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 電車ってバスよりも速いんだ……なんかもう、あまり驚かなくなってきた。

 下の車輪は、多分この『魔』と化した子たちが動かしてるんだろうね。

 

 確かに肉体を失ったこの子たちなら、疲れ知らずで魔力が続く限り延々と働いてくれる。

 魔力が切れかけてきたらどこかで人族を始末して、上に繋がってる線で魔力供給をする。


 凄い残虐性の高いシステムだね、私でもこんなの思いつかないよ。

 自分たちの利便性のために、同種族である人族を殺す。

 でも、人族って他人の不幸を喜ぶって聞いたし、納得のシステムなのかも。


「何か、怖いこと考えてない?」

「ひっ、い、いえ、なっも、考えてっません!」


 まぁ、どんなに残虐性があろうが無かろうが、私には無縁の話だし。

 戦う? とんでもない、命が何個あっても足りないよ。

 それこそ、一度は失ってしまった命なんだからね、大切にしないと。


 ……なんだけど。


「あの、ふ、楓子様」

「んー? また何か知りたいことでもあった?」

「いえ、あの、な、なんか、段々と人ぞっが、増え、増えてませっ、か?」


 電車に乗った時は二十人程度しかいなかったはずなのに、今は百人くらいいる。

 みんな楓子様が持っていた薄い板を無言で触り、無表情のまま指を動かし続けていて。

 なんか、ちょっと不気味だ。


「山から都会に近づいてるからね、それにニュースでドラグル族のこともやってたし、見物に行く人も沢山いるんじゃないのかな?」

「そ、そっそ、そうなっ、ですか?」

「うん、多分ぎゅうぎゅう詰めになっちゃうんじゃないかなー? でもまだ三十分くらい乗りっぱなしだから、ちょっとだけ寝よっか」


 え、寝る? こんな人族が大量にいる中で、寝るの?

 だって、人族って同じ種族であっても殺し合う、危険な種族なんじゃないの?

 しかもこれだけ大量にいるんだから、いつ殺し合いが始まるかも分からないのに?

  

 凄い、楓子様目を閉じて、本当に眠り始めてる。 


 だ、だだだ、だ、大丈夫なの?

 でも私、怖いからこのままじゃ眠れないよ?

 眠った瞬間に八つ裂きとか嫌だし、目が覚めて楓子様いなかったら嫌だし。


 どうしよう、どうし…………あ、あそこなら、私でも眠れるかも。


「…………ん? え、あ、ちょ、ちょっとアズちゃん!」

「ひっひぇ⁉ どどど、どうしました⁉」

「ダメだよそこ! 金網だよ!? そこ荷物置き場だから!」


 え、金網? 荷物置き場? だって、誰も荷物なんて置いてないよ?

 それに、ここなら人族の手も届きにくいし、殺されないし、え、ダメなの⁉

 ひぃっ、人族全員こっち見てる、ヤバイ、こ、ここ、殺される⁉



「ずみっ……えっく、ばぜっでっだ」

「確かに寝ようって言ったけど、まさか金網で寝ようとするなんて」

「ごぇっ、なざい」

 

 あまりに怖くて泣いちゃった。

 その後もずっと人族の奴等、私のこと見てひそひそ話してたし。

 禁止行為ならバリアで塞ぐとか、トゲとか設置しておいてくれればいいのに。

 あんなのじゃダメとか分からないよ。


「あ、あの、楓子様、まっ、また、歩く、ですか?」

「アズちゃんのせいで二駅前で降りちゃったから、しばらく歩くよ」

「……すっすません」

「いいよ、私が言葉足らずな所があったんだからさ。アズちゃんが普通の子に見えちゃってたから、なんかちょっと間違えちゃった。これからはちょっとだけ細かく説明するようにするね」


 普通の子? ということは、やっぱり私は普通ではないということか。

 見た目が人族でも中身は甲殻族のアズモンデオなんだから、普通なはずがないのに。

 

 電車を降りてからは、楓子様の言う通りさらに人族が増えている。

 王都ってこんなに大きいのって思うぐらいに、ずっと黒い道のままだし。

 

 背の高い建物も随分と増えてきた、楓子様曰く、城っていうのはもっと大きいらしい。

 一体どれだけの建築技術なんだろう、ここまでくると尊敬しちゃうレベルだね。


 それに……。


「ふ、楓子様」

「んー? どした?」

「あの、都会って、凄いですね」

「……何が?」


 楓子様には見えないんだ。

 青い空が黒く見えちゃうぐらいに大量にうごめく『魔』の存在が。

 くふふ、あれだけの『魔』があれば、ドラグル族の蘇生なんて楽勝なんじゃないかな。


「あ、事件かな? パトカーが止まってる」

「ぱとかー? ……楓子様、見に行くっ、ですか?」

「別に見たくはないんだけど、なんか人だかりもあるから、気にならない?」


 気になりません。と言いたい所なんだけど、ちょっとだけ懐かしい臭いもするんだよね。

 それに聞こえてくる人族の声……多分、これって、あの種族のことを言ってるんだろうな。


 ――なにあれ、またアレが出現したの?

 ――緑色の子供みたいで、気味が悪い。

 ――もう死んでるんだし、行こうよ。

 ――誰だよ殺したの……。

 ――最近だと、動画ネタのために配信しながら殺したりするらしいよ。

 ――気持ち悪いし、見たくもない。

 ――世界が変わっちまったのかねぇ、昔はあんなのいなかったのに。


 不穏な内容だね、楓子様には聞こえてないみたいだけど、私には全部聞こえてくる。

 それにこの空気は、間違いない、私の知る魔界の臭いだ。


 沢山の人族の陰に隠れて、緑色の肌をした魔物が横たわっている。

 既に死んでいるのかな、魔力も感じられないし、生きている感じも伝わってこない。


「ね、ねぇ、アズちゃん、あれって」 


 惜しいなぁ、生きてたらペットに出来たのに。

 ゴブリン族の戦士かな?

 ゴブリン族は一匹いたら百匹いると思えって、人族では有名な魔物だと思うけど。


「……はい、もう、殺されています」

「え、あ、う、うん、そうだね。ねぇアズちゃん、あれってゴブリンって生き物なのかな?」

「そうですよ……? ゴブリン族なんて、そこら辺に沢山いたじゃないですか」


 もっとも、最近だとギルドの連中がほとんど殺しちゃったって聞いてたけど。

 ウチで匿ってたのが千匹くらいいたけど、その中の一匹だったのかな。

 ごめんね、いま蘇らすと人族に殺されちゃうから、後でゾンビにしてあげるからね。

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