重大発表とディスクラスの仲間達
人は百パーセントのうち、一パーセントでも違うところがあると、百パーセントを否定してしまいます。それは白い紙に垂れてしまった一滴の水墨を、紙ごと捨てるように。まるで生きていることが贅沢な奴だとでも言いたげに人は異常に死を宣告するけれども、さて、贅沢に生きているのはどっちなのでしょうか。
都合よく、僕の意識は現実から異次元に旅立っているので、簡単に、僕らのクラスのメンバーを説明したいと思う。うん、なんというご都合主義な展開だろうか。包帯ぐるぐる巻きで輸血パックの点滴を打ちながら机に突っ伏している僕の体の脇に亡霊の如く立つ僕は、教室と同様、古臭い木造の教室内を見回し、十個しかない机に座っているクラスメイトを見回した。前と後ろに五つづつに机は設置されており、窓際の後ろ列に僕の席がある。廊下側の前列と、僕の隣の席、そして僕の前の二つの席が空席だった。占い詞、料理人、境界の双子の席だ。
遅刻ではないだろう。おそらく三人とも、既に講義に出ている。僕のように不真面目ではないからだ。
僕達ディスクラスは、他の学科クラスみたいに同じ教室でいつも同じメンバーと講義を受ける、という形態で講義はしない。ディスクラスにいるメンバーは全員が全員、違う技術を持っているので、そもそも全員で同じ講義を受けるということは不可能なのだ。ましてや、弔能力者と魔法遣いという、科学とファンタジーがいるのだから、絶対に無理だ。
では、じゃあどうやって講義を受けているのかと言うと、それは単純に、自分が受けることができる講義のときだけ教室を抜け出して講義を受けるという形態をとっている。
たとえば、ディスクラスには、『空前絶後の料理人』である、真心愛子という女子生徒がいる。どんな技術を持って、このクラスに割り当てられたのかは分からないけど、料理人という立場の彼女はスペシャリスト学科の料理クラスの講義を今受けている。講義を受けていないときはこのクラスで待機して、また講義があるとまた移動して講義を受け、そうしてこの学園で生活している。つまりはそんな感じだ。
占い詞の露木海月や、境界の双子のアカちゃん、アオちゃんも、今頃講義を受けているに違いない。露木は、陰陽術とか占星術? 僕からすれば、露木はそんなのを学ばなくても百パーセントに吉凶を予言できるのに……。アカちゃん、アオちゃんはきっと実験だろう。あの二人は自分の力を無くしたくてここにやってきたのだから、今頃、見たことのない機械に大はしゃぎして研究者達を困らせているはずだ。
さて、今度は教室内のクラスメイトを紹介しよう。
まず廊下側の後列、机に顔面キスをして座っている、千石智樹。男子生徒の割りに髪の毛が長く、今は顔を伏せているが、顔を上げたら鬼太郎のようなデフォルメになる。身長も鬼太郎並。技術は『狂喜する戦争奏者』というふうに聞いているけど、それは明らかに自称である。正しい技術は『策士』、スペシャリスト学科に、策士クラスというのがあるけれど、彼は精神に異常が見られるため、このクラスにいる。話している分には普通なのだけれど、技術を発揮しようとすると、まるで脳内神経が全てぶち切れたような人格に豹変する。講義はほとんど寝ているようで、百学最大の問題児と呼ばれ、誰も相手にしないらしい。可哀相であるが、自業自得という感じだ。
次。
僕の隣の隣、後列の真ん中の席に座っている金色短髪、包帯ぐるぐる巻きの僕をミイラ男と言って笑い、担任様が話している最中でもちらちらとこっちを見ては笑っている男子生徒は、高峰啓介。こいつは『最凶の豪腕』という、技術よりも才能を持っている。身長は長身で、デコピンで人の頭を粉砕できるその豪腕は最悪なことに長い。啓介は、制御できない自分の豪腕を制御できるようになりたく、そして技術として生かしたいということで、この学園にやってきた。講義はスペシャリスト学科を受け、超科学の実験で、腕力をセーブできる装置を付けている。性格は良く、一般的だが、ツッコミとかが洒落にならないので注意が必要だ。
啓介の隣の席に座っている、深い緑色の長い髪をポニーテールにして、左目には眼帯、厚い眼鏡をかけながらクリップ式のイヤホンを付けているという、かなり奇抜な姿をしている女子生徒は天平紫。彼女も技術というより異常な才能を持っているためこのクラスに入ってきた。『絶対感覚』という才能だ。人間に聞き取れるものなら全てを聞き、人間に感じ取れる味なら全てを味わい、視力は人類最高で盲点なし。臭いを嗅いだだけで、料理なら材料を全て言い当てれるほど。絶対音感の全身版のような才能である。さらに、絶対に自分の感覚を間違えない才能であるらしい。どういうやつかは、よくわらかない。紫は、自分の才能を無くしたくて入学した。ゆえに、講義は受けず、実験だけを繰り返して自分の才能を無くそうとしている、眼帯や、視力に合わない眼鏡やイヤホンは、少しでも自分の感覚を鈍らそうという試みだそうだ。
残った前列の二つの席には、『魔法遣い』と『弔能力者』が、険悪なムードを出して座っている。科学とファンタジーの立場のせいか、二人は入学したときからめちゃめちゃに仲が悪かった。犬と猿のように。大人しい綾宮仮名がシェパードで、騒がしい三葉唯がニホンザルと、学園内ではそういう呼び名が付いているらしく、それを使って賭けが行われているということを露木から聞いたことがある。本当か嘘か、とにもかくにも、二人には仲良くしてほしいというのが僕の本音だ。二人のくだらない喧嘩で、僕が何回四肢を吹き飛ばされたことか。今後、超能力学科か魔法使い学科か、それか超科学学科のどこかが馬鹿みたいな奇跡を起こして、この二人の仲を円満にしてくれることを切に願うところである。
「おい吸血鬼、いつまで寝てんだよ。さっさと起きろ」
と、僕をミイラ男にした張本人が、容赦なく僕の頭を殴る。亡霊なのに、痛みが走った。
この人には血も涙もないのか。教育委員会に訴えてやるぞ。
そう思った途端、僕の意識は肉体に回帰して、体の感覚が戻ってきた。
しかし、僕は決してすぐにおきようとはせず、ちょっとした反抗心として、どんなことをされても寝続けようと考えた。日頃担任様の無理難題をこないしているのだか、少しぐらいこういったことをしてもいいだろうという無言のストライキ(?)をする。
どうせ、僕がわざと寝ているなんて、分からないのだから。
「……こいつ、わざとミーを無視して寝込み決めてやがるな」
さっそくばれてしまった。どういう感覚をしているんだよ、あんた。
「起きないと、お前の恥ずかしい秘蔵写真を校内にばら撒くぞ」
「………………」なんの?
「せんせー、その写真ってどんなもんすか?」
僕の変わりに啓介が担任様に質問する。ナイスなのかどうか分からないけど、僕は耳をそば立てて担任様の発言を聞くが、どうせハッタリだろう。僕にやましいことなんて何も
「あいつの風呂場での裸写真」
おいーっ! どうしちゃってくれてんのあんたはー!
なんだそれはっ! 盗撮ですか!? 担任が生徒を盗撮してどうするんだよ! せめて窓ガラスを割ったときの写真とか、妹と手をつないで買い物をしたときの写真とか、そういうのにしろよ! 存在自体が法的に違法な奴は駄目だろ!
そもそも、風呂場って、男子寮の大浴場には隠しカメラが置いてあるの!?
「……いつむの、裸写真」
「いつむさんの……」
確実に仮名と唯は引いてるーっ! 深いような熱いようなため息を漏らしていらっしゃるーっ!
「私それ欲しい!」
堂々と欲しがるな紫! お前女子だろ! 学級委員だろっ!
「俺にもくれよ先生」
黙れ馬鹿! 死ね馬鹿! てめえ啓介、ぜってー学校ネット掲示板に貼り付ける気だろ! ふざけんなよ。そんなことぜってーさせ
「ああ啓介。安心しとけ。この写真は既にミーが全国ネットに流したから」
「ちょっとまてやクソ担任んんんんんんんんっ! それはいくらなんでもやりすぎだろうがぁぁあああああぁあああぁああああっ!」
ようやく。
僕は自分の体に戻り、抑えきれない感情を全身で表現するように立ち上がった。
というか、もうどうにでもなれという感じだ。
だって今頃僕のあられもない姿が貼られて、もしかしたら仲間達に見られているかもしれないのだ。中途半端な吸血鬼である僕を『吸血鬼モドキ』と称して村を追い出した彼らが、僕の姿を見て何も思わないわけが無い。
きっと僕を血眼になって殺そうとしているに違いない。
村の汚点だったからねえ。さらに吸血鬼の品格を下げてしまった。
だから僕は、最低限のことをしよう。
そう。
「親にも見られたことがないのに、あんたって人はああぁあぁぁぁあぁああああああっ!」
と、僕は担任様に飛び掛った。
武器はなし。けれど決死の覚悟なので、いわゆる神風という奴で。担任様の首根っこに手を伸ばした。
しかし、担任様は不敵に笑いながら、
「おいおい。セリフとキャラが違うだろ? ミーはブライトさんじゃあないよ」
言いながらも、今ではかなり有名となってしまっているブライトさんの謎のポーズをとり、体を戻す容量でそのまま右ストレートが飛んできた。
「べえっ!」
などと情けない声をあげたのは、言うまでもなく。
僕は教室後方に思いっきり吹き飛ばされた。
ああ、本日三度目の死亡だ。顔面の感覚と頭の感覚がないもん。
「……まーったく。冗談だよ冗談。ミーがそんな酷いことをする人間に見えるかい? あたしはガリラヤの湖上を歩ける人間だぜ? こんな人外鬼畜畜生なことはしないさ」
どうしてこうもこのクラスの人間は、前半部分と後半部分に差異が生じる自己表現をするのだろうか。明らかに、担任様も嘘を言っている。
それにしても、よかった。写真は流れていないのか。
これで僕は仲間に殺されることは無くなったわけだ。ばんざーい。
「安心しとけ。これは校内掲示板に貼り付けただけだ」
「もっと駄目だろ! 僕退学にさせられちゃうじゃん!?」
なんとか僕は力を振り絞って言うべきことを言っておいた。
気が、遠くなってきたああ。
「大丈夫大丈夫。ミーがどうにかこうにかしてお前を退学させないようにするかっらさ。こんなの、ただの悪ふざけだぜ?」
あんたの悪ふざけが過ぎるからこのクラスの評判が悪くなるんだ。
「さて、じゃあいつむも起きたことだし。今日の緊急連絡をお知らせしまーす」
担任様は堂々と僕を無視して、毎度おなじみの緊急連絡を話し始めようとしていた。そして誰も僕のことを気にかけている様子も無い。全員クスクス笑って僕を眺めている。
そうですよ、どーせ死んでも無理やり血を飲まされれば生き返りますよ。でも痛いのは痛いんだよ?
そして。
今日の夜、僕らが何の変哲も無い虫取り網を片手に、この広大すぎる校舎を徘徊する目的を、担任様は実に楽しそうに言い放つのでした。
「今日お前らには、悪魔を捕獲してもらう。U・N・オーエンは彼女なのか?じゃあ、ねえぞ」
どうもありがとうございました。




