第四百八十九話:海鮮の酒煮
やったら固いトランプ兵を倒してポカルの隠れ家へ戻る。
「ただいま~、いやぁ、強敵だったよ。流石私の創生魔術」
「ただいま。めっちゃいい匂いするな」
(おかえりー)
室内は囲炉裏の上に置かれた鍋から尋常じゃなくいい匂いがしていた。フクちゃんがピョンと跳びついてくるのでキャッチ。
「もう少し待つだ。スープ作ったから先に飲んで体を休めるべ。旦那様達の様子はファスが教えてくれただ」
「見ていましたよカナエ。ついに創生魔術に自分だけのイメージを付与することに成功したのですね」
ファスが僕と叶さんにマグカップを渡してくれる。飲んでみると芋のポタージュだった。ベーコンが入っていて旨い。あとなんかファスの距離が近いドキドキしちゃうんだけど……。
「暴走しちゃったけどね。他の魔術もイメージを固めているから、これで私ができることの範囲も広がったね」
「あのトランプ兵、かなり防御力のですね。ご主人様が砕いても体が崩れるギリギリまで戦い続けていましたし」
「ベースの魔術が【星涙光壁】っていう物理防御の魔術だからね。防壁に手足が生えたようなものだから足は遅いけど防御だけなら折り紙つきだよ。なんせ一番得意な防御を強化した創生魔術だもん」
「どうりで固いと思った……」
叶さんの防壁が疑似的な命を持って襲って来るとか聖女がしていい戦術じゃないぞ。
「ところでご主人様。ずいぶんと叶と仲良くしていたようですが……妬けてしまいますね」
「えー、私の時間じゃん。ねー真也君っ」
両脇から腕をとられそのまま持ち上げられる。今の僕の体重ってかなり重いはずだけど、やっぱり二人もレベルのおかげで単純な腕力もあがっているんだなぁ。
「せっかくですので、ご主人様のお体を洗ってきます」
「トアさんゴメンだけど、私、我慢できそうにないかも。というか真也君もあそこまでやって何普通に座っているのかな?」
「いや、今日はもう終わりかと……」
「あはは、おもしろーい。そんなわけないじゃん」
「久しぶりのゆっくりできる夜なのですから、やるべきことはするべきです」
凄い目してます叶さん。ファスもやる気十分のようだ。そのまま帰って来たばかりの部屋から連れ出される。
「今日は譲るだ。次はオラとフクちゃんだべな」
(しょうがないナー)
その後、ファスが準備したお湯の中で二人を相手することになったのだった。
戦果? ボロ負けです。最近、叶さんのそっち方面の上達が著しい気がするぜ。ファスも横から勉強しているし、まぁしっかり癒されたという意味では癒されたと思います。
叶さんのスキルもつかってしっかりと身体を洗われて、戻るとポカルが目を覚ましていた。
「お兄さん、おはようっす……めっちゃ寝たっす。いい匂い、あのお兄さん、オレ寝ちゃうと偶にゴーストが……トア姉さんに大丈夫だって言われたけど……」
「そっちは問題ないよ。明日はアンデット除けの装備も作れるから心配しなくていい」
まだ起きたばかりで、首がこっくりこっくりしながら話してくるポカルの頭を撫でる。
その後ろからトアがこっちを半眼で睨んでいた。
「お楽しみのようだったべな……」
(……ジトー)
「すっきりしたよ! めっちゃ満足!」
「向こうの世界の知識は勉強になりますね。とても有意義でした」
「……」
やや頬の赤い二人の横で無言の僕、いやポカルもいるってのに言えることないじゃん。
見てくれよ、あの天真爛漫な瞳を。
「ん、夜の務めっすか? いいことっす。村でも、一番の漁師は何人ものメスを連れていたっす。ファス姉さんもカナエ姉さんもめっちゃ美人で流石お兄さんっす! 本当に英雄だったんすね……」
「ちょ、ポカル!?」
どこで英雄認定してんの? 僕の想像する英雄と大分遠いイメージ持ってないか?
「街を見るにマーマンも優れた雄はハーレムを作るべな。オラみてぇな獣人から見れば、あんまりそういうことのしない人族やエルフの方が違和感あるだ」
「というか文化的に少ないとはいえ人族は一夫多妻OKだし、エルフだって王様はいっぱい奥さんいるもんね。ビバ異世界。ところでポカルちゃん、私マーマンのそういう文化興味あるんだけど?」
「叶さん本気でやめよう。ところで、流石に料理の方そろそろできたんじゃないか。気が付けば深夜だし。お腹減ったよ」
「いや、流石にできたけんど旦那様達を持っていたんだべ。ポカルも待っているって言ってたかんな」
「お兄さんが群れの長っす。ネーネも雄は大事って言っていたっす」
ヒレ耳をピコピコさせて胸をはるポカル。ネーネさんと合ったら一度何を話したのか確認すべきかもしれん。
「というわけで、蓋を開けるだ」
鉄蓋の上に置かれていた炭化した薪をどけて、ゆっくりと蓋が開かれると湯気と一緒に潮と旨味の香りが立ち昇って来る。湯気の先にはクタクタになった香草が敷かれておりトアがそれをどけると料理が姿を現した。赤いスープの上に白身がデンと乗せられ周囲を彩るように昼間に買った貝とニンジンが並べられている。表面に浮いた脂で輝いているようだった。
「最後に色味をつけるだ。完成、ウツボと二枚貝の酒煮だべ」
用意されていた柔らかい何かの葉を散らして緑が混ざるといよいよ料理が艶を持ったかのように主張し始める。
「一番いい所は旦那様にどうぞ」
「待たせたし、ポカルが食べていいぞ」
子供が食べるべきだと思ったのだが、ポカルは涎を垂らしながら首をブンブンと横に振った。
「絶対にダメっす。これは群れの掟っす! お兄さんが一番っす! というかオレも食べていいんすか!?」
「あ、うん……トアの料理は美味しいから食べような」
かなり強い語気で言われてしまった。なんだろう、この辺の感じはトアっぽいというか獣人の文化に近いのだろうか。トアから綺麗に盛り付けたら器を受け取る。全員にいきわたったのを確認して匙を持つ。
「じゃあ、いただきます」
「「「いただきます」」」
「え? 何すか?」
ポカルが僕等を見て首を傾げる。
「ご主人様の住んでた場所にある食前の言葉です。ポカルもどうぞ」
「おぉ、群れの掟っすね。いただきますっす」
「じゃあ、食べよう!」
もう我慢できんと一気に白身を口に入れる。
「…………」
「旦那様? どうしただ?」
「ハッ、意識飛んでた! いや、これすっご、噛むのを忘れてた」
「とても、とても、美味しいです」
ファスが無表情になってた。これは美味しすぎる時にでる表情!
「酒煮っていうか、すっごい美味しいブイヤベース? いや、違うね。えーと、わっかんないけどめっちゃ美味しい! 深い、一番、これ一番だよ!」
叶さんも絶賛し、フクちゃんも夢中で食べている。口元が汚れているから後で拭ってあげよう。
(うまうま)
「あれ、ポカル?」
ファスの横でポカルも口に匙を入れた姿勢で止まっていた。僕のように意識が飛んでいるのだろうか?
「……ハッ、なんか大きな河があって、綺麗な船に乗る所だったっす!」
「トリップしてる! その船多分乗っちゃダメだから。トア、これ霊食を使ったのか?」
ポカルの新しい扉が開きかけているけど大丈夫か? 【死霊術士】というクラスのせいで冗談に聞こえないぞ。
「使ってねぇだ。普通に手間をかけて料理しただけだべ。やっぱ時間をかけないとできない味ってあるべな」
とか言って何でもない風を装っているトアも尻尾がブンブンと振られている。相当美味しくできたのだろう。
改めてスープを口に入れてみる。香辛料のピリっとした僅かな辛味の下に貝の旨味と入っていないはずなのにエビに似た風味もある。そして後から焦げた砂糖っぽい甘味がやってくる。喉をとおったスープの香りが鼻に抜けると香草の風味がめっちゃ心地よい。ニンジンや貝といった具材も白身とはまた違った食感と味を持っていて飽きさせない。それぞれの旨味が長時間煮込んだことで一体となっているようだ。
「おかわりだ」
「早いだ! ちゅーか、パンもあるからこっちも食べるべ。他にも昨日捕った魚の塩焼きもあるだ。街で海藻も買ってサラダにしているから、箸休めに間に食べるだよ」
「パンもスープつけると旨いな」
ちょっと固いパンがスープに染みて丁度良い食感になる。これだけで何枚でもいけるな。こりこりとした茎わかめっぽい海藻も好きな味だ。
「美味しいっす……美味しいっす、うぅ……」
ポカルに至っては泣きながら小さなホッペをパンパンにしている。ファスがその背中を優しく撫でていた。
「ゆっくり食べなさい。お茶もありますよ」
「ネーネにも食べさせたいっす。きっと喜ぶっす」
話から察するに相当厳しい生活を送っていたのだろう。僕も手を伸ばしてポカルの頭を撫でる。
「それなら、食べさせてあげればいい。ネーネさんを助けたら後は宴会だな」
務めて明るい調子でそう言うがポカルは泣き止まない。
「腕によりをかけるだ」
その様子を見てトアがポカルに笑いかける。ポカルは食事中ずっと泣いていて、そして食事が終わると倒れるように再び眠りについた。パンパンになったお腹に毛布を掛けて、食事の片付けをして僕等も眠りについたのだった。
食事に一話使ってしまった。でもヒーローって食べ物を分け与える者をさすから……。(某パンマン
次回はしっかりと物語を進めたいと思います。
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