第四百九十八話:予想外の出迎え
夜の海の中、人魂を浮かばせて幽霊船が進んでいく。夜間は子供が走りまわるような音や、ヒソヒソ声が聞こえたりするが慣れてしまえば別に気にならない。夜の海は波の音さえどこか遠くて、心細くも感じるのになぜか落ち着く。マストの中腹にある見張り台で毛布にくるまりながら見張りをしているが、異常は何もない。
ボリボリ、バリバリ。
……うん、時折船首にある髑髏像が勝手に動いて魚を食べていること以外に異常はない。
大水球から襲ってきた魔物の死体を適当に船倉に突っ込んでいたら勝手に消え去り、気が付いたら船のパーツが魔物のそれに置き換わっていたりして、ついには船の骨子である竜骨と呼ばれる船体の中心が本当に何か巨大な生物の背骨のようなものに置き換わっていたりしていること以外には異常はない。無いったら無いのだ。
ウォオオオオオオオオ。
……幽霊船だもの、遠吠えだってするさ。なんかこの海に新しい魔物を生み出してしまった感があるがあんまり深く考えるのはよそう。こんな船に乗っているせいか、標準的な海路を使っているはずなのに他の船は全く見えない。ファス曰く、凄い勢いで避けられているらしい。今も周囲は人魂と水平線だけだ。その水平線が徐々に白んでいき、人魂が一つ、また一つと消えていく。
「朝か……」
船の速度が落ちて、マストが畳まれていく。この船、操作を辞める時はマストを畳んでコースを外れないようにする配慮してくれるのだ。
日の出と共に船首も像だったことを思い出したかのように動きを止めてちょっと見た目が怖い普通の船へと戻っていく。海でみる日の出ってのは美しいもんだ。日の光と共に虹の柱も立ち昇っていく。波が白く染まり、空が青さを取り戻す。
「うん、今日もいい朝だ!」
風を思いっきり体に浴びて伸びをする。トアが言うには今日中にはノーツガルの港に到着できるようだ。本音を言えばもう少しこの船旅を続けたいと思うほどに楽しい旅だった。
見張り台から飛び降りると甲板にある床扉を開けてファスが顔を出す。金髪が朝日を反射してキラキラと光っていた。
「おはようございますご主人様」
「おはようファス」
「今日はいよいよノーツガルに到着予定ですね。今、フクちゃんがトアを起こしています。朝食を食べたら入港に備えて最終チェックをしましょう」
「だな」
すぐに他の皆も船倉から起きてくる……トアだけはまだ半分寝ていたけど。
とはいえ、料理となると耳をピンと立てて意識を覚醒させるのがトアである。今日の朝食は発酵させない生地をファスの炎で焼いたパンだ。やや固いが小麦の風味が豊かだし干し肉を使ったスープによく合う。特にポカルはこのパンを気に入っているようだ。パンを干し肉と乾燥豆のスープに入れて器に顔を突っ込むように食べていた。うん、この豆スープも塩味が利いていて旨い。保存食メインの限られた食材の中で毎日違うメニューの食事を食べれているのは幸せだよな。同じ食材でも組み合わせ調理方法を変えてくれるおかげで飽きることなく楽しめた。
「ごちそうさま」
「さまっす!」
「お粗末様だべ」
朝食を終えて、片付けを済ませて船尾楼に集まって予定を確認する。
ちなみに船の操縦はフクちゃんが糸を使って行ってくれています。この旅で完全に船の操作をモノにしたようだ。流石フクちゃん……恐ろしい子。
「んじゃ、今後の流れを確認するだよ」
司会進行はトアで話し合いが始まった。
「やっとノーツガルに到着だね。連絡は小まめに取っているけど団の皆に会えるのが楽しみだよ」
叶さんは久しぶりに同郷の人達に会うのが楽しみなようだ。
「竜の武具の受け渡しに、元の世界への帰還できるっていうダンジョントレジャーの調査、そして……」
横でフクちゃんを頭に乗せているポカルを見る。ポカルの唯一の家族であるネーネさんを攫った【赫竜の宿願】の情報収集をする必要がある。この件もすでに千早には伝えているから、まずはブラン・ロゼとの合流を急いだほうがいいだろう。宙野達の動きも気になるし、やることはたくさんだ。
「真也君。言いたいことはわかるけど、団へ合流する前にやることがあるよ」
叶さんが指を振って首を振る。
「やること?」
「ノーツガルにある冒険者ギルドで資金の引き出しです。路銀がもうだいぶ減っていますから。ノーツガルで腰を据えて探索するならば私達の拠点が必要になりますし、何かと入用になるでしょう」
ファスが懐から硬貨を入れた袋を取り出す。船の修理もあって大分萎んでいた。
まぁ、僕等あんまりお金使わないから大森林では全然補給しなかったもんな。横でトアも手を上げる。
「あと、旦那様の冒険者の等級も『特別A級』から正式な『A級』冒険者に変えといた方がいいだ。アナ、ミナと二国の姫の後見に加えて見栄えがよくなるだよ。どうせ貴族も絡んでくるだろうし早いうちに使える権威は貰っておいた方が勝手がいいだ。情報収集と言う意味でも等級を上げることは間違いじゃねぇべ」
ふむふむ、確かに冒険をしている時はあんまり実感することはないが冒険者の等級はかなりの威光を持っているらしいし、イズツミさんも正式なA級になるようにと言っていた。
「それなら、まずは冒険者ギルドか」
「あ、あの、兄貴……」
ポカルが不安そうにこちらを見ているのでその頭を撫でる。
「大丈夫だ。ネーネさんのことは僕達がきっと見つけてみせるからな」
「ありがとっす! で、でも【死霊術士】のオレが一緒だと他のマーマンが何言ってくるか……オレを殺そうとしてくるマーマンもいると思うっす」
「【鑑定防止】のバングルとフクちゃんが作って叶さんが祈りを捧げたネックレスがあるから大丈夫だ。それに、僕等が必ずポカルを守る」
「兄貴……わ、わかったす。オレも覚悟を決めたっす! ネーネは必ず救い出すっす!」
ポカルへのケアもしっかりと話し合っているし抜かりはない。
他にも入港の際の注意点などを共有して朝の話し合いは終わった。
「んじゃ、早くノーツガルにつけるように綱を牽くよ」
飛び降りて船首に結び付けられている綱を掴む。これもいい鍛錬になってくれたな。
さぁ、ノーツガルまでもう一息だ。昼前には到着したいから頑張るぞ。
「兄貴、ガンバレー」
(マスター、ふぁいとー)
ポカルとフクちゃんが声援を送ってくれる。
「おう、任せとけっ!」
海の上で【ふんばり】を使って、グンと綱を牽いた。
※※※※※
一方、真也が船を牽き始めたタイミングでファス、トア、叶が頭を寄せて小声で話し合いを始めていた。
「うん、やっぱりこれが一番安全な合流方法だよね」
叶が指を鳴らし、ファスは真剣な表情で考えを纏める。
「ブラン・ロゼとはなるべく距離を置く方策はしっかりと守っていきましょう。当初の予定では拠点も一緒にするつもりでしたが、千早達からの連絡によるとあそこはいま『肉食獣』の巣窟だそうですから」
「しっかりと場を整えて合流して行くだ。間違っても旦那様だけでブラン・ロゼの団員と接触しないようにするべ。オラ達が群れの雌として旦那様をしっかりと囲むだ」
千早からもたらされた緊急連絡によれば、今のブラン・ロゼは男性への恐怖を克服するあまり逆に肉食となってしまった女子達か千早、紬、留美子への忠誠が暴走した男子拒絶の女子達という二グループであり、このまま真也が合流するのは風紀的な意味で大変危険という判断になった。まずはしっかりと真也パーティーで拠点を確保してから距離感を持ってブラン・ロゼと共同していく方針を千早達とは事前に連絡用紙で確認している。拠点さえ作れば後は千早や紬はこっそりと真也の元へ訪れる予定である。
「今の真也君はかっこよすぎだからね。気を付けないと、女子が集まって収集がつかなくなっちゃう……」
「やはり拠点はわけましょう。幸い、ギルドへはまだ預け金がありますし、大森林の琥珀もありますから売れば資金には困りません」
「拠点に関しても分けた方がチハヤ達も団員を気にせず会いにこれるからいいって話だべ。ツムギがいれば転移の魔法陣も作れるし、緊急時の逃走経路としても複数の拠点を持つことは理にかなっているだ」
トアが腕組みをしながら頷き、それにファスも首肯する。
「完璧です。これで憂いを断ってやるべきことに集中できそうですね。まずは情報収集をしながら勇者や他の転移者、そして【赫竜の宿願】の調査を行いましょう。どれも一筋縄ではいかない厄介な問題です」
「団員を誤魔化す為に迎えにこれないことを千早ちゃんは悔しがってそうだけどね。ああ見えて、結構強火っていうか、ある意味真っ当に乙女なんだよね」
そうして女子達で話し合っていると、地平線の向こうから灯台と港が見えてきた。
流石に他の船の姿もちらほらと見えているので、ファスが真也に声をかけて甲板へ上がらせる。
トアが舵をとってゆっくりと進んでいくうちに、あることにファスが気づいて顔を上げた。
「……この感じは!? カナエ、【位置捕捉】で意識を集中して探ってください」
「え? わかったけど……ええ!?」
奴隷に共有される主人と仲間の位置を大まかに把握する【スキル】。それによってわかったことは……。
「どうして千早ちゃん達が港にいるの!?」
無かったはずの出迎えがノーツガルの港に来ていることであった。
ようやくノーツガルに到着です。次回、ミニ修羅場とまたしても何も知らない真也君。
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