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悪食吸血鬼の異世界魔王化(続)計画  作者: 久図鉄矢
弐章 ふうりんかざん
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32. ネトゲですらないのかよ!

 あんなに目立つことをしたのだから、ヒューリァが脅威を覚えたのは、街の有象無象ではない。

 それはすぐにでもわかることだったが、ではどういうモノなのかというと、想像が追いつかない。


 けれど建物の屋上を渡って一直線に移動した飛逆は果たして、それを目にした。


 目が点になった。


「ひさか!」


 同じく屋上に陣取っていたヒューリァが逸早く飛逆を見つけ、手招きしてくる。その屋上に何人かの採集者風の連中が転がっているのはご愛敬だ。


 何はともあれ合流するが、飛逆は眼下の現実を認めることが難しくて仕方がない。


「いや、あのな……」


 誰の仕業なのかは考えるまでもない。この発想はヤツしかありえない。この幻想的物質工学が経験的に発展しているだけの世界で、こんな兵器を思い付き、形にしようなどと考えるのは、ミリスしかいないだろう。


 戦車だ。いや装甲車と言うべきか。なんとも表現のしがたい姿ではあるが、それが目指すべき姿が戦車ないしは装甲車であることは、飛逆にはわかった。


 金属製の板やら盾やらで覆われた車体を、樹脂製のタイヤが支えており、不格好ながらも動いている。これまた不格好なことだが車体上部には砲塔らしきものも備わっており、イメージはやはり戦車なのだろう。


 ただし実際に目に付くのはその周りをちょろちょろと動き回るミニ大砲とでも呼ぶべき、車輪付きのカノン砲台だ。イメージとしてはビット砲台である。おそらくは『流体操作』の【能力結晶】で、その砲身内で圧縮空気弾を形成、射出することの反作用で動いているのだろう。治安機構の隊員と思しき連中を、そのカノン砲台から放たれる衝撃弾で、時には反作用による体当たりで、蹴散らしている。


 実に見事なおひとりさまによるコンボなのだが、その際になんか、


〈フッハハハァ~ッ! ヒトがゴミのようです~!!〉〈平伏せ~!! 愚民ども~〉〈将軍さまのお通りだ~い!〉〈じーIだ~い!〉


 とかなんとか、明らかに脳がやられた種類のアッパーテンションの声が響く。


 【炎竜馴致ルーチン】が未完成とか関係なく、頭痛くなってきた飛逆である。


 本気で何やってんだ、ミリス。


 というか何もかもおかしいので見落としてしまいそうだが、これは一体どういう原理なのだろう。特にあのビット共だ。


 原理とか言い出せば不可解なことは五万とあるのだが、この世界に来てから目にした様々な事象で、説明がまったく付かないことは起こっていなかったように思う。不条理なりに、法則が存在していたのだ。それは縛りと言っていい。決して、


〈甘い! ですよ~ぉォ!〉〈シューティングコンシューマーゲーマーを舐めないでくださ~いぃ!〉〈ワタシを抜きたかったら弾幕迷路でも持ってくるんですねぇ!〉〈むしろこっちが弾幕弾幕ぅヒャッハァー!!〉〈ゴミはシュレッダーだ~い!〉〈Gあいだ~い!〉


 そう、決して、あんな風にエネルギー無制限の弾撃ち放題などを許容する、バグったゲームみたいな仕様ではないはずなのだ。いや、飛逆はシューティングゲームを殆ど知らないのだが。


 あれらすべてがオリハルコン製だというのであれば、動作の説明はできる。見た感じあの大盾とかはオリハルコン製だ。そしてオリハルコンは、念じるだけで【能力】を発動する。だからあれらの内部に原結晶付きのミリスの髪でも仕込んでいれば、彼女の思い通りに【能力】を発動させ、風の噴射などで動作することはできるだろう。だが、そのエネルギー源の説明はできない。あくまでも【能力】を発揮できるだけのオリハルコンでは、こんなに長時間、あれだけの動きを維持することなど不可能なはずなのだ。


 オリハルコンをどうやってあれだけ集めたのかという問題に目を瞑っても、説明の付かないことが大きすぎる。というかミリスが何のつもりでこんな破壊行為をおおっぴらにやっているのかということにも納得がいかない。


 飛逆の悪い癖だ。何はともあれ分析してから、ある程度の予測を基に行動指針を立てる。そのため、仮説さえも立てられない状況だと、こうやって動けなくなってしまうわけだ。ヒューリァにもそこを衝かれて嵌められた。


「ひさか、ひさか。あれ→破壊、援護、放置? ←如何選択」


 そのヒューリァが指針を求めてくる。


「いや……どうしたらいいと思う? むしろ」


 破壊するにしても、次から次へとあの暴走装甲車を止めようと群がってくる連中に混ざって接近するというのは避けたい。飛逆の怪物的部分は、隠していると言っても即席のものだし、激しく動き回ればすぐに露呈してしまうだろう。


 魔王化に関してはもうそれで行こうかな、と方針を固めつつあったとはいえ、この状況は飛逆にとって突発的すぎて、この流れに乗っていくのは大層不安である。従って、目撃者を軒並み焼き払う(消し飛ばす)などの選択肢もできるだけ避けたい。


 放置するのも危険な気がする。何かイカサマの気配がするため、あれはミリスの暴走なのではないかと直観している。暴走した結果は大抵がろくでもない。


〈まだぁいたんですね~! この赤髪がぁ!!〉


 たとえば、なぜか赤髪を目の敵にして、本体と思しき装甲車の砲身をこちらに向けるとか。


「ちょ」マテ。


〈ようやく契約できたっていうのに何死んでるんですかぁ! も~っ!!〉


 発射音に混ざるその言葉を聞いた瞬間に、飛逆はミリスが今どういう状態なのかを概ね把握した。


 ――ラリってやがる。遅すぎたんだ。


 何はともあれ、その砲身から放たれた物質砲弾を、空気に対する浸透勁で迎え撃つ。


 相殺した。威力は大した物ではなかったので、後ろのヒューリァには爆風さえ届かない。


 派手な音に注目が集まる前にヒューリァを抱えて、相殺で発生した煙幕の上を飛び越えて向かい側の建物に移る。


「やっぱイカサマか……。代償は認識力欠如に伴う妄想肥大、幻覚、意識の分裂……」


 大まかな筋は読めた。


 やはりあの時、ヒューリァが致命傷を負った時まで、ミリスは観ていたのだ。そしてどの時点からかは確定できないが、ヒューリァが修復にかけられるところは観ていない。そのためにミリスはせっかく保障を取り付けたヒューリァが死んだものと結論した。それどころか、飛逆たちが全滅したものと思い込んだのだろう。


〈アハハハァ! ヒサカさんまでいます~?〉〈ごめんなさいごねんなさいごねんなさい〉〈ワタシに仕返し〈ごめ〉するため〈ごめんな〉にふっかつのじゅもんで〈んなさい〉も唱え〈さい〉たんですかぁ~?〉〈ごめんなさいごめ〉


 そして自棄になった。その具体的な内容はわからないが、イカサマに手を出した。そしてそのイカサマが彼女の頭の中の何かを侵した。そして暴走した、と。


 何度でも言おう。


 何やってんだ、ミリス。


 屋上を移動して的を絞られないようにしながらも溜息が漏れるのを抑えられない。


「仕方ない。回収していこう」


 放置したら多分、ミリスが再起不能になる。援護するのも同様の理由で却下だ。というよりラリった奴の行動に便乗するとかありえない。


「……剥ぐ? 了解」


 ガントレットをはめた腕をがしゃりと上げるヒューリァだが、


「いや、どうやってもミリスがここまで派手に暴れたことはチャラにできないんだ。だったら、いっそのこともっと派手にやる。上書きするくらいの勢いでな」


 ミリスへのお仕置き的な意味も込めて。


 あと、馴らし運転もついでに。


(あれでミリスも怪物だしな。死なないだろ……多分)


 ミリスにしてみればトンデモないことを思考しながら、右腕の包帯を解くと、赤竜の腕が顕わになる。


「■■■を喰らいし隠仁が喚ぶ。■■■が第伍、其の理を此処に」


 まだ【炎竜馴致ルーチン】が未完成のため、かの理を遣うためにこんなよくわからない呪文めいたものを唱えなければならない。【紅く古きもの】の知識情報にあったもののアレンジだ。


「さて、ヒューリァ。俺はこれから大量殺人者になるつもりなんだが、いいだろうか?」


 相変わらずの笑みを浮かべ、炎熱を纏った腕に生身を灼かれながら、自分では気取ったつもりで問いかける。


 だが、愚問だった。飛逆の見込み通りなら、ヒューリァはその道の大先輩である。 


 無言でガントレットを構えたと思えば、暴走装甲車に群がる連中に向けて、一つ一つが【轟炎華】並みの【焔珠】を雨のごとく降らせる。


 情緒も葛藤もへったくれもない。一瞬たりとも彼女に躊躇はなかった。


 あっという間に眼下は阿鼻叫喚の灼熱地獄絵図と化した。 


「……」


 いや、いいんだけどさ。ほとんど同じ事をしようとしていたわけだし。


 と思いながらもなんとなく釈然としない様子を面に出して、片腕で抱えていたヒューリァを屋上に降ろす。


 初めてのことをするのでそれなりに緊張していた飛逆は、問答無用とばかりに先にやられてしまってなんだかこう、割り切れないものを心に覚えたりするわけである。


 それも、炎にトラウマでも刺激されたのかますますの狂乱を見せる装甲車及びビット共の動きで雰囲気がぶちこわしなわけだが。


 なんだこのカオス。


「え、ええっと、じゃあ俺はあれを剥いて中身出して来るから、ヒューリァは他の連中が近寄らないようにしてもらえるか?」


 投げやりな感じでヒューリァの討ち漏らしを、その腕から放った火弾でトドメを刺しながら、どことなく気後れした語調でとりあえずお願いしてみる。


 初めての無差別殺人がこんなんだった。

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