プロローグ
慌ただしく廊下を駆ける足音に、煌びやかな装束の女は振り返る。
内に、その大きな扉はノックもなしに強引にこじ開けられ、戦闘服を身に纏った一名の兵士は、敬礼をしながら息も絶え絶えに声を上げた。
「陛下! 失礼致します! 侵入者を捕捉しました!!」
「ふむ。"奴ら" だな……。して、どこに現れた?」
ゴォン…………!!
国王への応答する間もなく、背後からは爆音が響き渡る。その音に、国王の眉間には皺が寄せられる。
「城内……か」
「はい……。只今、第三班が交戦しているのですが……相手は相当な手練れのようで……」
震え混じりに兵士は告げる。
国王は、その続きに何を言いたいか察し、その煌びやかな装束を脱ぎ捨てた。
「判った。私が出よう」
そうして、隅に飾ってある鉛色の刀を手に取ると、静かに音の響く方へと足を進めた。
*
一面の白い雪、辺りは真っ白な景色しか視界には映らず、女は軽装にブルブルと身体を震わせながらも、ニヤけ面で汗を滴らせる。
女の身体に取り付けられていたレシーバーからは、けたたましい怒号が鳴り響いていた。
「あ……もしもぉし……」
「もしもしじゃないわよ!! 何やってるの、ニコ!!」
「だってぇ……滑っちゃったんだもぉん……」
「作戦会議の時にも話したけど、その惑星は一面が雪の積もった氷河期真っ只中な惑星なの!! ちゃんとしたワープゲートから移動しないと、あなた本当に凍死するわよ!?」
「そ、それはギリギリ大丈夫……。相棒のペコちゃんも一緒に来てたから、防寒装備に変形してくれれば凍死は免れそう……」
「それは不幸中の幸いだったけど……。もしそれで未だ動く機械兵器にでも襲われたら……ペコちゃんの変形無しに戦闘できないでしょ!?」
しかし、ニコはトランシーバーの声に返答することはできず、目の前の最悪な光景に唖然としていた。
「う、うん……。未だ動く機械兵器……いるみたい……」
ガシャン!!
ニコの前に現れた機械兵器は、なんの躊躇いもなくニコに襲い掛かり、鉄で出来た巨大な斧を振り下ろす。
咄嗟に避けるニコだったが、地面の雪に滑り身体は横転し、トランシーバーは鉄の足によって破壊されてしまった。
「えぇ!? トランシーバー壊されちゃった!!」
ニコの相棒、ペコちゃんはなんにでも変形ができる生物だが、防寒装備に変形している為、攻撃に転じることはできない。かと言って、ペコちゃんのいないニコには、戦闘能力なんてものはない。
絶体絶命、ニコの薄っすらと零れる涙すら凍ってしまいそうな中、
ゴォ……ォン!!
座り込むニコの目には、ニコを再び捕捉し、攻撃を仕向けようとしていた機械兵器が、真っ二つに分断される光景が爆発と共に輝いた。
「何……?」
訝し気にも目を凝らすニコ。その眼前、分断された機械兵器の背後には、男の姿が映る。
「なんだ、こんなところに人間もいたのか……」
「君も……人間なの……? どうしてこんな極寒の地で生きていられるの……?」
小さく息を飲み、助かった安堵の中で警戒しながらニコは男に訊ねる。
男は表情を変えず、座り込むニコを静かに見遣る。
「僕は、地球から来た行方行秋。異能力者です」
宇宙の行方 始