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宇宙の行方  作者: 春木
第一章 氷河の惑星
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8話 真眼の紅

 あれはなんだったのだろうか。突如として現れた真眼の紅、しかし、あまりにも現実味がなく、忘れていた夢を思い出したような感覚に陥っていた行方は、昇月に背を抱えられ、正気に戻る。


「すまない……。先を急ごう……」


 ゴォン!!


 城内へ足を踏み入れると、すぐに爆発音が鳴り響き、誰かが戦闘しているような激しい轟音が響き続ける。


「真眼の紅……! もう攻めてきたのか……!!」


 少し意識朦朧となっていた行方を支えていた昇月は、「すまないが先に行くぞ」と言葉を残し、行方からゆっくり手を離すと、すぐに音の鳴る方へと駆けて行った。


「たしかに強者同士の争いの気配は感じる。しかし……」


 バタッ――――――――


 その瞬間、行方の付近にいた兵士二名が同時に倒れる。


「こんにちは……行方くん……?」


 行方は、聞き覚えのある背後の声に振り向く。


「どうして……ここにいるんだ……? 今お前は、城内で戦闘しているはずだ……」

「ふふ……。その "脳" で判らないかしら?」


 やはり、夢だったとは思えない。ついさっき会った紅と瓜一つも変わらない声と容姿。行方の警戒心は強まる。


「考えられることは二つ……。お前と僕は既に会ったことがあり、お前は『僕のいる未来』として、大星母の策を見通していたこと……」


 紅はニタリと笑みを浮かべる。


「そして……昇月が向かった先にいるのは、伏兵だった別の龍星群……。蒼は白蓮の足止めか……。お前たちの真の目的はこの惑星のエネルギー結晶ではなく……()()()()()()()だ……!」


 ゴゴゴゴゴゴ…………!!


 その瞬間、惑星全土は大きな地震に襲われ、行方と紅は互いに睨み合いながら身体を震わす。


「この巨大な地震は……まさか……」

「そう。大星母の大団長と蒼が交戦している音ね。でもこの地震を引き起こしたのは、エンゲル▷ヘリオス……。彼の中の神族の炎が覚醒した。今いる地下都市以外、上にある大地……雪原は全て、業火で焼き尽くされているはずよ……。そして、じきにここもね……」

「白蓮が……僕たちを裏切ると……?」

「そうよ。大星母の真の目的は、あの巨大な戦艦の維持と、交易を持つ惑星から反逆されないよう、小さな惑星から結晶化したエネルギーを蓄えること。私たち龍星群は、そんな作戦の中からあなたのことを助け出しに来たのよ」

「そんな……馬鹿なことが……」


 倒された兵士たちは気絶したまま、何かに操られているかのように立ち上がる。そして、兵士たちは突如として、行方と紅に襲い掛かる。

 その動きに、行方はとあることが脳裏に過る。


(この動き……雪原の機械兵器と同じ……)


 行方の視覚を察してか、兵士たちの攻撃を華麗に避けながら紅は口を開く。


「ほらね? 別に私たちが操っているわけじゃないのよ。この惑星も、あなたたちがターゲット……」

「惑星が……?」

「それじゃあ……()()()()()()()でも見てみる?」


 そう言うと、紅は糸のようなもので兵士たちを拘束し、くるくると空中を回り、行方の頭を撫でる。


「何を……!」


 しかし、その瞬間に行方の記憶はフラッシュバックしたかのように鮮明に蘇る。


   *


 地球の月面調査員と別れた行方は、自らブラックホールの中に飛び込み、果てのない宇宙に飛び出した。

 しかし、その旅の始まりは、()()()()に繋がっていた。


「こんにちは、私の言葉は理解できてるわよね……?」


 ブラックホールの先には、行方を待っていたかのように不適に笑う女。赤い長髪を後ろで括り、ピチッとした宇宙服を着ているが、地球人にも似てるその容姿に、行方は少しだけ安心感を抱いた。


「こ、こんにちは……。あの……あなたは……?」


 アテネの脳と連動している行方の脳は人知を超えた回転速度を誇るが、それは行方やアテネが知っているもののみに限られる。宇宙という、未知の領域で行方の脳は機能していなかった。


「私も地球人よ。未来視の異能を持っているの。それで君のことを知っていて、今この時、君のことを待っていた……」


 恐らく、宇宙にはないだろう "異能" という言葉に、行方の安堵は更に強まった。先に宇宙に出ている地球人がいた――考えにくいことではあるが、異能の世界で有り得ない話ではない。

 そして、行方を落ち着かせるように朗らかな笑みを浮かべると、気が付いた時には尻もちをついていた行方に手を差し伸べた。

 

「私の名前は紅。私も君と同じで、神という存在に悩まされてきた。今はとある組織にいて、とある神を探している――――」


 その言葉に、行方は信用以外の感情を失っていた。自分の目的と同じだったからだ。


「そうなんですね……。僕は行方行秋。僕も……とある神を探して宇宙に出たんです」


 そして、紅の手を握り、そっと立ち上がる。

 周囲を見渡すと、草木も生えない荒野が地平線の彼方まで広がっていた。


「この惑星は……? 地球ではないんですよね……?」


 行方の問いに、紅は少しだけ俯く。


「この惑星も、私たちの地球と同じ……。神の好奇心や悪戯によって生まれ……消滅した惑星……」

「消滅……!? 生命や……樹々までもが全て……!?」

「そう。神がその惑星を放棄するということは、その惑星のエネルギーの循環が止まるということ。それは即ち、電池を失った機械のようなもの……」


 行方は悲惨な現状に唖然と言葉を失う。


「えっ……?」


 すると、唐突に紅は、行方を抱き締めた。

 抱き締められた後に気が付いたのだ。自分が泣いているということに。


「大丈夫よ……。大丈夫……。君も……地球も……きっとこんな運命にはならないわ……」


 呆然とした行方の眼前に顔を向けると、紅は申し訳なさそうに小さく微笑んだ。


「ごめんなさい。覗くつもりはなかったのだけれど、私が宇宙で得た能力で……。頭に触れると勝手に記憶が入り込んでしまうの……。君は、大切な人の為にこの果てのない宇宙に出たのね……」


 そう言う紅は……泣いていた。


「紅……さん……」


 紅はそっと涙を拭き取ると、行方の零れる涙に指を沿える。


「贖罪……としては些細なものだけれど、私の能力の一つを君に捧げるわ……。私の未だ使っていなかった能力……。これは、私の中にもう一人の人間を宿らせることができる。つまり……」


 次の瞬間、行方は目を見開き、再び言葉を失うこととなる。


《行方くん……? あれ……? 私……封印に失敗した……? あれ……?》


 それは、紛れもない行方にとっての大切な人、二宮二乃(ニノミヤ ニノ)の声で、二宮二乃の記憶だった。

 人類を生み出したアダムであった夏目を封印しようとした剣を自らに刺すことで、自分を犠牲に人類を守ろうとした行方だったが、その封印の上書きをし、自分が封印されることとなった二宮。

 行方は封印された後に二宮が取った行動の為、記憶にもなければ二宮を制止することもできず、行方が目を覚ましたころには、悲惨な現実が待ち構えていた。

 それを知っているのは……あの場所にいた地球人のみだ。


「にの……みや……?」

《なんで!? というかここはどこなの!? 行方くん、何をしたの!?》


 自らを封印させた二宮。混乱するのも無理はない。しかし、この言葉から察するに、紅が見ている光景を二宮も見ているということになる。

 それは即ち、紅の説明通り、()()()()()()()()()した――ということだった。


「でも、紅さんの中にいたら地球に連れ戻すことはできないし、封印された二宮の身体はそのまま……。やはり僕は……」


 しかし、行方が考えているであろうことを予測し、食うように紅は答えた。


「えぇ。ここで君の旅が終わるということはない。でも、君の大切な人を復活させられる神が生きているとも限らないの。だからこそのこの贖罪……。もし君の旅の果てに二宮さんを取り戻せなければ……私を殺しなさい。そうすれば、私の魂だけが消滅し、二宮さんが私の身体ではあるけど生きることができる」


 唐突な提案に行方は言葉を失う。頭の奥で「嘘ではない」と告げるアテネの言葉が、また更に、行方の鼓動を激しく動かした。

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