表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【コミック二巻4月15日発売!】奴隷に鍛えられる異世界生活【2800万pv突破!】  作者: 路地裏の茶屋
第十三章:海と船乗りと転移者編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

535/545

第四百八十八話:創生魔術【不思議の国】

 涎を垂らしながらポカルが寝息を立てている。久しぶりに眠れたのだろう。この様子なら声を潜めなくとも起きることはないだろう。


「トアの料理もあるのに、寝ちゃったな」


「今日は時間がかかる料理だから。大丈夫だべ」


 エルフの国宝だと言う古びた鍋を上機嫌で見つめるトア、すでにめっちゃいい匂いがしているが鍋には金属の分厚い蓋がしてあって中を見ることができない。その金属の蓋の上にも薪を置いて上下で熱しているようだ。


「おぉ、その鍋ってそんな使い方できたんだね~。ちなみにどんな料理?」


 叶さんが興味深そうにのぞき込んでいる。


「海鮮の酒煮だべ。この手の鍋はこの金属の蓋が大事で、焼く、煮る、蒸す、揚げる、燻すとなんでもできるだよ。オラのスキルがあれば普通よりもずっと早く調理できるけんども、やっぱり時間をかけるというのも料理の大事な要素だべ」


「とても美味しそうです。時間をかけてポカルを眠らせてあげましょう。そして……カナエ、気づいていますか?」


 ファスが、髪を整えてローブの下のシャツの上に革鎧を付けはじめる。


「もちろん。ポカルちゃんが眠った途端にこれか……無関係じゃないだろうね。ファスさんはポカルちゃんを見てあげて、夜は私の番でしょ。真也君とデートに行ってくるよ」


 パチンとウインクする叶さん。


「敵襲か?」


 手甲の留め金を締め直す。折角のんびりしていたと言うのに空気の読めない相手だ。


「うん、見てもらった方が早いかも。まっ、焦るような状況じゃないよ」


「……やはり、私も一緒に行きます」


「いいからいいから、私の専門だよ。ポカルちゃんファスさんになついているみたいだし。ほら、真也君。ポカルちゃんをファスさんに預けてあげて。ごめん、ファスさん真也君と話したいことがあるんだ。多分、私じゃないと言えないことだと思う」


 軽い調子だがその表情は真剣そのものだった。


「わかった。ファス、頼めるか?」


「しょうがないですね。緊急時の動きは先日決めた通りにお願いします」


 旅の中で緊急時のパーティーの動きとかは打ち合わせ済みだ。


「うん、ありがと」


(てつだう?)


 火にあたって毛を乾かしていたフクちゃんがピョンと壊れかけた机に飛び乗ってきた。


「今日は大丈夫。フクちゃんは皆を守ってね」


(あいあいさー)


 叶さんは手早く髪を纏めて袂からワンドを取り出す。


「気を付けるだよ。常に【念話】できるように思考のリソースは意識するだよ」


「うん、気を付けるねトアさん。真也君、行こっ」


「あぁ、それで敵は?」


 ポカルの隠れ家は造船所の詰め所だった場所で、過去にはちゃんとした通路もあっただろうが今は廃船を飛び移って移動しないと外へも行けない。叶さんが出した光を頼りに廃船を飛び移りながら進んでいく、これがデートかと言われると首を傾げる人が多いだろうけど、相手がホラーやTRPG好きの叶さんなら立派なデートだと言えるのかもしれない。


「海からこっちへ集まってきているみたい。前に【クラス】には隠しパラメーター見たいなものがあるって話したの覚えている?」


「えーと、【聖女】のスキルが人を惹きつけるみたいな話だっけ?」


「そうそう、留美ちゃんの【忍者】が隠密に優れているように、特別な【クラス】は鑑定には出てこない性質があるって話。それで【死霊術士】の【クラス】は……」


 前を行く叶さんが足を止める。洞窟から青い月が見える。そして昼間よりも輪郭のしっかりとしたゴースト達が集まっていた。中心が折れて斜めに上がった船首に飛びのった叶さんは海を見つめている。


「なるほど、こうなるのか」


 【死霊術士】の隠しパラメーター、それはゴーストを呼び寄せる性質を持っているんだ。


「【転移者】の子はここまで規模じゃなかったかな。ポカルちゃんが特別なのか、もしくは久しぶりに寝たからなのか。ちなみにこの現象は【聖】職系なら付与でも結界でも防げるよ。【転移者】の子も首から護符を下げるだけで防げてたしね」


「じゃあ、なんでポカルは恐れられたんだ」


 肉親に殺されるような目に遭う必要はないじゃないか。僕の問いかけに叶さんは振り返る。青い月、海面を滑るように近寄って来るゴーストを背に聖女は微笑んだ。


「例え装備や工夫で防げるとしても怖いもんは怖いし、危険なものは危険なんだよ。元の世界もこの世界もこういう部分は変わらないんだね。何かの間違いで村の全てが滅びてしまう。それなら手っ取り早い方法をとることもある。私はそれが間違いだとは思わないよ」


「理解はできるけど……納得はできない」


 例えこの想いが綺麗事とわかっていても、割り切ることはできない。僕の答えを聞いて叶さんは僕に手を差し伸べる。


「……そう言うと思った。でもね、それなら真也君は強くならないといけないんだよ。貴方が信念を貫こうとするならこの先も嫌なものを見るだろうし、傷ついちゃう。ねぇ、真也君。想像したことはない? 皆で逃げるの。カルドウスとか竜とか元の世界とか他の転移者とか全部忘れて、嫌なことがあったらその度にすぐに逃げて、その先で自由に過ごせばいいと思わない? 今の私達ならきっとそれでも生きていけるよ。ポカルちゃんも連れて逃げたらいいよ。ネーネさんっていう人ももう死んでいるかもしれない。辛い現実を見せることになるかもしれないよ? その時、貴方はきっと同じくらい辛い思いをする」


 叶さんの手をとって船首に上る。ゴースト達はもう洞窟まで入ってきて、あと十数秒後には僕等と接敵するだろう。そのまま叶さんを引き寄せて抱きしめる。


「ありがとう叶さん。愛してる。僕は……僕の生きたいように生きたい。辛いことから逃げ続けて、そうしたら最後には生きることも諦めてしまったから。結局、前にしか道はないんだ。どれだけ辛くとも、ふんばって進んだ先でしか僕は笑えない。そこから逃げたら叶さんが好きだと言ってくれた僕でなくなってしまう」


「貴方と一緒にいる私達が傷ついたとしても?」


「それでも幸せにしてみせる。ついて来てほしい」


 叶さんが顔を上げて、僕の口を強く塞ぐ。ゴースト達が船に纏わりつき、足元から這い上がって来る。

 それでも僕等はお互いから目を離せない。唇が離れて叶さんがワンドを構えた。青白い光の粒子が黒髪からも零れ、月の色に重なって月白に染め上がる。


「本当に強くなったね真也君。貴方と一緒にいる為に私も強くなる。絶対に離れないよ。真也君の横が私の居場所だから、一緒に進むってもうずっと前から決めてたから。貴方がどれだけ傷ついても、私がすぐに治すから、この願いは私自身が叶えてみせる」


 形の朧げなゴースト達は意識もはっきりとしていないようで、半透明の身体でこちらに手を伸ばそうとしている。しかし、その手が触れる前に盛大に吹っ飛ばされた。


「これは?」


 吹っ飛ばしたのは四角い胴に手足が映えたような光の生き物。それがこん棒を持ってブンブンと振り回している。……なんだこれ?


「私だけの創生魔術【不思議の国:トランプ兵『クラブ』】っ!」


 光が圧縮されて形が明らかになる。それはこの世界では見たことのないトランプの絵柄の異形。

 縦2メートル、横1.5メートルほどの巨大なトランプのカードから細い針金のような手足が生えてそれが光を束ねたような太いこんクラブを握っていた。どこまでもナンセンスでシュールな光景を前に叶さんがワンドを振るう。一体が手品のように十三体に増えてゴーストを巻き込みながら吹っ飛ばしていく。体を持たないゴーストだろうが光の使者は容赦なく暴力をふるい続ける。かなりの怪力のようだ。


「【聖】属性の消えにくい性質を持っている兵隊。【時】の性質は無いけれどその分、めっちゃ頑丈にしてみたんだけど、どうかな?」


 重さがあるのかないのか、トランプ兵達は水面を歩いているのに振り回す棍棒は水柱を立てて船の廃材を吹っ飛ばしながらゴーストを駆逐していく。


「どうかなって……あのー叶さん? かっこつけた手前、僕にも出番が欲しいんだけど……」


「え? ないよ。アンデット相手なら私だけで十分だもん。私としてはさっきの話をしたかっただけだよ。ファスさん達は言えないだろうから。……私達が一緒に傷つくことを許してくれて嬉しかった。私達は誰も離れるつもりはないけど。それでも真也君の覚悟を知りたかったの、あー、逆にやられちゃった。おかしいなー、私って男子達を手玉に取ってた猫かぶりなんだけどなー、真也君にはやられっぱなしだよ」


 先程までの神秘的な様相は消えて、いつもの叶さんが僕を抱きしめる。

 いや、横ではゴースト達が宙に吹っ飛ばされているんだけどね。これもある意味僕等らしいデートかもな。

 水面を叩きつける轟音が気になるが、二人で月を見ていると。


「……ところで真也君。もしかしたら出番あるかも」


 不意に叶さんがそんなことを言ってきた。良く見れば冷や汗らしきものが頬をつたっている。


「そんなに強いアンデットがいるのか?」


 叶さんが横を指しその先には水面を棍棒で叩き続けるトランプ兵の姿が……。


「アンデットは全部倒したんだけどね。ゴメン、トランプ兵達制御できていない。今、あの子達暴走しているからこのままだと洞窟崩しちゃうかも。テンション上がって慣れない創生魔術に魔力を込めすぎちゃった」


「……マジで?」


「【星竜鱗】【星女神の鼓舞】【星辰の竜刻】とりあえずバフと回復は任せて。隙を見て【減速】のデバフも相手にかけるからっ!」


 サムズアップする叶さんに苦笑で返す。まぁ、締まらないのも僕達らしいか。


「やってやらぁああああああああああああああ!」


 その後、【呪拳】も使って二十分ほどかけて十三体のトランプ兵達と格闘したのであった。かなり歯ごたえのある相手だったので今後の修行相手もお願いしようと思います。

ファスと違って細かい制御はまだまだの叶さんでした。

ちなみに【氷華】や【水創生魔術】というようにファスはしっかりと属性を使い分けていますが、叶さんの【不思議の国】は【僧侶】としての【聖】属性と【聖女】としての【星】属性がごっちゃになっています。なのでクラブのトランプ兵は【聖】属性としての意味合いが強かったりします。


ブックマーク&評価ありがとうございます。更新頑張るのでポチっていただけると嬉しいです。

感想&ご指摘いつも助かっています。一言でもいただけるとモチベーションがあがります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
そう言えば叶ちゃんもハイスペヒロインだったよなぁって思った矢先のオチが最高でした(笑)最近、耳に心地よい「逃げても良いよ」って言葉が簡単に使われ過ぎてて、逃げるに至るまでの努力とか抗いとか、あるいは挑…
最終的にジョーカーも出て来ますかねw
2026/01/28 06:59 チェシャ犬
いい訓練相手出来たねって思ってたら、そのまま鎮圧バトルしてるw 他のスートも気になりますね。 ハートは聖杯の方になるんでしょうか。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ