25話 崩壊都市
ガササッ!!
「またか!! 泥棒だー!!」
街の商店街、赤い果実を三個盗む少女。怒鳴り声を上げ怒っている店主。
「まあまあ、少しくらい許してあげましょう」
「んなこと言ってたら商売できねぇだろ!」
「あははは! おやっさんとこもやられたか! あの子はすばしっこくて誰も捕まえられねぇんだ!」
「うちなんか肉をやられたよ! 痛かったなぁ〜」
そんな、笑い声の絶えない賑わいの見せる街並み。
「バッカみたい。こんな状態で笑えるなんて」
シャリっと先ほど盗んだ果実を口に運びながら、赤い髪のショートカットの少女は、路地裏からその景色を眺める。脚には自信があること、そして、これくらいの盗みじゃ本気で怒ってくる店はいないことを知っていた。
そんな様子を少し見た後、少女は寝所へと帰り、盗んできた果実を姉妹たちに食べさせた。
「君が……この街を騒がせる泥棒さんだね」
「何!? 着けて来たの!?」
男は忽然と現れ、ニコッと微笑む。
「これも食べるといい」
そうすると、三人なら何日も保つような野菜や肉、果実を不思議な冷たい箱に入れて置いていった。
「こんな世の中で……あんな人がいるなんて……」
こんな世の中、こんな状態。彼女たちがそう呼ぶには、目にも疑いたくなる光景がそこには広がる。崩壊都市と呼ばれる惑星、ルミナス。文字通り、瓦礫や大地は宙に浮き、一歩間違えれば宇宙へ飛び出す、惑星の形を成していない、生物が生きていくには欠損し過ぎている惑星だった。
*
地面に着地すると、そこら中に真っ暗闇の深淵の溝が連なっており、足場という足場が見当たらない。
「こんな危険な場所……生物なんているのか……?」
「あぁ。呼吸もできるし、まだ崩壊寸前で止まっていることから、惑星エネルギーも機能している」
ラムセスでの死闘が終わった後、トートにより、行方、夏目、レイザーの三人は大星母のワープゲートから大星母へと移動。そのまま直ぐに惑星ネージュへと戻った。
理由は簡単、凍結された行方の氷を、レイザーの異能力であれば溶かせると考えたのだ。
予想通り、氷付けなのだから、熱を当てれば氷は簡単に溶け、行方は身体を取り戻すことに成功した。
「これで、僕が元の身体に戻ったら、橙の能力は消える。お二人とも、ここまでですね」
「そうだね。また機会があれば助けに来よう。それまで、無事に生きて欲しい」
ニコッといつもの笑みを見せた後、夏目さんは行方の背を押した。行方は何も言わずに魂を元の身体に戻し、元の行方の人形と共に、二人の身体は消滅した。
「具合はどうだ? 行方行秋」
少しだけくらっとするが、今まで意識だけで言えば行動していただけあって、行方はすぐに立ち上がった。
「あぁ、大丈夫だ。ありがとう、トート」
そして、大星母の研究により恐らくという文言の後に言われた通り、
「異能は……やはり半分以上使えないな……。不死の異能だけは身体的なものだから消えていなくてよかったが……」
ニコの凍結は、ただの凍結ではなく、呪いの類のもの。その為、身体本体の凍結を溶かすことができても、中身の呪いを解かない限り、本体を取り戻したとは言えない。
「ニコは行方行秋を凍結させてしまったことをずっと焦っていてな。既に呪いを解ける可能性がある惑星での調査を進めている」
「それが……崩壊都市ルミナス……」
そして、トートと行方は再び大星母に戻り、ニコたち調査隊と合流する為、崩壊都市ルミナスへと着陸した。
「で、ニコたちが向かった先の心当たりはあるのか?」
「あぁ。恐らくは神族が住んでいたであろう王城跡地だ。その近辺は特に崩壊が進んでいてワープゲートを設置できなかった。だから少し歩くことになる」
「歩くことは構わないが……本当に合流できるのか……? 無線機も使えないんだろ?」
崩壊都市と呼ばれるだけあって、電子的なものも機能しない。唯一、大星母には惑星に流れる電子等を関与しない緊急脱出装置をそれぞれが装着している為、何かあれば大星母には緊急帰還ができる。
足場の悪い大地を物ともせず、ぴょんと飛びながら進み始めるトート。
「まあ、危険地域と指定されてはいるが、龍星群も神族もいない。今までのお前の旅に比べれば、容易なものだろう」
暫くトートに続き歩いていると、賑わいを見せる商店街に差し掛かる。商店街のその一本道の通りだけ、崩壊はされてはおらず、周囲を見ればすぐに星々が見えるというのに、人々は笑い声を上げていた。
「本当に生物がいるのか……。しかもなんだか楽しそうだな……」
行方の言葉に、トートは何も返事はしなかったが、少しだけ険しい顔でその光景を眺めていた。
「やぁ! アンタたち、異星人だろ? うちの肉、仕入れたばかりで美味いぞ! 買って行かないか?」
「いやいや、うちの野菜の方が絶品だ! 値段も弾むぞ!」
行方たちが商店街を通ると、店の人たちはわらわらと集まる。トートは無視を決め込んでいるが、行方は軽い返事をして断りながら足を進めた。商店街を通り抜けると、再び断崖絶壁のような荒れ果てた地が続く。
「この崖で見えないが、上に城がある。ラムセスで教えた星力の使い方、身体を移してもできるか?」
「あぁ……。感覚自体は忘れていないが、この崖を登るのか……?」
確かに、ラムセスに居た頃の感覚であれば平気で登れそうな数千メートルほどの崖だが、身体を移してからは橙の感覚がない為、行方には制御できる自信があまりなかった。
「自信がなければ、少し遠回りになるが別の道を使おう。着いて来てくれ」
そして、崖を回り込むように歩き始めるトート。恐らくは山岳があったように見える、崖、穴から見える宇宙、包むような岩、道のみならず、周囲全てがデコボコした道を、足場に気を付けながら進む。
すると、トートは静かに歩みを止めた。
「どうした……?」
「子供がいる……」
またも訝し気な表情を浮かべ、トートは行方に告げる。行方もトートに追いつくと、二人をジーっと見つめる背の低い茶髪で二つ結びをした少女が呆然と立っていた。
行方は少し不思議に感じていたことは、その少女も、商店街にいた人々も、皆が日本人に近い顔立ちをしていたことだった。
「優しいお兄ちゃんだ!」
すると、行方に視線を移した少女は、笑顔で行方に近寄る。
「優しいお兄ちゃん……?」
お構いなしに行方に抱き着くが、行方は困惑を示し、トートは目を見開いてその少女を見遣っていた。
「ちょ、ちょっと待ってくれ……。君は誰だ……? 僕は君に優しくした覚えがないどころか、恐らく君と出会うのは初めてだ……」
「えへへ! 嘘ついても判るよ! この前、沢山のご飯を置いて行ってくれたお兄ちゃんでしょ!」
「沢山の……ご飯……?」
数時間前にこの惑星に着陸したばかりの行方は、更に困惑を示すが、少女はその人だと疑わずにニコニコと微笑む。
「それは僕のことだよ。人違いをさせてすまないね」
「お前……!!」
少女の更に奥から現れたのは、行方より少し髪が伸びているだけの、行方と瓜二つの男だった。
二人は途端に警戒をし、トートは武器に手を掛ける。
(僕と全く似ている顔だが……髪型や体型が少し違う……。クソっ……アテネもまだ凍結されているし、コイツの存在が判らない……。ただのソックリさんなのか……?)
「お前……何者だ……!」
汗混じりに、行方は男を睨む。男はニコっと笑みを浮かべ、静かに答えた。
「行方行秋……。"無能力者" だ……」
男から向けられる威圧感なのか、はたまた予想外の出来事に脳が追い付いていないだけなのか、行方はゾクゾクと背筋を凍らせた。




