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【コミック&書籍発売中!!】奴隷に鍛えられる異世界生活【2800万pv突破!】  作者: 路地裏の茶屋
第五章:スタンピード編【蜘蛛の女王と恩師から託されたもの】

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第八十七話:蜘蛛の女王「テオドラ」

―――ある魔物研究者の手記―――


 最も恐ろしく、そして魔物を研究する者にとって最も興味をそそられる存在とはなんだろうか?

 議論の余地はなく満場一致で『魔王種』であることは間違いないだろう。


 魔王種とは一体なんであるか

 一つ、人類に対する最大の脅威

 一つ、種としての魔物の到達点

 一つ、英雄と呼ばれるための試練


 こんなところだろう。魔王種の出現は決まっていない。数十年かけゆっくりと力を付けてから群れをつくることもあれば、生まれた瞬間から群れを持ち自分の種を統べるものもいる。

 確認されている中で数が多い『魔王』はゴブリン・キング、オーク・キング、クイーン・アントなどが上げられる。

 どれも魔物としては質よりも数で恐れられる種であることがわかるだろう。

 巣を広げること以外に強い関心を示さないクイーン・アントはともかくゴブリン・キング、オーク・キングは単体でもA級冒険者パーティーでなければ倒すことは難しく、群れを率いるなら軍が出なければ鎮圧は不可能とされる(転移者と呼ばれる例外はある)。

 魔王種の出現には地脈の魔力が深くかかわっているとされているが、地脈の魔力が少ない場合でも出現した例があり、詳しい関係性は不明である。

 

 魔王種と呼ばれる魔物は、単純な身体能力や魔力はもちろん特別な能力を備えている場合が多い。

 例えばゴブリン・キングやオーク・キングは群れの繁殖力を強め、クイーン・アントは環境に応じた新種の子供を産み落とせる。どれも群れを強める能力だ。


 上記の魔王種を先にあげたのは、これが一般的に認知されている魔王種としてのイメージに近いものだからだ。


 これより述べるのは文献も少ない、より希少な『魔王』についてである。


 群れを強める魔王がいる一方、『個』としての強さを極める魔王種も確認されている。

 それは生存を群れに頼らず『個』で活動する魔物の種から生まれる。

 確認例はほとんどないが、「ヴァンパイア・キング」「オーガ・キング」などはこれに当たる。

 こういった魔王種は、自身の種以外の魔物も従わせる傾向にある。

 伝説ではオーガ・キングとされる「シュテン」と呼ばれたオーガは数百種類もの魔物を従え『百鬼夜行』と呼ばれる軍団を作った。

 己の強さを示して結果的に魔物が集まり群れをなす。これが『個』として魔王となった種類の特徴である。単体での強さは『群れ』としての魔王種よりもさらに強力であり、倒すのは途方もない犠牲が必要となるだろう。


 救いとしては『個』としての魔王の出現は『群れ』の魔王種よりもさらに少ないといったところだ。

 ……もっとも、それは我々人類が発見できていないだけで、すでに魔王は生まれて落ちているかもしれない。


――――――――


 追記:アラクネについて

 

 テントゥ・アラクネ。冒険者であるならB級以上で討伐クエストを受けられる魔物である。

 アラクネ種のユニークモンスターとされる。アラクネとは、人間の女性の上半身に蜘蛛の下半身がついている魔物であるが、大半は辛うじて人間のような上半身で一見して魔物とわかる見た目である。

 しかしテントゥ・アラクネの上半身は見目麗しい女性といって差し支えない。

 なぜ魔物であるアラクネが人間に擬態しているかはわかっていない。


――――――――


 

 私は生まれた瞬間に、自身が特別な存在であることを理解していた。

 生まれ落ちた次の瞬間に他の姉妹と母親を食い殺した。

 自分には養分が必要であり、そうすることが当然だと思ったからだ。


 生まれて数カ月で、周囲の森の魔物を腹に収めた。

 その中には私の母では到底かなわないであろう魔物も含まれていたが、とるに足らない雑魚だった。

 

 数年後には成体となり、配下に命令し隊商を襲わせ連れてこさせた。

 下手に目立ってしまって人間達にこられては面倒だから、私の存在は隠した。

 私を見た人間の反応がおかしくて、誘惑し、堕とし、絶望させ、喰らうのは何よりも楽しかった。

 隊商に狙いを絞ったのは美しい織物や宝石で自身を着飾るためだ。

 そのうち、戯れに人を拷問しその知識を学ぶようになる。

 そしてやはり自分が特別な存在であることを自覚した。


 私は特別、私は美しい、私は蜘蛛の女王。

 そこいらの有象無象とは違う。ならば私には名前が必要だ。

 私の名前は巣にかかった隊商の人間に考えさせた「テオドラ」それが私の名前。


 そして私は、ある時ついに運命の出会いを果たす。

 私をあの森から広い世界に連れ出した、愛おしいあの御方。


「テオドラ、君には特別な力がある。どうだい余の99番目の妻にならないかい? 一緒に人間で遊ぼうじゃないか」


 麗しい、あの人、あの真紅の瞳、果てない魔力、一目見てわかった。

 私はあの方の子を産むために強く生まれた。

 だが、99番目では納得が行かない。私は1番がいい。

 そのためにはもっと強く、もっと美しく、そうあろうと思った。


 それからの日々はひたすらに、魔物を、人を喰らう日々。

 目立たぬように、様々な擬態をしながら人間を襲い続けた。

 あの方の妻として、人間を蹂躙するための力を貯めこんだ。

 私には当然及ばないがそれなりに美しいアラクネに力を渡し、魔物の群れを作り上げた。


 あの御方が人間で遊びたいと言ったから、飛び切りの演目を披露しよう。


 できるだけ、大勢の強い人間が欲しい。

 場所を吟味し、巣を張り餌を用意した。


 糸を使い、魔物の群れをちらつかせてたら、ほら美味しそうな人間が釣れた。

 グシャリと踏みつぶすのは簡単だけど、我慢したほうがもっと美味しい獲物がかかることを私は知っている。

 私の巣をあの御方は喜んでくれた。我慢できなくなって、()()()()()で遊んでいたようだけど、もっともっと楽しませてご覧にいれましょう。

 あの勇者なんて良さそうだとは思いませんか?

 ひっそりと糸を張り、逃げ道に獲物を誘い込んで、さぁパクリと食べてしまいましょう。

 なんて、人間の喜劇のように読み上げる。


 不味そうな人間は適当に群れに食わせればいい。どうせ全部あの御方の物になる。


 餌場を数週間かけて整えた。刺激を与えたおかげでめぼしい獲物はすぐに見つけることができた。

 明日の朝にはあの御方が作った人形達と群れを使って全部潰してしまおう。 

 森の奥で、糸から配下のアラクネ達を伝って人間達を見続けた。

 そして見つけた、飛び切りの獲物。

 エルフだ。しかも極上の魔力を持っている。アレを食べれば私はもっと美しく強くなれる。

 あとテンイシャとあの御方が言っていた白い服の娘も捨てがたい、まとめて連れてきて、美味しくいただこう。

 

 さて、明日ユウシャが逃げるであろう場所には私の配下を潜ませた。

 あの程度の実力ならば多少被害はでるが、捕らえられるだろう。

 明日には人間の巣、確か「トリデ」と呼ばれているあの一枚岩は落とせる。そうなればあのセイジョもエルフも私のものだ。

 少しずつ削ればよい果物の皮を剥ぐように。

 あぁ笑みが抑えられない。きっとあの御方は私を褒めてくれるだろう。

 森を調べに来た雌の冒険者の首から血を飲みつつ、夜空の月を眺めてよい気持ちに浸っていた。


 その時、プツンと糸が切れる。

 無数に張り巡らせた私の目となっているアラクネ達とつながっていた糸の一つだった。

 そして、ユウシャを捕まえる指示を出したアラクネ達と意志が繋がらなくなる。


「どうした?」


 糸に意志を伝わせる。

 すぐに他のアラクネ達から返答が来た。


(わかりませぬ、何か、我らを襲う者がいます)


 それは私が直々に名前を付けたテントゥ・アラクネの「レノーア」からだった。

 人間を数百人食べ、言葉を覚えている。

 それなりに使える配下だ。

 この餌場でもそれなりに強かった人間を何匹も食べ、強くなっている。


「冒険者、いやテンイシャか」

(いえ、違います。糸を読み取って我らの位置を……テオドラ様! 襲撃者は、我らと同じ……やめ、我を食べ……るな……助け……テ…オ)

「レノーア、どうしたっ! レノーア」


 糸は繋がっているがレノーアの魔力は感じない。

 代わりに感じたのはこれまで感じたことのない歪な魔力。貪欲な本能がそのまま伝うような這いよる恐怖。

 咄嗟に危険を感じ、糸を切り離す。

 その切り離しの一瞬だけ、襲撃者からの意志が伝わってきた。


(ミーツケタ)


 それは感じた魔力とはまるで印象の違う。子供のような無邪気な意志だった。

説明が長いっ!! でもこういう設定とか大好きなんですよね。

テオドラ様視点で見た、フクちゃん……恐ろしい子。

時系列としては、フクちゃんが吉井君のテントを出て数時間後の話です。

次回予告:容赦ないフクちゃん。


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― 新着の感想 ―
 今、貴女の傍にいるの…… 今、貴女の後ろにいるの!
[一言] フクちゃん、勇者を襲うはずのアラクネを食べてしまうという痛恨のミステイク
[一言] 「ボク、フクちゃん。今、森の外にいるの」 「ボク、フクちゃん。今、森の中にいるの」 「ボク、フクちゃん。今、貴女の手下と出会ったの」 「ボク、フクちゃん。今、貴女の手下を食べたの」 「ボク、…
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