第五百二話:知らない財産
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親も、教師も、警察すらない異世界で『力』の脅威にさらされてきた。己の弱さを痛感し、全てを恐れた。
そして自分が『力』を持った時。その力に酔いしれた。力が金に、権力に、名声になるこの異世界。
腰に下げた刀の価値は元の世界でのそれと比べるまでも無い、床の間に飾られるだけだった置物がこの世界では全ての代わりとなったのだ。
【レベル】【スキル】【装備】これ等さえあれば、自分の身が守れる。留美子を守れる。
『力』が持つ魅力のなんと甘美なことか。薬によって弱った理性を『力』の魅力が塗りつぶす。
意思という羅針盤を失った『力』は『暴力』となった。
視野が狭まり、男に対する憎しみに支配された私を叩き潰したのもまた『力』だった。
この異世界で、元の世界の『武術』を以て戦う男。その『力』はあまりに不器用で、馬鹿馬鹿しいほどに真っすぐだった。
草原で私を叩き潰し、砂漠では心を救ってくれた。
花吹雪く街で己の中にこの気持ちを自覚したその瞬間から、その背中を追いかけ続けてきた。
離れて過ごす日々の中でその背が遠ざかっていくのが怖くて、剣を振って、振って、振り続けた。
ガラじゃないってわかっている。だけど、そんなこと気にならないほどがむしゃらに
私は恋をしている。
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「反省した?」
「……ごめんなさい」
先の試合について叶さんからしっかりと怒られております。不謹慎ではあるが頬を膨らませる叶さんはそれはそれで可愛かったりする。
「も、もう一回!」
ガバリと叶さんのスキルを浴びて回復した赤羽さんが飛び起きるが、フラフラと足元が定まっていない。
「凄かったぞお前! もう一度……あれ? 足が……」
叶さんの回復に不備があるはずもなく、ダメージから回復していても心が前に足を出させない。
赤羽さんの肩に手が置かれる。
「そこまでよサラ。これ以上は心の方が壊れるわ」
「お姉様……」
乗馬服に防具を身に着けたような姿の千早が赤羽さんを止める。というかお姉様って……。よくわからないけど深い関係だったりするのか。僕等と離れている間に色々あったのかもしれない。
「違うわよ。変な目で見ないでちょうだい」
ジト目で釘を刺されてしまった。
「まだ、何も言ってないが?」
「変な想像したでしょ、私の気持ちはもう伝えているはずよ。それにしてもさっきの戦い見事だったわ。真剣での攻撃を向けられても微塵も気組みが揺るがなかったわ……敵対する相手とすら調和を目指す活人の極致。その達人の領域に入ったようね。こうして向かい合っても風のない静かな水面を見ているようだわ」
そういう千早からは茂みから獲物を覗く猫科の動物のような気配を感じる。
こちらが背を見せた瞬間に喰らいついてきそうだ。そんなこと言ったら怒るだろうけど。千早の言葉を聞いて赤羽さんが訝し気な顔でこちらをジロジロと眺める。
「お姉様みたいな武術家ってことですか?」
「そうよ……と言いたいところだけど、武術的な理解度はまだ真也の方が一歩先ね。悔しいわ」
そういう千早の顔は悔しがっていると言う風ではなく、自分もすぐに追いつくと言われているような気がした。
「お姉様より上……」
ちなみに後ろで倒れていた唐木さん、七瀬さん、山岡さんもこちらをジッと見てくる。なんか視線がやけに湿っぽい気がするが気のせいだろう。
「貴方達全員、注意したでしょう? 【スキル】や魔道具ばかりではなく、想像力を働かせて己の直感や洞察力も磨きなさいって。まったく……で、でも安心して貴方達の敵は私が取るわ。じゃあやりましょうか?」
千早が待ちきれないと刀の上に手を置いた。こちらとしても不完全燃焼だ。是非、やらせてもらおう。
「ブハァ! ちょっと待てぇ! おいおい、今度はこっちだろうがぁ! 期待外れかと思っていたが、騙されたぜぇ、お前は魔霧だった。不足はねぇな。俺と戦え!」
青く水かきのついた手が間に入る。グバさんが両手斧を担ぎながらこちらを睨みつけて来た。見れば周囲に張られていた結界は消えている。それにしてもあの一瞬で観客席からここまで移動してくるとは巨体に似合わずかなり素早いようだ。金属音がして鯉口が切られる。
「私はこの日をずっと待っていたの……邪魔するなら切るわよ」
「ほぉ? 【鬼姫】お前が先に相手してくれんのか?」
一触即発の空気、千早はもちろんグバさんも恐らくゴリゴリの前衛職。お互いの【威圧】がぶつかり周囲の空気が陽炎のよう歪み始めていた。
「そこまでだ」
二人の【威圧】のぶつかりを僕の【威圧】系スキルで叩き潰す。
「「「……」」」
僕を置いていちゃつくなよこのまま【竜の威嚇】を強めて、注意を引きつけつつ話し合いを……。
バタン。え? 音がした方を見ると、立っていた赤羽さんやその後ろにいたブラン・ロゼのメンバーが倒れている。赤羽さんに至ってはブクブクと泡を吐き始めていた。
「【星守歌】……回復して精神バフをかけたとはいえ、まだ不安定な状態で……わざとなのかな真也君?」
笑顔の叶さんがこちらを向く。ダメだ、これ本当に怒っている奴だ。
「いや、ちゃんとグバさんと千早に向けて放ったんだけど……」
「さっきの戦いの影響が回復しきる前に真也君の【威圧】浴びたら、余波だろうが倒れるよ」
「ブファ! なんだぁ今のは? 気配がとんでもなく膨らんだぞ」
「刃圏が収められた……ここまでね。悪いけどサラ達を拠点に連れ帰るわ。紬っ!」
千早さんが叫ぶと、紬さんが軽やかな足取りで訓練場に入って来る。ファス達も一緒に来ていた。
「全く、いつまでも遊んでいる場合じゃないだろうに。こうなれば真也も拠点に連れて行こう」
「他の子もいるんだから、流石にダメよ」
チラチラとこっちを見ながらそう言われてしまう。
「むぅ、残念だ。すまない真也、また後で会おう」
紬さんが万年筆道具を取り出して、空中に魔法陣をかくとそれは開きどこか別の場所へと繋がる。
「そうね。時間はあるわ、真也……あとでね」
紬さんが一人、残り三人を千早が肩に乗せて担いで魔法陣へ入っていく。
去り際に千早がこちらを見た後に、プイッと顔を背けて魔法陣の中へ消えていった。
「これで終わりかぁ。しょうがねぇ、港の後片付けに戻らぁ! おい、【死線】。明日、またここに来いっ!」
こちらの返答をきかず、グバさんは港へ戻っていった。さて、ここからどうするかな。
「まずは拠点の為に、路銀を補給しましょう」
とファスに提案された。
そういや、そんな話あったっけ。んじゃ、受付行くか。昇級の為の日取りもある。
というわけで兄弟船と呼ばれる巨大な船が引っ付いた建物の中へはいって受付を目指す。
幸い、僕らが訓練場に人を引きつけたおかげか受付は空いているようだった。マーマンの女性がいるカウンターの前へ向かう。
「すみません、お金を下ろしたいんですけど?」
「では、ギルドカードの御提示を……金色!? か、確認しました。いくら引き落としましょう?」
そう聞かれたので、このパーティーの財布番であるトアを見る。
「まぁ、いくら入っているかによるんでねぇか。オラ達ちょっと普通と違う依頼だったりするし、どの程度お金が入っているか知らねぇだ」
「かしこまりました。ギルドへのあずけは白金貨が……」
どこからか取り出した魔道具を操作しながらダラダラと冷や汗をだしている受付嬢。大丈夫かな?
何度か受付から奥へ引っ込んだりしてようやくカウンターに戻って来る。
「特別A級冒険者 シンヤ ヨシイ様。確認が終わりました。預け金は白金貨が12万4千枚です」
「……は?」
どうやら聞き間違えたらしい。どう考えたって白金貨がそんなにあるわけがない。
白金貨1枚を日本円にして100万くらいだと認識しているあるから……大体1千200億円……いやいやいやいや。そんなお金知らないって!! 尋常じゃないって!!
「で、ですから12万4千枚なんです。あの、うちのギルドそこまでお金なくて……今日現金でお渡しできるのは白金貨200枚が限界です~」
涙目でギルドの預け金の説明をしてくれる受付嬢さん。うん、貴方は悪くない。これはおそらく……。
僕等全員の脳裏にどこぞのメイド姫が浮かんだのだった。
次回は千早戦……まで行けるといいなぁ。
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