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ディスクラス

地球には六十億人の人間はいますが、そのうち一体どれほどの人間が普通なのでしょうか? もし自分が普通だと思う人がいるとしたら、きっとその人の周りには異常な人しかいないのでしょう。そしてきっとそんなことを言う僕は、とっておきの外れ者なのでしょうね。

 百科教乱技術学園の学部は、星の数ほどとはいわないまでも飴缶に入っている金平糖くらいはあるだろう。この世のありとあらゆる技術が集約されているのだから、まあ、当然である。

 たいていのキャンパスは東京都内、あるいはその近郊、人口の多い府や県にあり、敷地面積はどれも大きいそうな。建築学部のキャンパスは特に大きいらしい|(増築しまくっているらしいから)。

 『学園』と、呼ばれてはいるものの対象年齢は定められてはおらず、『技術を学びたいもの、自分の才能を技術に昇華したいもの、あるいは研究したいもの』なら誰でもいいということで最年少で六歳、最年長では八十九歳までいる。もはや大学と言ってもいいほどだ。現に、世論はそう捉えているらしいが、通っている僕にとってはただの学校と何も変わらない。

 ……さて。じゃあ僕達のキャンパス、特別学部の紹介をしよう。

 特別学部というのは文字通りの意味で、『特別な技術の学部』ということ。ありていに言ってしまえばファンタジーチックな学部ということだ。

 超能力学科に、魔法学科。超科学学科や陰陽学科に占術学科などなど。とにもかくにも、そういう技術、あるいは異能を持った生徒が集まる学部である。生徒数は約五千人強。キャンパスは本土から離れた弓ヶ月島|(通称ネバーランド)という所に建っている。敷地面積は……よく分からない。マンガみたいに場か広いということしか知らない。啓介曰く、佐渡島より一回りほど小さいこの島の五分の二を占めているらしく、建築学部の次に大きいそうだ。集まる技術が特別な分、それだけ研究材料とか機具とかが多くなりその分場所を取ってしまうということだろう。どれだけ金がかかっているのか想像できない。借金が多い日本のどこにこれぐらいのものを建てて機具を揃えれるのか、そんな金があるなら僕達か弱気子供に分け与えてほしいものである。やれやれだ。

 ため息と共に、僕は果てしなく長い廊下を一人、歩いていた。

 寮から出て、キャンパスに入ってからかれこれ、三十分は歩いている。

 いいかげん足が吊りそうだった。


「……いつになったら、逆転装置は直るんだ?…………はあ。吸血鬼だからって、僕は空は飛べないのに」


 自分の中途半端な才能に嘆きながら、中身のない鞄を持つ手を変えた。

 僕達、特別学部異常学科特異クラス、通称ディスクラスの教室は、広大なキャンパスの隅っこにある。ちょうど寮とは対角線の位置にだ。

 直線距離にして、えーと……分からない。これまたふざけた距離のはずだ。

 迷路のような校舎内を行くのだから、当然歩行距離はそれより長くなる。倍くらいにはなるのではないか。

 逆転装置というのは、超科学学科が作った『無重力を作り出す装置』のことだ。正式名所は、『万有力無力化』ナントカカントカ装置で、名前が長いから生徒の間で逆転装置といわれていた。

 装置のおかげで今まではフワフワと浮きながら教室まで行くことができたのだが、とある馬鹿女子生徒が暴れてぶっ壊してしまい、修理中となっている。治るのは来週らしいが、再び使われるかどうかは分からないと聞いた。意外と皆さん、超能力とか魔法とかロボットとか式神とか使って校舎を楽々と移動しているみたいだ。

 吸血鬼の癖にほとんどスキルを使うことができない僕だけは徒歩という手段を選ぶしかなく、こうして完全遅刻登校をしているのだ。


「まったく……逆転装置を壊しやがって。もし目の前にあの暴れん坊ゴリラ将軍が現れたら噛み付いて鉄分を全部吸ってやる」

「誰に噛み付くって? いつむ~」


 ビクギクッ! と、僕の体は反射神経を駆使した。

 あまりにも唐突、そして突然の声に、僕の汗線は観音開きになり水分を出し始めた。

 ゆっくりと振り向いてみると案の定、そこには逆転装置をぶっ壊した張本人が浮いていた。


「や、やあ。ゆ、ゆゆゆゆゆ唯さんじゃあ、あーりませんか。一体、どうしてこんなところに?」


 艶のある髪とぱっちりとした深い黒の瞳が僕を睨み、腕を組んで毅然と浮いている三葉唯は笑っている。


「いつもなら、この時間帯は教室にいるの……でばっ!」


 うやうやしく敬語を使っていたら僕の視界は奪われ、こめかみに激痛が走った。


「朝っぱらからアイアンクロー!? いで、いででででででっ!」

「いつむく~ん? 別にあたしは復唱要求だとか、赤文字で語れとか、愛がなければ視えないとかは言わないけどさ。さっき、なんて言ったのかなぁ。最近アニソンの動画を大音量で聞きすぎて、聴力が弱くなってるみたいだからよく聞こえなかったの。もう一度、言ってみて。ね?」


 最後の、ね? という言葉に合わせて、握力が強くなった。なんと脅迫の仕方がうまいことか。視界を奪われているのに、なぜか唯の顔に青い筋がピクピクと浮いているのが鮮明に分かってしまう。

 やばい、どうしよう。素直に白状してしまったら、きっとこのゴリラのような握力が今度はハルクのように強靭に


「いでええええええええぇええぇぇええっ!」

「誰がゴリラの如くよ! あたしは細身でか弱い女子生徒よ!」

「前半は事実かもしれないけど後半は明らかに誇大広告うぎゃああああああああああ!」

「うっさいだまれ! このまま握りつぶしてやろうかぁああああ!?」

「ちょ、たんま! マジで! つーか勝手に人の思考を読み取るな! 念波会話読心術テレパシーはあまり使わないんじゃないのか!? どうして僕のときだけ行使するの!」


 しかも何気に念超力サイコキネシス使って体動けなくしてるし!

 やばい、殺される!

 ジュラシックパークのジュラキオサウルスに遭遇した哀れな被害者みたいに頭を食われ


「ってまた強くなってるしぃぃいいいいいいぃぃいいぃいいいいっ!」

「だ・れ・が恐竜のような顎力を持ってるってぇえぇええええ?!」

「ぎゃあぁぁぁああああぁああああぁあ! マジで、マジでやばいから! あ、電気系エレキも加えないで! 吸血鬼だからって、再生能力はほとんどないのにいぃぃぃいいいいぃいぃい! あぁぁあぁあぁあああああああああっ!」


 ボキュ。

 あ、死んだ。




「もう。あんたが何度も変なことを口走るから遅刻したじゃない。どうしてくれるのよ」

「……一度しか僕は変なことを口走ってないから」


 しかも遅刻した理由を押し付けられてるし。

 廊下であった時点で時計の針は超過してたんだけどなあ。


「それでも十分、無駄な時間を過ごしたよ。まったく……」

「まったくって……人の頭蓋骨陥没させといて随分な言い分だね。僕が非常時用の輸血パックを持ってなかったら、今頃僕は保健室じゃなくて超科学学科の生態クラスで研究材料にされていたんだから。少しは謝罪の言葉でも述べてほしいよ」

「何よ。まさかアレぐらいの念力サイコキネシスで頭がつぶれるなんて思わなかったの。男のくせに、頭がやわいのが悪いのよ!」

「僕か!? 僕のせいなのか!? 頑固頭で怒られる親父はいるかもしれないけどやわいので怒られるのなんて変でしょ!」

「骨に芯が通ってない!」

「普通骨は空洞なの!」

「うるさい黙れカス! 文句を言うなら連れて行かないよ!」


 そういわれてしまうと、僕は何も言うことができなかった。

 現在。頭を陥没させられ、非常時用輸血パックを飲んで吸血鬼の力を上昇させて頭を再生させたあと、どうせだからと唯の力で空中歩行さえられてもらっている僕は、いわば馬に乗った素人サラブレッドだ。暴れ馬の言うことを聞かないと、落とされてしまうので大人しくしていないといけない。

 ……あ。


「いでええええええぇぇぇぇえええええ!」


 ギリギリと頭を締め付けられた。念超力サイコキネシスで。


「だからどうして僕の心を読む! 超能力学科ではプライバシーの問題をやってないのか!? 唯はそっち系のカリキュラムは選択してるはずでしょ! 女子の覗き趣味はあまり需要はないんだよ!?」

「……ふん」


 そっぽを向かれた。応える価値のないことらしい。

 まあいいや。こっちは施しを受けている側なので、冷静に受け流そう。プライバシーの問題はいただけないが、やましいことはないので今は置いとく。もうそろそろで教室だし。他愛のないコミュニケーションといこうじゃないか。

 生憎僕は念波は飛ばせないので、普通に音波で。超音波じゃなくてね。出せるけど。


「昨日借りたあの漫画なんだけどさ」

「面白かったでしょ」

「面白いって言えば面白いけど……子供と大人が戦争する話しでしょ。あれ」

「嫌なの?」

「血が出るのはちょっとね」


 バツが悪そうに僕が言うと、唯は呆れるように横の僕を見た。


「吸血鬼なのに。血が怖いの?」

「怖くはないけど。血を見ると不用意に動悸が早くなるんだ」

「興奮?」

「多分ね。輸血パックの血とか、地面に落ちてる血とかならいいんだけど。人から流れてるのを見ると、漫画でも騒いじゃうよ」

「訓練よ訓練。吸血鬼の力を薄めたいから、この学校に来たんでしょ? だったら頑張りなさい」

「……平然と人の心を読む人に言われたくないよ」


 そして教室に到着した。

 超広大な面積を誇る学園の一番端、倉庫や授業道具など、つまり物置的なところに、無理やり作られたようなところに、僕達の教室はある。

 他の教室は近代的な造りだが、僕達ディスクラスの教室は完全に昭和後期の廃校みたいな造りだ。

 毎度毎度、教室前に着くと、やっぱり僕達ははぐれ者なんだなあと意識させられてしまう。まあ、ディスクラス内ではぐれていることを悔やんでいるものはいないが、それでも、こう、露骨に示されると気が滅入る。

 隣の弔能力者はそんなことは、露にも感じさせないようだった。


「いつむ、開けなさいよ」

「どして僕が?」


 理由はたいてい予想は付くが、とりあえず訊いてみる。

 どうせ、僕達二人は完全遅刻をしているので、きっと担任様である奇術師はこの上なくキレてるに違いないから僕にドアを開けさせて先制攻撃を避けようという魂胆だろう。逆転装置がぶっ壊れた初日、同じく遅刻した僕は、現にドアを開けた瞬間にナイフが飛んできて滅多刺しにされたものだ。緊急用の血があったからあの時は助かったけど、今は既に使い果たしてしまっているから今度同じことをされたら溜まったものじゃない。


「あなた死なないじゃない」

「いや死ぬからね、普通に。血がないと普通の人間だから」

「じゃあ死にそうになったら血を吸えばいいじゃない」

「緊急用の血はもうないからね」

「他の人の血を吸えば良いじゃない」

「誰の血を吸えばいいんだよ」


 このディスクラスの人間には、死に掛けている僕に血を吸わせてくれる心優しい奴なんて一人としていない。誰もかれも、僕が死にそうになっているのを嗤って見過ごすか、トマトジュースを差し出してくるかだ。学級委員の智樹にいたっては、タバスコを出してくるかもしれない。

 いったい、誰の血を吸えばいいのだ。

 そう言うと、なぜか唯は頬をかすかに赤らめて視線を逸らした。しかも肩が微妙に揺れている。

 明らかに不自然な反応。

 僕は変なことを口走ってしまったか?


「あのー、どしましたか? 唯さんー?」


 顔を覗き込んで呼びかけてみるが、さらに逸らされる。


「あ、あのさ」

「はい、なんでしょうか……」


 どこか震えた声で言ってくるので、僕も少しだけ緊張する。


「もし死にそうになったら、血は……、あたしの」


 瞬間。

 唯の言葉は遮られ、僕の視界は真っ暗となった。

 何も分からないまま壁に叩きつけられ、意識が朦朧とする。どうやら目は潰されて、僕を吹き飛ばしたのは、目の前のドアごと飛んできた教卓だったようで、現に僕の手に触れている木はそれっぽかった。

 声が聞こえる。


「よう、吸血鬼に、殺人超能力者。随分と朝から仲良しこよしに登校してきてくれたなあ。担任のミーは嬉しくてこめかみの血管がぶち切れそうになってるよ。ハッハッハッハッハ!」


 自分の生徒を重体にしておいて、まるで面白がっているように喋るこの女帝の声は、聞き間違うことはない、担任様だ。自己主張の激しい強烈な煙草の臭いが、その証拠。煙草は気分が悪くなるから止めてくれって、生徒会長に目安箱へ破裂するくらいに入れておいたのに。何をやっているのやら。

 あー、血の臭いとか感触とか、人から流れる血とかは、興奮してしまう。目がつぶれて鼻と耳しか外部を感知できないのに、なぜか鮮明に状況が説明できる。

 担任様は煙草を右手に持ちながら、極悪な笑いを浮かべて僕を睨んでいるみたい。

 びくびく怯えて横に立っている唯には一瞥もくれないで、なぜか僕だけ。多分、遅刻魔だからだろうなあ。別に好きで遅刻しているわけじゃないく、僕だけ特殊な力が無いからなのに。しかも遅刻は未だ五回しかしていない。

 四捨五入ということなのだろうか?


「ん? なんだなんだ吸血鬼。死にそうになってるじゃないか、情けない。それでもミーの生徒なのかい? 以前教えた変わり身の術は使わないのかよ」


 あんたの生徒だからこうなってるんでしょう。あと、そんな術は特殊部隊学科か、奇術師のあなたにしか使えないよ。

 呆れるように首を振った担任様は、つかつかと、おそらくハイヒールの音をたてて、僕の目の前に立った。目はないけどさ。

 うぐっ! 髪引張られた。ものすごい力で、体を無理やり起こされる。


「朝からいちゃいちゃしやがってまー、ミーの朝のHRま犬にでも食わせておけっていうことか? まったく、お前らはどいつもこいつも救いようがない異常者だ。大人の言うことも聞けないなんて、それでも子供かよ。お前」


 これでも僕、三世紀ほど生きているのですが……きっと貴方よりも年上ですよ?

 殴られた。


「……まあいいか、罰は与えたことだし、今日はこれで勘弁してやるよ」


 僕を投げ捨てると、じろりと唯をにらみつける。唯は、ひっ! と小さな悲鳴をあげて固まってしまったが、担任様は何もせず、教室の入り口に立った。


「さっさと入れ二人とも。今日はミーから大事なお話しがあるからな。早くしろ」


 そして、ああ、そうそう、と担任様は思い出したように、突然笑顔になって、言った。


「そういや、挨拶を忘れてたな。挨拶は大事だ。異常異端で孤立したくなけりゃ、挨拶はとても大事だ」


 まるで僕達に異常者の烙印を押したくて押したくてしょうがないように、そして僕が毎朝毎朝、こんな露骨に異常者ということを示されると気が落ちる、最悪の挨拶を担任様はして、今日という最悪な一日が始まった。




「今日もようこそ、我らがディスクラスへ。おはようで始まり、さよならで終わるまで、楽しい一日を過ごしましょう」

弔能力というのは誤植ではありません。

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