第四百九十七話:航海日和はのんびりと
「んー、いい航海日和だなぁ」
朝日と共に起き、旨い朝食の後にファスの超高重力化で水中に閉じ込められながら朝の鍛錬と柔軟をする。うん、叶さんのバフ無くてもかなり長い時間動き続けられるようになったな。ここ数日の地獄(誇張なし)の鍛錬の成果が出ているようだ。甲板に戻るとファスがタオルを渡してくれた。
「ありがとうファス」
「お疲れ様ですご主人様。動きの精度が劇的に向上していますね」
他の人の目がないこともあって、今のファスは風通しのよいシャツにブリーチズと呼ばれる膝上で絞ったズボンという普段のローブ姿に比べてかなり開放的な服装をしている。タオルで身体を拭きながら水分をある程度集めてくれるので体はすぐに乾いた。そうしていると前からポカルがフクちゃんを頭に乗せてこっちに向かってくる。手には作ったモップを持っていた。
「おはようっすお兄さん!」
(おはよう、マスター)
「おはようポカル、フクちゃん。掃除しているのか」
(モップ、ボクが作った。エッヘン)
「これ凄いんす。擦るだけで汚れが落ちるんす」
(毒で汚れをトカス)
フクちゃんが作ったらしいモップを見せてくれた。出会った頃とは見違えるように明るい表情になったな。なんていうか、元々笑顔は多かったが影が無くなった気がする。褐色の肌にフクちゃんが作った白い船員っぽい服が良く似合っている。こうして陽の光に照らされるとポカルの色って黒のように見えて藍っぽい色味がかかっているのがよくわかる。ヒレ耳がピコピコと元気に動いていた。
「はいっす! 生きるためには働かないといけないってネーネが言っていたっす!」
掃除に関しては叶さんのスキルで汚れなんか落とせるのだが、と思っていると船尾の方にいる叶さんがこちらに向かってウインクをしてきた。なるほど、そういういことか。
「ありがとう助かるよ。掃除は大事な仕事だからな」
「はい、助かりますポカル」
「うぉおお、ホントっすか! オレ、頑張るっす! 大事な仕事っす!」
(ゴーゴー)
フクちゃんがポカルの頭に乗って指示を出していた。うん、微笑ましい。
鍛錬も終わったし、今日の航路を確認しようと舵輪がある船尾にあるデッキ……船尾楼というらしいのだがそこへ向かうと、トアと叶さんがすでに海図を広げていた。
「旦那様。ちょうど、こっちも朝の鍛錬が終わっただ」
「今日はポカポカでいい天気だねー。風もよく吹いているし、船酔いのない船旅最高だよ」
乗り物酔いという弱点を克服した叶さんはスキルによる水中の探索も含めて船旅を満喫しているようだ。
彼女はフクちゃんが作った水着を着ており、本人に教えてもらった所ビスチェビキニという胴まで続いているビキニらしい。フリルもふんだんにあしらわれていてとても女子っぽく可愛らしいものだ。
下はショートパンツ風のもので上下共に激しく動いても水着がずれない構造になっている。それでいて胸元がグッと強調されているので目のやり場に困る。ちなみにフクちゃんのこだわりで大森林で巨人族から仕入れた染料で黒色に染められていた。
こうしてみると、叶さんって本当にモデル見たいなスタイルだよな。僕等に付き合って体を鍛えている成果も大いに出ているのだと思う。普段は美少女って感じだが、こうしてみると美女という表現も当てはまるだろう。
「大水球からも大分離れたし、魔物の心配もねぇだな。ノーツガルの近くにも大水球と浮島があるからそこは注意する必要があるけんど、かなり順調なはずだべ」
トアはいっそ開き直ったように上半身は開放的なオレンジビキニに前開きのシースルーシャツを羽織っている。ただ、そのデザイン的に胸元は閉まらずウエスト部分を紐で縛る形なのでデンとシャツから胸部分が突き出ているのですが……本人曰く『楽かつ緊急時に防具をつけやすい』とのこと。腹筋は見事に割れており、下は尻尾を出す為の穴があいているビキニボトム。パーティーの中では最も露出が激しい。そんな格好で平気で胡坐とかで座っているのでこちらも大変に目に悪い。海図を見る為に前かがみになっているので、僕からだと深い谷間が良く見え……。
「……ご主人様?」
背後からファスさんからの問いかけ。
嘘だろ。この密度の殺気だと……。
「こ、航路を確認しよう。綱も牽かないとなっ! いやぁ、忙しいなぁ!」
何にせよ。フクちゃん大先生の腕前が見事すぎるということだ。ちなみにフクちゃん自身は少女姿の時はワンピースか白のスクール水着姿である。こちらも大変可愛らしいのである。
「旦那様。まだ朝だべ? これ、そんなに気になるだか?」
下から持ち上げて揺らさないで! 理性が消し飛ぶから!
「皆が魅力的すぎるんだよ……」
「まぁ、私としては真也君に見せる為にわざわざ可愛くフクちゃんに作ってもらったわけだし、無反応の方が困るくらいだよ」
叶さんがニヤニヤと笑いながら回り込んで体を寄せてくると、ファスが無言でシャツを脱ぎ捨てた。
下に着ているのは白のフレアビキニであり、ほっそりとしたウエストが露わになる。
「……フクちゃんに頼んでもっと凄いのを作ってもらいます」
叶さんの反対側から腕にだきついてくる。いや、普通にヤバイことやっている自覚ありますかファスさん! 貴方自分の魅力をそろそろ理解してください!
「ポカルがいるからね!? 落ち着けファス、十分に可愛いから!」
なんなのこれ、身体を鍛えた後は精神の鍛練が始まってんの!?
「本当ですか? このフワフワした布で胸を誤魔化していると……」
「思ってないって、というかその水着も凄い可愛いし、似合っているよ!」
「なら良いのですが……」
嘘も偽りもない。胸に貴賤はないのだ。というかファスほどの美しい肢体で何かいえるような男がこの世にいるわけがないだろ! 熱弁することで何とか話題の軌道を修正(できていない)してトアから航路の説明を受ける。
「風向きは南南西、浮島も大水球からも距離があって海流も穏やかだべ。うーん、これなら今日は旦那様に船を牽いてもらわなくても十分に速度を出せるだ。大水球のせいで数日ほど遅れていたけんど、夜は幽霊船が勝手に進んでくれるおかげで大分取り返しただな」
いくつかの魔道具で確認して航路図に羽ペンで印をつけながら説明してくれる。
「ん、そうか。なら、今日は水中で型稽古でもするかなぁ」
皆との鍛錬でいくつかの新技や今までの技を深めることができたしな。海での鍛錬はかなり身になっている実感がある。
「えー、真也君ここ数日ずっと鍛えてばっかりじゃん。たまには私達とイチャイチャするべきだよ」
「カナエに賛成です。それにポカルも寂しがっていましたよ。是非話してあげてください」
両サイドから諭されてしまう。むむ、そうだったか。配慮が足りなかったな。
そういえば、大森林でもナルミに鍛錬ばかりでなくもっと相手しろと言われたような気がする。
「悪かったよ。んじゃ、今日はのんびりしよう」
「賛成。あっ、ファスさんバフかけるよ【星命の完全祝福】。これで日焼け対策もできるから」
「ありがとうございます。この体に必要かはわかりませんが、ご主人様の奴隷として体をケアするのは当然ですからね。フクちゃんの回復泡もありますし、しっかりと手入れしておきましょう」
そのスキル本当に便利すぎない?
「海流に乗っているから、フクちゃんに帆を任せれば操舵も減らせるし。昼は凝ったものを作るだ」
「それなら、私とカナエで手伝いましょう。ご主人様はポカルと話してあげてください」
「いいのか?」
「もちろん。ただ、その後は私達も可愛がっていただけると嬉しいです」
頬に口づけをされる。
「もちろん、じゃ、ポカルと話しながら掃除してくるよ」
というわけで甲板にいるポカルの元に向かっていく。
「あっ、お兄さん。鍛錬っすか?」
(マスター、ヤッホー)
「いや、今日はのんびりしようって話になったんだ。掃除手伝うよ」
そう提案するが、ポカルはブンブンと首を横に振る。フクちゃんも振られているが微動だにしていない。伊達に人の頭に乗り慣れていないようだ。
「これはオレの仕事っす」
「もちろんそうだ。だからポカルの手伝いをしたいんだけどダメか?」
「オレの手伝いっすか? んー、んー、それならっお願いがあるっす!」
「ん?」
ポカルからお願いされて肩車をして、マストを登っていく。マストの中腹には小さな見張り台があるのだがそこにポカルを下ろす。
「高いっす、おわー、風が気持ちいー」
「景色がいいな」
「おっと、掃除っす」
見張り台の掃除をしたかったらしい。フクちゃんに布を出してもらって僕も掃除をする。あくまでポカルの仕事の手伝いだ。見張り台の掃除を終えると、せっかくなのでポカルを乗せてさらにマストの天辺まで登ってみた。
「うぉー、高い、めっちゃ高いっす。つまり……高いっす!」
目を輝かせている。高所は得意なんだな。
「怖くないか?」
「全然怖くないっす。ネーネーにも高い所に連れてきてもらっていたっす。ふわー」
両手を上げてバンザイをするポカル。その気持ちわかるぞ。僕もバンザイをしてダブルバンザイだ。
しばらく景色を眺めていると、頭上からポカルがちょっと遠慮がちに話し始める。
「あ、あのお兄さん」
「なんだ? もう降りるか?」
「ち、違くて、えと……」
ポカルが言い出せるように待っていると、意を決したのかギュッと僕の頭に乗せた手に力が入った。
「あ、兄貴って呼んでもいいっすか!」
「兄貴?」
今でも『お兄さん』だし、特に違いがあるとは思わないけどポカルにとっては何か違うのだろうか。
「いいぞ、好きなように読んでくれ」
「ホントっすか。じゃ、じゃあ、兄貴っ!」
「おうっ!」
「えへっ、兄貴っ!」
「おうっ!」
「あはははは、兄貴はオレの兄貴っす。兄貴で英雄なんす!」
(マスターアニキ)
「何それかっこいい」
呼ばれてみると、確かに『お兄さん』よりも距離感近い感じするな。
そうしてしばらく兄貴と呼ばれてはそれに返事をしつづけたのだった。
次回はノーツガルに到着……予定です。
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