1話 氷河の惑星
機械兵器を一撃で倒した戦闘能力に、ニコは警戒を崩さず、行方をジッと睨みながらゆっくりと腰を上げる。
「地球……。え……地球……!?」
行方の発言を繰り返すことで、次第に流してしまっていた言葉の意味に、ニコはハッとする。
「えぇー!? 君、地球から来たの!?」
今度は、トランシーバーが破壊された時よりも大きな声で、行方も多少嫌な顔をする声量で驚いた。
「地球から来たと言いましたけど……。そんなに驚くことなんですか……?」
「だって地球って……宇宙との繋がりを完全に隔ててたから、宇宙進出はしてない惑星でしょ……? もうしてたとか……!?」
行方は、ニコのよく解らない発言の意図を汲もうと思考を巡らせながらも、訝し気に答える。
「それで言うと、地球は恐らく宇宙進出はしていません。月と呼ばれる衛星に着陸……それ以外は、自分たちの銀河系を多少理解している程度でしょうか……」
「じゃ、じゃあ何で君はここに居るのよ……?」
その問いに、行方はフッと白い息を吐きながら、再び無表情にニコを見つめた。
「ブラックホールに飲み込まれて、辿り着いた惑星がここでした。僕には、地球の宇宙開発チームとは違う目的があるので」
その言葉に、今度は声もなく目を見開いた。
少しの静寂の後、敵意がないことを薄々感じ始めていたニコは、緊張した肩を落としながら訊ねる。
「じゃあ君、ここがどんな惑星かも知らずに降り立って、そこからずっとこの氷河の惑星を彷徨っていた……ってこと?」
「そうです。ロボットに襲われたかと思えば、この惑星には襲ってくるロボットしか見当たらず、会話も成立しない。半ば諦めて、別の惑星にでも行こうかと思っていたところで、あなたに出会いました」
そう答える行方に、ニコはニタリと笑みを浮かべる。
「じゃ、じゃあさ、私がここを案内してあげる。だから、私の護衛をしてよ! ウィンウィンでしょう?」
少し考える様子を浮かべる行方だが、答えは直ぐに出たようだった。
「暫くこの惑星を彷徨ってみて、ロボット以外に生存している生物がいるとは思えないのですが、あなたにはその生物の居場所が判る……。そういうことですか?」
「ふふ。たしかにここは氷河の惑星。でもね、ちゃんと国が繁栄しているのよ!! 生物どころか、人類がちゃんと生存している惑星なの!」
その言葉に、今度は行方が目を見開いた。
この数回のやり取りでニコの短絡的思考を理解した行方は、その言葉がハッタリではなく事実であることを察した。
「まずは証拠を見せてください」
互いに、決定打を見せない中で、行方が動く。
行方にとって、彷徨う旅から目的の旅に変わる瞬間であり、即答したい気持ちを抑えて、ニコが悪人ではないことを知らなければならなかった。
すると、ニコは自慢気な表情で、長方形の機械を右手に取ると、舌をペロっと出してピコピコと弄る。
「ほら、見て! これ、この惑星のナビゲーター! 私たちは既に、何度もこの惑星を行き来してるから、どうやって移動するか判ってるのよ!」
素直に関心を示す行方だが、ニコから発せられた些細な言葉を見逃すことはなかった。
「私 "たち" ということは、あなたは一人ではない……。あなたの所属するものが何か、その目的を聞かせて頂けたら、護衛の協力をします」
しかし、ここまで来たら後には退けないと考えたニコは、自己判断で悪意のないだろう行方に、全てを白状する決心の上、口を開いた。
「私は、惑星を管理する組織『大星母』の惑星調査隊員の一人、ニコ=ジェミニ=メイ。訳あって探索チームと離れ離れになって、機械兵器……君の言うロボットに襲われていたところを助けられた……。私たち大星母の目的は二つ、今回の私の目的は、惑星を維持する為のエネルギーに異常を感知したから、その原因を探りに来たの。もう一つは、大星母と繋がりのない惑星と繋がり、管理下に置くこと。管理下と言っても私たち大星母がその惑星を支配するとかって意味じゃないわよ。手助け、支援をするの! そして、惑星や国の繁栄の補助を担う! 立派な仕事をしているの! だけど……戦闘能力のない私が一人になっちゃったから……護衛になって欲しくて……」
急な情報量の多さに行方は一瞬面食らうが、すぐにその内容は理解できた。
そして、ここまでの情報を口早に説明したことで、嘘八百をデタラメに述べているわけではないことも判った。
「判りました。護衛の協力をしましょう。今の発言は全て記憶しました。あなたの発言に一つでも嘘が見られた場合……」
そのまま、行方は冷徹な視線を送ると、一瞬ニコはたじろぐが、強気な姿勢で行方を睨み続けた。
「失礼な態度、謝罪します。僕はどうしても、敵味方の判別をしなければならないのです。ご容赦ください」
殺意を向けてもニコは動じなかったことで、嘘ではないことの更なる確信を得、行方は丁寧に頭を下げた。
「判ればいいのよ! じゃ、君は私の護衛ね! 敬語も要らないわよ!」
すると、先程までの警戒などどこかに消えたように背を向け、上機嫌に行方の前を歩いた。
「なんだか……アイツに似てる奴だな……」
「なんか言ったー?」
「いや、なんでもない。もう少し警戒したらどうなんだ、と呆れただけだ」
「ハァ!? 私が戦闘モードになったら超強いんだから! そんなことも言えなくなるくらいー!!」
そうして、行方とニコは共に行動し、氷河の惑星の都市部を目指して歩き始めた。
*
大星母 惑星調査隊 通信室。
「ダメ……。トランシーバーは破壊されてしまったみたい……。機械兵器はマイナス温度の世界でもちゃんと機能しているのね……」
「やはり、早急に駆け付けた方が良いのではないか? ペコちゃんを防寒装備にしているニコでは、恐らく厳重な機械兵器には敵わない」
「でもね、ニコちゃんは生存してるみたいなの。ほら、普通に歩き出して、都市部へと向かっているわ」
映し出されるモニターには、惑星内部を簡易的に可視化したマップが映し出されており、ニコを捉えたピコピコと光る点滅は移動を続けていた。
「しかし、あの氷河の惑星の氷雪地帯で動くものと言えば機械兵器くらい……。壊されたとしたら機械兵器だが……アイツは逃げられたということか……?」
「なんにせよ、ニコちゃんの無事はここで把握できる。あなたの出来ることは、ニコちゃんの二の舞にならないこと。あなたはニコちゃんと違って、防寒装備なんてないでしょ? いくらここで防寒具を準備したって、あんな場所にいるニコちゃんを救出して都市部に向かうのは無理よ。あなたは、ちゃんとしたワープゲートから移動しなさい」
「……判った」
ニコの無事を少し眺めたところで、マップを少し移動させる。
大きな輝きを見せる座標を示したところで、部屋の中心部に位置するテレポートゲートは煌々と光り始める。
「さあ、準備はできたわ。昇月、ニコちゃんのこと、頼んだわよ」
「当たり前だ」
昇月と呼ばれた白髪を靡かせる男は、煌々と輝くテレポートゲートに足を踏み入れると、次第に身体は透過していく。
昇月が次に目を開いた場所は、大星母が座標を示したワープゲートの設置してある都市内部だった。
「……!!」
しかし、昇月はワープした途端、目の前に広がる光景に目を見開く。
そこには、今か今かと大星母の調査隊を待っていたのであろう兵士たち数十名が、土下座して待機していた。
「な、何があったんですか……!!」
「ハッ……! やっと来てくださった……大星母様……!!」
涙ながらに兵士たちは立ち上がると、昇月を来客室へと案内した。
キャラクター紹介
主人公:行方行秋/地球人
様々な異能力が使える主人公。頭の回転が速い。
◇大星母
ニコ・ジェミニ・メイ
「ペコちゃん」という変形生物を相棒にしている女の子。短絡的な性格。
昇月
白髪の青年。生真面目で正義感が強い。




