第二百三話:特別A級冒険者証
※※※※※
笑みを浮かべるダントンの頬に冷や汗が流れる。
【剛閃】自身の最も信頼を寄せる技を止められた。一直線に進むこの技は、攻撃を当てる際の踏み込みが重要となる。
速度を力に変え、最後の踏み込み乗せて槍を突き出す。
その一番力が乗る瞬間の踏み込みを止められたのだ。
技量で上を行かれた。そう感じるのも無理がないほどに完璧な武器取り。
これが自分達を追い抜きA級へと手をかけるシンヤ ヨシイ。思わず唾を飲みこむ。
しかし、危険こそが本懐。冒険者としてのキャリアは自分たちの方が上だ。
「行くぞ、シーア。スクロールの出し惜しみはするなよ」
「まったく、お金は割り勘よ」
信頼する魔術師の返答を受けて、ダントンは前衛の務めを果たすため前へ飛び出した。
自分が前に出ることで、パーティーは機能する。
【威圧】を強め、槍を付きだすとやはりシンヤが飛び込んで来た。
リーダーで前衛、同じ立場であることにシンパシーを感じ、負けたくないという競争心も芽生えた。
「応っ!」
「サァ!」
武器を持たぬ【拳士】のジョブ。リーチはこちらの方が有利なはずなのに手数で圧倒的に押される。
流れる足さばき、剣術を思わせる手刀の冴え。
数合打ち合いダントンは確信した。
強すぎるっ。
攻撃をしているはずが、防戦を強いられる。オーガ以上とも感じるその異常な膂力、そして繊細とすら形容できる格闘術。
前線を維持するだけでも精いっぱいだ。ならば……。
「シーア、レーゼ、手を貸せっ!」
大声で叫ぶ。純度の高い近接職、ならば魔術師と弓の援護があればなんとかなるかもしれない。
しかし……。
「無理っ、この化け物がぁ!」
「ダントン。向こうの後衛の対応で精いっぱいなの。あの魔術師ヤバすぎる!」
数十枚にも及ぶ魔術を詰め込んだスクロールを武器に、盤面を取ろうとした後衛達。
しかし、そこに立ちはだかったのは【氷華】を名乗る魔女。
「勉強になりますね。他に技術はありますか?」
「このっ、【発動】」
「時間差ですか、キャンセルです」
地面に仕込んだスクロールを時間差で発動し、マジックキャンセルを防ごうとしても。
その時間のずれを読み切り的確に発動を邪魔される。
「ならば、発動までは確定させるわ【発動】【火炎弾】」
「【水創生魔法:水蜥蜴】【水鳥】【氷華:アヤメ】」
マジックキャンセルをさせない為に自分の近くに配置したスクロールを使って風を起こし、自身の魔術を乗せて放つも、水魔術を複数発動され対応される。自分が道具を使ってようやくできていることを、あのファスという魔術士はこともなげに自身の力のみで実演する。
「【同時詠唱】のスキルに【創生魔法】の二重属性! くっ、天才めぇ」
何年もかけた努力を正面から潰される。敗北感を噛みしめる暇すらない。
全開で魔力を練り上げ、頭をフル回転させ盤面を取ろうとするも、数手遅れる。
しかも相手は【創生魔法】、生物の性質を付与された水の鳥達は弓矢を受けてもしばらく残り続ける。
「まだよシーア、援護するわ」
「お願いレーゼ」
弓使いであるレーゼが追加の弓矢を放とうとしたとき、横から手が伸びて二人の防具を掴む。
「くっ【発動】!!」
自分を褒めてやりたい。完璧な反応で咄嗟に仕込んでいた魔術を発動し地面を爆破、防具を掴んでいた手は真也の物だった。
シーアが横をみると、鎧を砕かれ血を吐くダントンの姿。
信頼をしていた前衛が抜かれた。そのショックから立ち直る暇もなく爆破をものともせず、再び真也が踏み込んでくる。
「【火炎渦】……えっ?」
「【重打】、発動しない!?」
魔力は練れた、しかし発動寸前でスキルが止まり致命的な隙を晒す。
スキル発動を阻害する『沈黙』の状態異常。回避の際、わずかに掠った真也の指先だけで後衛二人の機能は停止した。一拍遅れて発動できるようになるも、すでに間に合わない。
手加減された腹部への一撃を感じながらシーアとレーゼは地面へと倒れた。
三人がやられ、ダントンのパーティーは残り二人。相手をするのはトアと叶だった。
「旦那様の所はもう終わったみたいだな」
「だね。私達も負けてられないね」
「がんばれー」
手を振って応援しているフクは、完全に観戦モードである。
彼女の糸はすでに周囲に張られており。その気になればダントンのパーティーは何もできず縛られていただろう。
真也が楽しそうにしている様子から、彼女は応援に回ったのだった。
「おいおい、ダントンの兄貴はやられたのか」
「他の二人もやられてんな。せめて俺達だけでも」
「とは言っても、ダメージを入れてもすぐに回復されるし、手詰まりなんだよなぁ……」
「諦めんなジンガっ! 来たぞっ」
細剣と両手剣を構えた、二人にトアが切りかかる。
「【星女神の竜舞】バフいれるよ」
「助かるべ【旋風刃】」
風を纏う広範囲の回し切り、その身体には鱗を想起させる青色の光が張り付いている。
二人まとめて吹き飛ばし宙に打ち上げる。
「おいおい、何て力だっ!?」
「やばいぞ、これでは防御が……」
「ガァルウルルルルルル【飛竜斧】ッ!」
【獣化】し黒い痣を浮かび上がらせた、トアから投げられたのは生き物のように複雑な軌道を描く二本の回転する斧。
咄嗟に武器で防御するも、斧の回転は止まらず纏う風は苛烈さを増していく。
悲鳴をあげ二人は地面に叩きつけられた。
こうして、ダントンのパーティーの挑戦は終了したのだった。
※※※※※
「【星涙癒光】、これで大丈夫なはず」
「ガッハッハ。いや、死ぬところだったぞ」
「あー、手加減したつもりだったんですけど。すみません」
戦闘後に叶さんにお願いして、ダントンさんのパーティーを回復してもらっている。
いやぁ、つい楽しくなっちゃったなぁ。
横では、涙目のシーアさんがファスに訴えている。
「あんたねぇ。ちょっと、ひどいんじゃない。何も全部キャンセルしなくてもいいじゃない。いったい何枚金貨を使ったと思ってんのよ」
「すみません。それよりもシーアさん、連鎖して魔術を発動させるのはどうやったのですか?」
「えっ、あんたもしてたでしょ。発動手前まで詠唱をしておいて、魔力を流す速度を変えて発動するタイミングをずらすのよ。といっても、スクロールを使わないと到底できない高等技術だけど」
「なるほど、こんな感じですか」
「目の前で簡単に実践するの止めなさいよぉ! この天才っ!」
その横では、回復を受けたジンガさんとカインさんがトアと話している。
「なぁ、トアさんはなんのジョブなんだ。【斧使い】?」
「いやいや【獣戦士】にきまってんだろジンガ」
「うるさいぞカイン【斧使い】だ」
「いいや【獣戦士】だ」
「オラは【料理人】だべ」
「「……うそだろ」」
なんか絶望していた。
そして、弓使いのレーゼさんがフクちゃんに話しかけている。
「あの、私達の体についている糸ってお嬢ちゃんがつけたの?」
「そだよ」
「えと、どうやって、というかどうして?」
「変なことしたらコロスためー」
「……一番やばいのこの子じゃないの?」
うん、その通り。フクちゃんのヤバさに気付くとはレーゼさんやるな。
実際、フクちゃんは糸を引っ付けて後は戦闘の最初だけ牽制して、その後は応援に回っていたからなぁ。今も周囲には糸が張り巡らされており、ダントンさんが下手な動きをした瞬間縛り上げてしまうだろう。フクちゃん……恐ろしい子。
各々戦闘の振り返りをした後、ダントンさんが話を切り出した。
「うぉっほん。まぁ先程の戦闘は俺達の惨敗だ。つまりこれを渡す必要がある」
ダントンさんが差し出してきたのは金色に輝く冒険者証。
受け取るとずっしりと重い。
「特別A級冒険者証だ」
「特別? 普通とは違うんですか?」
「まぁな。A級冒険者ってのは、ただ強いだけじゃ務まらねぇ。緊急時の状況判断に、場合によっては冒険者達をまとめることもあるだろう。筆記試験もあるくらいだしな」
えっ、そうなの? と思ったが、よくよく考えたらそりゃあそうだよなぁ。
ギルドを代表するなら規則とか守る必要があるだろうし。
「本来なら講義を受けてもらう必要があるが、時間がないってんで、シンヤに送られるのは戦闘時における信頼をギルドが保証するという意味での特別A級となる。冒険者としての権限はB級と同じだが、A級冒険者向けの依頼を受けることができ、戦時下に置いてはギルドマスターの権限でA級冒険者と同等の権限が解放される。まぁ他の冒険者に指示ができるってわけだ」
「わかりました。パーティーメンバーの冒険者としてのランクはどうなりますか?」
「奴隷は主人のやり取りの代行を行える。つまりシンヤに変わってギルドとやり取りすることはできるな」
「つまり、僕が普段B級なら、皆B級として動けると」
「それは違いますご主人様。あくまで、ご主人様の意志をご主人様に代わって遂行するだけです」
ファスが訂正するも、どういう意味かいまいちわからない。
首を捻っているとトアと叶さんが補足してくれた。
「オラ達は奴隷だからランクを持っているのは旦那様だけだな。パーティー単位でご主人様のお手伝いをしているって体になるだ。オラ達自体にランクはつかねぇだよ」
「奴隷は物だからね。ギルドに働きかける時は真也君の権利を物である奴隷が代わりにするってこと。例えるなら書類を書くときのペンが私達で、書いているのは真也君ってイメージかな」
「わかったような。わからないような」
ややこしいけど、つまり責任は僕になるらしい。なんで叶さんはそんなに奴隷のことに詳しいのか。
「さて、渡すもん渡したし、俺達はこの街を出るぞ」
「そうですか。良い経験をさせてもらいました」
「俺達の台詞だな。次会う時は俺達は正式なA級冒険者だ。覚悟しとけ」
そう言って、ダントンさん達は街へ戻って行った。馬車を二台とも使って……。
「いや、僕等の帰り道の足っ!」
「ガッハッハ、それくらい自分でなんとかするんだな。アバヨッ」
結局、僕等は歩いて帰ることになったとさ。
その後、一日かけて準備を整え、いよいよ街を出発することになった。
というわけで、一般B級冒険者との勝負でした。こうなるとフクちゃんが恐ろしいですね。
真也君の【呪拳】ですが、相手とのレベルさがおおきいほど効果も大きくなります。
ブックマーク&評価ありがとうございます。モチベーションが上がります。
感想&ご指摘いつもありがとうございます。感想は何度も読み返します。ありがとうございます。






