閑話12:勘違いと転移者達の思惑。
「くそっ。失敗だっ! 竜の武具の反応が無くなった。誰かがアイテムボックスに入れたんだ!」
貴族達が多く住み、他国との交流が豊かな街【アリカラト】。見るからに高級そうな服飾品の店の二階には一階の店とは全く印象が異なる光景があった。
机を強く叩き、声を荒げるのは細身で眼鏡をかけ、ブレザーを着た黒髪の少年。
その様子を見て、ビクリと体を振るわせているのは露出の多い恰好の異世界の女性達。
女性達の身体には例外なく奴隷紋が刻まれていた。
「焦らなくても、すでに3つは【竜の武具】だっけ? 集めてるんでしょ」
奴隷と思われる女性ながら他の者とは違い、特に少年に対し恐れていない様子の一人が手を挙げて発言した。軽薄な話し方に似合わずその容姿は上品で、服装さえ整えば貴族の令嬢と言っても通用しそうな美しい容姿だった。
「こういうのはできるだけコンプリートしないと気が済まないんだよ。ゲームで最強の武具があれば種類別に手元に置いときたいだろ?」
奴隷が言葉の意味がわからず首を傾げているのを無視し、ずれた眼鏡を直しながら少年は乱れた机の上に置かれた水晶玉に手を翳す。
「国が把握していない【竜の武具】は、スキルじゃ見つけづらいってのに……誰が邪魔したんだ。宙野……じゃないな。せっかく盗賊ギルドに依頼したってのに。レベル不足の【伝承者】のジョブで枠を消費するのはもったいないぞ。もっと強いジョブに変えたいってのに」
「でも、そのジョブがあるから【竜の武具】の大体の場所が物語としてわかるんでしょ? ねぇねぇ、ライト、そんなことより、遊びに行こうよ」
「……お前はさっさと、強い【ジョブ】持ちの転移者を見つけてこい。何のためにクソ高い家賃を払ってんだ」
「えー、先月も連れてきて、薬で眠らせたじゃん。その【伝承者】のジョブだって私のおかげで手に入れたくせにー」
「確かに便利なジョブにスキルだけどな。……チートじゃない」
「チート?」
「宙野や桜木……後は中森みたいなわかりやすい、強い【ジョブ】だ。ただそういうのは中々コピーしづらいんだよなぁ」
ライトと呼ばれた少年がイライラしながら、髪をかきむしっていると、控えめなノックがされゆらりとフードを被った男が入ってくる。
「盗賊ギルドだ。依頼にあった情報を持って来た」
「あぁ。やっと来たのか。誰があの街で【竜の武具】を手に入れたんだ? 葉月か?」
「書類に書いてある……それともう一つ、ギルマスからの伝言だ。今回の山は俺達は一旦降りさせてもらう」
「なんだと? 天下の盗賊ギルドが、らしくないじゃないか?」
「仲間が拠点の場所を一つ吐いたらしい。【誓約】を突破するスキルを持つ人間がいる。恐らくそこに書かれている奴だ。そいつはヤバイ」
それだけ言うと、男は部屋を後にした。
ライトが無言で書類に視線を落とす。
「……おいおい、雑魚スキルの【宴会芸人】じゃないか。どういうことだ? ……ハッ、闘技場で宙野にボコボコにされた後に覚醒したとか? 実はチートスキル持ちだった可能性……ありそうじゃないか、お約束の展開だな。怒りでチートに目覚めたか」
二枚目の紙にはさらに、真偽のわからない情報がツラツラと書かれている。
その中にライトの望んでいたものが書かれていた。
「【魔剣士】島田が他の転移者に喋っていた情報。『吉井 真也は【スキル無効】のスキルを持っている』……ハハッ、やった。これだ、これが俺が知りたかったことだ。こいつなら他のチートと違って貴族や教会に守られていない。接触は容易なはず。女の一人でもあてがえば簡単に騙せるぞ」
「へぇ、そのヨシイって人を連れ込めばいいの?」
壁に並んでいた奴隷達の列から踏み出し、妖艶な仕草で奴隷がライトにしな垂れかかる。
「あぁ、【竜の武具】を持っているという情報も確認できているらしい。そういえば、宙野がこいつの悪い噂を流しているな。……なんでそんなことをしているのかと思ったが、なるほどコイツがチートってことを隠す為か。ククっ、意外とあいつも策士だな」
「でも、【アマウント】か……ちょっと遠いね」
「【レアキャラクター狩り】をしている磨金のこともあるし、先にこの街にいる【転移者】から強い【ジョブ】か【スキル】をコピーしてからでもいいかもな。ただ、いずれ吉井の【スキル無効】はもらう必要がある」
「大変だね。【竜の武具装備】のスキルも必要なんでしょ?」
「なぁに、問題ない。俺の【模倣士】なら上手くできるさ。……これがゲームなら主人公は宙野でも桜木でもない、この俺。大和 来兎だ」
※※※※※
ある屋敷で、獣人の女性を両脇に抱きながらリストを眺める太った転移者がいた。
『磨金 創次』スタンピードで、魔物達に喉元まで近づかれたことがトラウマとなり、観光をしながら貴族に指示を出しているようだ。
獣人の女性に食べ物を口に運んでもらいながら、ブツブツと天蓋付きベッドの前にいる貴族に文句を言っている。
「おいおい、最近は集まりが悪いなぁ。せっかく俺様の【哲人】で奴隷を強化して、ダンジョン攻略してあげているってのに……アンタの娘を【人形師】のスキルで玩具にしてもいいんだけどなぁ?」
「そ、それだけは……申し訳ありません、マガネ様。レアスキル持ちの奴隷は市場に出にくく、さらに高額での取引になりますゆえ」
「言い訳はいいっての、SSRはいねぇなぁ。特にケモノっ子が俺様は好きなんだよね。【グランドマロ】でわりといい奴隷が手に入ったけど、それ以外はさっぱりだな。アンタがちゃんと探さないからだろ? チッ、適当な転移者を嵌めて、僕の『人形』にできたらなぁ」
ゲフッと大きなゲップをして、磨金がリストを投げ捨てる。そこには様々なスキルを持った奴隷達のステータスが書かれていた。
身を縮こまらせていた貴族は、なんとか磨金の機嫌を取ろうと必死に口を開く。
「そ、そうだ。その【グランドマロ】から奴隷の情報を仕入れている時に少し気になる噂を聞きましたぞ」
「噂? 何それ?」
「マガネ様が【グランドマロ】を後にして、しばらくして街の権力者が第三王女に追放された事件のことです」
「あぁ、なんかそんなこともあったね。張本から奴隷を何人も奪ったから、報復されても面倒だし離れたけど、いいタイミングだったんじゃない?」
「それが、その事件の前後に『獣人の料理人』が【グランドマロ】に現れたらしいのですが、その料理人はそれは美人だと話題でして」
「あのさぁ。美人の獣人ってだけなら、俺様の『人形』達で十分だっての、しかも【料理人】って役に立たないじゃん。ねぇ、僕の人形ちゃん達?」
「アンッ……マガネ様、お戯れを……」
興味なさげに両脇の獣人達の胸を揉みながら、磨金は貴族を睨み付ける。
貴族の男性は首を振り、必死に話を続けた。
「いいえ、それが普通ではないのです。その【料理人】の料理は、かの歓楽の都において、肥えた舌を持つ貴族達も絶賛するほどでして。しかも……噂ですが、能力の一部が向上したとあるのです」
最後の一言を聞いて、磨金の眉が動く。
「能力の向上……確かそんなレアスキルあったな」
「ええ、食べた者の体調を整え、戦士はより強靭に、魔術師はより魔力を持ち、美女はさらに美しくなると言われる。レアスキル【栄養増加】持ちではないかと……文献にもわずかに残るばかりですが、もしそうならこれを逃す手はないでしょう」
「いいじゃん、しかも美人の獣人なんだろ? その【料理人】の名前は?」
「はい、【野風の料理人】トアと呼ばれていたようです。すぐに調べさせます」
「グフフ、楽しみだ。この世界をゲームに例えるなら。さしずめ俺様はキャラを扱うプレイヤー、磨金 創次様ってわけだ。転移者ってのはマジで最高だぜ」
それぞれの思惑が交差しながら、異世界の夜は更けていく。
『体づくりに置いて、栄養面は最も難しい。なぜなら24時間あって、365日休みがないのだから』
トアは特に自覚はなく、パーティーでの貢献度は最も自分が低いと考えていますが、実際は……。
知らない所で、狙われていく真也君達でした。
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