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鳥獣研究所って鳥や獣を研究する施設、どうやらそこにドラグル族が運ばれたらしい。
どうやって運んだのか質問すると、楓子様はいつもの薄い板を見せてくれた。
「ヘリコプターで空中輸送したみたいだね。凄いよねこの動画の再生回数、昨日のことなのにもう一千万回以上再生されてるんだってさ」
「……あ、へ、へり? へりらぷたーって、なっなですか?」
「なんですかって言われても、見た通りの機械としか言えないなぁ。私も細かくは知らないし」
「そう、ですか。あ、そ、そのスマフォ、復活したんですね」
「うん、さっきのコンビニでモバイルバッテリーレンタルしたんだ」
こんびに? もばいる、ば、ばってれ?
人族の言葉は理解できない単語が多いね。
勝手に開く扉とか、勝手に上がる階段とか。
しかもそれのどれも楓子様に聞いても「分からない」って返事ばかり。
よく分からないものを当たり前のように使うって、怖い事だと思ってしまうのだけど。
「朝洞窟を出て、歩いて四時間、バス一時間の電車一時間、もう午後四時かぁ」
「……そ、そっ、ですね」
「これだと到着してもロクに見る事できなそうだけど、それでも行く?」
「あ、は、はい、いきたっです」
私の目的はドラグル族のアンデッド化だから、近づければ問題ないの。
魔力注入の為に触れる、それが出来れば一番いい。
だけど、この都会の魔力に、電車から貰った魔力。
これさえあれば……。
「そりゃそうだよね。なーんて、実はもう到着したのでしたー!」
そう言うと、楓子様は両手で看板を指し示す。
自慢げなニッコニコの笑顔で、どうだ! と言わんがばかりの顔をしているけど。
「あ、読めないか」
「す、すませっん、勉強っいます」
「そだね、今度日本語の勉強一緒にしようね。五時まで入場可能みたいだから、早速入ろっか」
沢山の人族が同じ方向に歩いている。
楓子様の言っていた通り、ドラグル族の死体を見にわざわざ足を運んでいるのだろうか?
さっきの薄い板で見れるのに、わざわざ実物を見て何が楽しいんだろう?
私みたいに別の目的があったりするのかな?
『そういうのを無駄だって割り切ってしまう辺り、魔王様の怖い所でもあるんですよね。実際に見て聞いて触れて感じて、そういう五感を働かせながら無駄を楽しむのが、人族の強さなのかもしれませんよ? とはいえ、僕たちスライム族も、そういった人族の真似事をしているだけですけどね。無駄に生き物を殺して楽しむ、ああいった無駄は、僕達には楽しめそうにありません』
自らを液体化できるにも関わらず、敢えて人型を好むペットの言葉を、ふと思い出した。
無駄を楽しむか、今の人族を見る限り、それが一番適した言葉なのかもしれないね。
「あ、アズちゃん、見てみて、あそこのブルーシートの中にいるんだってさ」
無駄を楽しむ人族の群れに死骸を晒されて、死してなお奇異の視線を向けられ続ける。
快楽と愉悦、それこそが人族が望むものであり、その為ならば無駄を無駄と思わない。
怖いよ、スライム族、私はやっぱり、そんな人族のことを怖いと思ってしまうよ。
『魔力反魂』
小声で魔法を唱える。うん、楓子様、私にはもう分かってたんだ。
ドラグル族の匂いを、私の鼻がすでに感じ取っていたから。
「あはは、やっぱり遠くて見れないね。それに隠されてるから、近くてもダメかな。せっかく展望台まで登ったのにね、残念残念。そろそろ帰ろ……え、なに、警報?」
近くても、遠くても、触れても、触れなくても、今の私には関係ないの。
だって、魔力が満ち溢れてるから、途方もない量の魔力が、そこにあるから。
――おい、なんか警報鳴ってないか?
――見て、研究所の人達が沢山集まってきてる。
――警察官や自衛隊もいるぞ?
――え、ちょっと、ブルーシートの中、動いてない!?
周辺にいた人族が、こぞって踵を返して走り去ろうとしてる。
見に来たんじゃないの? ドラグル族を見たくて来たんじゃないの?
何もしてないのに殺されて、悔恨の極みのなか命を落としたあの子を。
物珍しさと興味という感情だけで、わざわざ足を運んだんじゃないの。
「え、まさか、アズちゃん」
「はい、すでに、あの子は私のペットです」
魔力が風となって私の白髪を巻き上げ、ガラスを突き抜けあの子へと送り届ける。
遠い眼下に存在する私の可愛いペット……有り余る魔力を与え続けてあげるからね。
――館内にいるお客様は安全のため避難してください!
――おいおい、発砲してるぞ!
――どうなってるの、ドラゴンって死なないの!?
――早く、早く逃げるぞ! このままここにいたんじゃヤバイ!
「銃で撃たれてるのに、全然効いてないみたい」
「はい、今のあの子は、生きているけど死んでいますから」
「生きてるけど死んでるって、どういう意味なの」
「……それも、知らないで済ませばいいんじゃないんですか?」
だって、人族は皆そうなんでしょう?
知ろうともしないで、一方的に力で捻じ伏せて、自分たちが良ければそれでいいのでしょう?
私がしていたことの何一つも理解しないままに、お前たちは殺せてしまうのだから。
「アズ、ちゃん……?」
気付けば、楓子様の眼が怯えている。
失敗しちゃった……今の私には、人族に打ち勝つ方法なんてないのに。
出かかってしまった本音を隠すために、被っていた帽子をぐっと目深にする。
「……すいません、膨大な魔力で昂っているみたいです。今のあの子には私の魔力に加えて、電車の魔力、更には都会に蠢く魔力を注ぎ続けている状態です。いくらダメージを与え続けていても、瞬時に回復してしまいます。もしあの子を殺したいのであれば、それこそ王都全域を破壊するぐらいの超魔法でもない限り、不可能だと思います」
「じゃ、じゃあ、アズちゃんは、あの子をどうするつもりなの?」
「無論、私のペットとして、住処に持ち帰ります」
「一体、どうやって?」
「……転送魔法を使います」
「転送魔法⁉ だって、それってアズちゃんの命が」
「大丈夫です、既に理論は組みあがっています」
これだけの魔力があるのなら、出来ると断言できる。
思うとかじゃない、僅かでも失敗のリスクがあってはいけない。
だって、それはペットを傷つけることになってしまうのだから。
両手に魔力を込めて、風と共にドラグル族へと叩き込む。
私という媒体を介して、都会中の魔力を使い切るつもりで。
『魔力転送』
髪の毛一本であっても、私一人じゃ転送することなんか出来なかった。
でも、今の魔力総量なら、人族が人族を殺して歪ませた魔力があれば。
あり得ないほどの、かつてない量の魔力があれば、私一人でだって。
「キシャアアアアアアアアアアアアアアァァァ!!!!!」
爆風と衝撃、窓ガラスと地鳴りを響かせながら、ドラグル族の身体が光に包まれる。
人族の何人かが未だに攻撃を続けているけど、そんなの意味ないから。
もう、私のペットは傷つけさせない、絶対に私が守ってみせるからね。




