らは、ここで学習している四年間のうちに、その雑魚を卒業しなきゃならん。んで、それを支えてやんのが俺ら教師だ」
そう言って彼女は、今度は自身の背後にある教卓を強く叩いた。
バンッ、という強い音とともに、白いチョークの粉が舞い上がり、それらが黒板に文字を形成していく。書かれたのは、この学校の校則や、本来口頭でも伝えねばならない連絡事項だった。
リネイアの起こしたこの現象に、生徒たちはおおっ、と声を上げる。
「これが魔術だ。といっても、魔術の中ではまあ簡単なもんだがな。貴様らも、少し究めりゃこんくらいのことは出来るだろうよ。だがな、それは大してすごいことじゃない」
その後小さな声で「まあこんなことはどうでも良いんだよ」とぼやいて、彼女は、手にしていた自身の身長ほどの大きな杖を軽く振る。黒板に書かれたその文字は形を変えて、次は可愛らしい絵に変わる。
描かれたのは二人の人。二人とも彼女のような帽子とヒラヒラしたマントをつけて、小さな杖を一本持っていた。
「貴様らは段階を踏んで魔術を教えられていく。まあ学年が上がれば、いくつかの系統に分けて得意分野を伸ばしていく方向になるが……そんなことは今はどうでも良いな。最初に貴様らに教えるのは、基礎魔術の初歩とか、簡単な防衛魔術だ。ほれ、前の貴様。初歩的な防衛魔術の例を出しな。なんでも良いぞ」
「はい! で、では……『小さな電光』で……」
「『小さな電光』か。応用魔術でも中々古い奴だが……まあ、いいだろう。例えばこの『小さな電光』を貴様らが学んだとしようじゃねぇか」
そういうと、絵が動く。左の魔術師から吹き出しが伸び、そこに簡単な電気の絵が描かれる。
「んで、さらに貴様らはどうしようもなく幼稚な人間だったとしよう。例えばこの『小さな電光』の効果がどんなものか、実際に見て見たくなって、おふざけ半分で友達に撃っちまうわけだ」
左の魔術師がチョークで描かれた電気を放ち、右の魔術師は感電してしまう。
「この時、使った貴様らになんらかの問題が生じたとしよう。この『小さな電光』ってのは、西洋の術式を組み合わせたマイナーな魔術で、威力への変換効率自体は悪いが、ぶち込まれた魔力量に応じて威力を増す性質がある。この時お前さんは使い勝手が分からんからと、大量の魔力を注ぎ込んじまった。するとどうなるか……」
リネイアは黒板に杖をぶつける。絵は再び形を変える。
次の絵では、右の魔術師は黒焦げになり、死んでいた。凄く可愛らしい絵で、抜け出た魂には天使の輪や羽がつけられている為少々教訓にしにくいが、それでも伝えたいことはわかる。
「こんな感じで、見事一つの死体の出来上がりってわけだ。良いか? 貴様らがここで学ぶ魔術ってやつの中には、少なからず人を殺す魔術ってのがある。それが事故であれなんであれ、それを使って人を殺しちまえば貴様らは魔術師でも生徒でもなく、ただの殺人鬼だ。だから必死で理解しろ。その危険性と、その有用性を。んで、間違った使い方もちゃんと覚えろ」
その言葉に、一部の生徒が首を傾げた。一人の女子生徒がたまらなくなり、手を上げて質問する。
「先生!」
「おう、なんだおさげ眼鏡」
「おさっ……こほん。えっと、なんで間違った使い方なんて覚えなきゃいけないんですか?」
「はっ、くだらん質問だな。この程度もわからんとは、貴様の頭は犬かそれ以下だぜ」
その口の悪さに少しムッとするが、彼女はそれ以上何も言わず、黙って席に座る。
「その質問に対する返答はこうだ。つっても、ほとんどの奴はわかってるだろうがな。それは、間違った使い方をしないため、させないためだ」
黒板のチョークはゆっくりと落ちていき、黒板は綺麗な状態に戻る。
「貴様らが正式に魔術師になったら、貴様らはいろんな義務を課せられる。その中の一つが、他者を守る義務だ。貴様らのもらった力はあくまでも抑止力。使わなきゃいけない状況に陥らない限りは、絶対に使うんじゃねえ。そんで、間違った使い方をしようとした奴を、全力で止めろ。良いな雑魚ども?」
「「はい! 先生!」」
「……んでもって、困ったことにこういうのってお偉いさんほどわかってねぇんだよなぁ……」
そういうと、彼女は気だるそうなため息を一つ漏らす。
「良いかぁ……? こういうの、教師から言うのってどうかと思うんだけどよぉ。お前ら、あんま上のクラスの連中と関わらんようにしろよ。あいつら、みんなガキみたいに力振りかざして下のクラスの奴を弄るから、正直めんどくせえんだよなぁ。一部の輩は変に権力持ってるから下手に口出しすると首切られたりするしよぉ〜。貴様ら、上のクラスとのゴタゴタは勘弁しろよな、俺のために」
「「は、はい! 先生!」」
「よし、それじゃあ今日は解散だ。お前らの大好きな勉強は明日からだからな……。そいじゃ、適当にプリントここに置いていくから、勝手にとってけよ〜……ああ、かったりぃ……」
そう言い終えると、リネイアはゆっくりと外に出ていき、教室の扉を閉めた。教師がいなくなったことで、皆が一様にため息を漏らす。
「はぁ〜。あのリネイアって人、凄かったね……」
「あの視線とか、絶対やばいよなぁ。人でも殺してるんじゃない?」
「おや、君たちは知らないのかい? 『赤熱のリネイア』を」
後方に座っていたメルトとエリーの会話の間に、前から誰かが割り込んできた。
そこにいたのは、金髪の、あまり顔の良くない爽やか青年。見た感じ、貴族だ。
「『赤熱のリネイア』といえば、この学校でも五本の指に入るレベルの魔術師だぜ? 最も1組の担任の『雷帝』には及ばないだろうがね」
「えっと、あなたは……」
「ああ、俺様かい? 俺様はディル・マック・レヴォン。男爵の爵位を持つレヴォン家の次期当主さ。爵位はまあそんなでもないけど、そこそこの名家なんだぜ?」
そんな感じで、彼は二人にウィンクする。正直きもい。彼女らの笑顔が少し凍りついた。
「で、その『雷帝』って言う人は、どんな人なんだい?」
「それは、教頭の隣にいた金髪の爽やかそうな美男子……待って。君はだれだい。それもいつからそこにいたんだい」
そこにいたのは、ハルトだった。ハルトはディルの隣の席に座り、彼の方に身を乗り出すようにして話に入って来ていた。
「あ、ハルトさん!」
「うん、二人ともさっきぶり。で、『雷帝』ってどれくらいすごいんだい? 王国の何番目くらいに強いんだい?」
「ま、まてまて! そんな畳み掛けてくるな! そもそも、貴様みたいな魔力のないゴミが俺に話しかけて良いと思って……」
「ねぇねぇ、その『雷帝』は一体どんな魔術を使うんだい? 教えてくれよ、ディルくん」
「ええい! 気持ち悪い! わかった、教えてやるからもうひっつくなぁ!」
そうして彼は咳払いを一つし、割と懇切丁寧に話し始める。説明はわかりやすく、いつのまにかエリーやメルトもそれに聞き入っていた。
「……と言うわけだ。彼はこのままこの学校の教師にしておくには惜しいほどの強者なんだよ」
「なるほど。色々教えてくれてありがとう、ディルくん」
「ディルさんって、ものを教えるのが上手いんですね」
メルトからそう言われると、ディルは心底嬉しそうに胸を張る。
「まあね。俺様はこんな教養のなっていない平民のゴミじゃあるまいし……」
「ねぇ、その、平民のゴミっていうの……」
「ええっと、私たちも一応平民なんですけど……」
「いやいや、君たちはいいんだよ、美人だからねぇ。こいつはダメ。女じゃないし、綺麗じゃない」
そんな風に談笑していると……。
「ねぇ、ここにメルト・コールソンって女はいないかしら? 少しお話があるのだけれど?」
教壇のある方から、そんな声が聞こえた。そこにいたのは……体躯の小さな金髪の少女だ。
「げぇっ!? あれは……!」
「え、えと……わ、私がそうで……」
「ちょっと、メルトちゃん! あの子には関わらない方がいいって!」
手を上げ用とした彼女をディルは静止させようとするが、すでに彼女は気がついていた。金髪のその少女は、ゆっくりとこちらに近づいてくる。
「ど、どうして制止しようとしたんですか?」
「ま、まずいって! あれはこの国の大貴族の、それもわがままで自分勝手で有名な女だ! その名も……」
「リズベット・エル・リヴィエールよ。よく覚えておきなさい、下民」
すでに目の前にいたその少女が、3人ほどの取り巻きを引き連れ、そう言った。
ここまで見てくださった方、ご精読、誠にありがとうございます。前話も見てくださった方々には、ほんとになんとお礼を言えば良いか……。ほんと、ありがとうございます!
とにもかくにも、この作品をより多くの人に見てもらえるよう、日々邁進してまいります! ……もう受験生なので、ほどほどに、という言葉が付きますがね。
ではでは、またのお越しをお待ちしております。




