第五百三話:夕日に照らされて
色々と目立ってしまったので、とりあえずギルドを出て今晩を過ごす宿を借りた。
結界で守られている結構いい宿なのだが、今は金に困ってないのだ。ベッドの都合で二部屋借りたのだが、今は皆一つの部屋に集まっている。それでもゆったりできるほど広い部屋だった。色々あって疲れたのかポカルはウトウトしていたので、少し遅いお昼寝中。晩御飯前には起こしてあげよう。
「それで、どうするかなこれ?」
手に盛った金貨の入った二つの袋を持ち上げる。それぞれの袋には白金貨が190枚と金貨が100枚が入っているわけだが……。
「とりあえず、分散して保管しておくだよ。受付嬢が言うには、これまでの旦那様への依頼の報酬と『匿名のメイド』から定期的にまとまった金額が振り込まれているようだべ。金額的には少ないけんど他にはミーナからもナルミ経由でお金が入っていただ」
「アナさんだけでなく、ミーナからも入っているのか。リザードマン達との戦争でお金ないはずなのに……」
アナさんはもう怖いんで金の出所は聞かないことにしておくけど、ミーナの方は大丈夫なのだろうか?
「あー、それなんだけんど。一応、メモも預けられていてナルミが言うにはミナが作った旦那様の詩が国境を越えて大流行しているようだべ。おそらくアナ姫も一枚噛んで、譜面や劇で相当稼いでいるべな」
「そう言えば、山脈を越えて先の戦いを知っている人もいるくらいでした。港でも【死線】の名を聞きましたし。流石ご主人様です。ミーナの芸術の才能は確かなのですね」
ファスが妹のことを少し嬉しそうに言うのは喜ばしいが、こちらはそれどころではない。
「僕って今どうなってんの!?」
僕がミーナにメイド服を着せて連れまわしたって詩が世界中で聞かれているってことじゃねぇか!!
絶対アナさん悪乗りしてるだろ! このままではメイド好きの変態として名が世に轟いてしまう。
「もういっそ開き直ればいいと思うよ。私達は真也君がどんな性癖でも付き合うつもりだから」
「いや、叶さん。メイド好き前提で話を進めないで」
「マスター、これ好き?」
「……嫌いではないけど」
いつの間に作ったのかフリルのヘッドドレスを付けながらフクちゃんが純粋な目でこっちを見てくる。
クッソ可愛い! メイドとか関係ない可愛さじゃないかこれ?
このままではあらぬ方向へいってしまいそうだ。話を戻そう。
「とりあえず、これからどうしようか?」
強引に話題を切り替えるとファスが答えてくれた。
「明日もギルドへ行って情報収集と等級を上げる手続きですね。グバという冒険者も来るように言っていましたし、何かあるのかもしれません」
「後、他の転移者達が街へ来る前にブラン・ロゼとの顔合わせもちゃんとしないとね。流石に奴隷契約については話せないけど、私が覚悟を決めて真也君と一緒にいることは話すつもり。もし、それでも踏み込んでくる子がいたら……お話しないとね」
他のメンバーも深く頷いている。皆、目が笑っていない。
「いや、皆とは色々あって今の関係になっているけど。これ以上そんなことないって」
「「「……」」」
凄い目で睨まれてしまった。いや、流石にミーナのようなことはもうないはずだ。
「旦那様はしっかりとオラ達で囲むとしてブラン・ロゼについてはチハヤやカナエに任せるだよ。オラは市場や酒場で【竜の巫女】について情報を集め……」
トアの耳がピンと立つ。ファスが目を細め、フクちゃんが扉を見る。
「誰か来たのか?」
「【転移】を使って移動してきましたね。そろそろだと思っていました。彼女達ならば伝えずとも【奴隷】のスキルでこちらの場所がわかりますから」
控えめなノックがされて、ファスが扉を開けると千早のみがそこに立っていた。
白い乗馬服に防具を付け、腰に巻いたベルトには刀を下げている。
「お邪魔します。やっと、団の子達を落ち着かせられたわ」
パチンと小気味の良い音がしてベルトから刀が外されて、叶さんが用意した椅子に座る。
「お疲れ様、千早ちゃん。紬ちゃんと留美子ちゃんはどうしたの?」
「今日は譲ってもらったわ。サラが再戦するって躍起になっているから紬に抑えてもらっているの。全く、この街に来て私以外の女と先に踊るなんて……『主人』としての自覚がないんじゃないの?」
ジロリと睨みつけられる。黒瑪瑙のような瞳は艶やかに濡れているようだった。
ファスがフードを脱いで翠眼で千早を見据える。
「ご主人様の一番奴隷として聞きます。今の『主人』という言葉と、この場所へ来た理由。貴女はご主人様の奴隷として仕える覚悟ができたということでしょうか?」
ブフっと吹き出してしまう。凄いことブッこんできた。
「ファス、急に何を言っているんだ。千早は元々【仮契約】だったはずで、別にそういうんじゃ……」
千早が手袋を外し、右手の甲をファスに見せる。そこには僕の【奴隷紋】が浮かんでいた。
「それを確かめたくてここへ来たの。真也、付き合ってくれるかしら?」
机に立てかけていた刀を持ち上げて千早に誘われる。これは……受けないわけにはいかない。
「わかった。皆、行ってくる」
「……こうなることはわかっていました、後でちゃんと私のことも可愛がってくださいね」
ファスが立ち上がって、僕の防具を取り出してつけてくれた。
「千早ちゃん、頑張ってね。言っておくけど、半端な真似するなら私は認めないから」
「宿の台所を借りて、ご飯準備しとくだよ」
「マスター、モテモテ―」
「皆、ファスさん。ありがとう、この借りは返すわ」
立ち上がった千早が刀をベルトに取りつける。
「ご主人様が決めたことです借りなどありません。チハヤ、後でトアのご飯を一緒に食べましょう。貴女とはゆっくり話したいと思っていたのです」
初対面の時のことがあって、千早とは色々あったファスだが色々と考えてくれていたようだ。
千早もファスの言葉を聞いて、穏やかに笑い返す。
「そうね、私も話したいことはたくさんあるわファスさん。……行くわよ、真也」
二人で部屋を出ると、千早は太ももに取りつけたアイテムボックスから一枚の大きな羊皮紙を取り出した。壁へ貼り付けて指先を当てることで魔力を流すと紬さんが描いた【紋章】が浮かび上がる。
「【転移】するわよ。場所は決めているの」
起動した魔法陣に二人で手を当てる。次の瞬間には世界がグルリと回り景色が一片した。
夕日に照らされたその場所は街の高台のようで、『コ』の字型に塀に囲まれており、開けた所から街を見下ろすと港が良く見えた。石畳で舗装された地面に横には見張り台もある。
「ここはこの街の騎士の訓練場の一つで今はブラン・ロゼに開放してもらっているの、紬や留美子にも協力してもらって、今日は貸し切り。ねぇ、この場所。アマウントのあの場所によく似ていると思わない?」
確かにここは花吹雪く街の高台に似ている。あの場所で僕は千早に告白されたのだ。その時もこんな夕日が僕等を照らしていた。
「「……」」
二人して夕日に照らされるノーツガルを眺める。
何と言えばいいのだろう? アマウントで別れてから色々なことがあった。
元の世界の武術を嗜んでいた者同士、話すことはあるはずなのに、こうして向かい合うと言葉にならない……というより言葉にしたくなくなる。
「ごめん千早。上手く話せないや、だから……試合をしよう」
剣と拳。僕等にとっての共通言語で語らうのが一番確かなんだ。千早は呆れた顔でクスクスと笑う。
始めて見る柔らかい表情だった。
「見かけは少し男らしくなったのに、もう少し気の利いた事言えないのかしら……冗談よ。私もずっと戦いたかった。ずっとこうしたかった」
夕日にポニーテールを靡かせる千早はあのアマウントの時と重なる。
殺気なんて欠片もなく、まるで握手をするときのように見つめ合いながら僕等は剣と拳を構えた。
次回:VS千早
出会ってすぐ戦う二人です。
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