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人間不信のマオウ様、世界を救う  作者: 書峰颯
With love and happiness
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 杞憂とは、中国古代の杞の人が、天が崩れ落ちてきはしないかと心配したことから発祥した言葉であり、心配する必要のないことをあれこれ心配することや、取り越し苦労の事などを指した言葉である。


 落ちてくるはずのない空が落ちてきた、という部分だけを引用し、今回の事件に最もふさわしい言葉だと誰かが発信し、いつの間にかそれが定着してしまった。


 杞憂事件、昨年十二月三十一日に発生した、魔王アズモンデオこと長月アズが引き起こした大事件として、既に教科書入りする事が確定している言葉でもある。


 パラレルワールド、もう一つの地球であったはずの異世界ロードメリア。

 これを黒い霧『願い』が暴走し、現実の世界へと引き寄せてしまった事件。


 しかし、杞憂はまさに杞憂に終わったのだ。


 人々の願いが奇跡を起こし、呼び寄せられるはずだった異世界ロードメリアこともう一つの地球は、L3宙域と呼ばれる重力安定地帯へと転送され、その後は黒い霧が星全体を覆い尽くし、公転自転、その他さまざまな問題の全てを解決してしまい、今に至る。


 そして月日は流れ、四月十日。

 T都、異世界法務省。


「私が、特命担当大臣?」


 執務室で疑問符を浮かべているのは、杞憂事件の立役者である、魔王アズモンデオだ。

 目の前にはエグゼクティブデスクに座する、勇者アルクの姿もある。

 

「お陰様でね、黒い霧の問題、通称『願い』問題は無事解決した訳だから、僕はもうお役御免ってこと。実際に辞表も提出したし、國起総理も受理してくれたから、僕はまもなく一般人、元のニートに戻れるんだよ」


 一度大臣職に就いた人間が純粋なニートに戻れるかは分からないが、勇者アルクは上尾アルクに戻る気満々の様子だ。既に黒光りするスーツを脱ぎ棄て、今は胸に無職万歳と書かれたTシャツを着用している有様。


 半眼しながらも腰に当てていた手を外し、アズは力ない拍手を送る。


「それはおめでとうございます。でも、それと私が特命大臣になるのはまた別問題なんじゃないんですか? 聖女カナディや、大魔導士ドドはそれでもイイって言ってくれているんですか?」

「二人とも別に構わないってさ。それよりも、ロードメリアとの交流に忙しいらしい」


 ロードメリアが星ごとL3宙域という場所に転送されたあと、宇宙間交流を実現させるために、聖女カナディが元々マーキングしてあったポイントを利用し瞬間移動を試みたところ、無事成功したと、喜々として國起総理へと直に報告してしまったのだ。


 更には、大魔導士ドドがマーキングポイントを誰でも通行できるようにゲートとして運用を開始した途端、世界各国の首脳陣が二人へとゲートを利用させて欲しいと殺到したらしい。


 異世界ロードメリアには、可能性が満ちているのだ。

 新素材の鉱石や、見たこともない種族の生き物。


 もちろん、向こうにも人族の住処は存在するけど、この地球程じゃない。

 同じ大きさの星なのに、いって十万人程度しか人族は存在しないのだ。

 この星の半分が移住したとしても問題はないだろう。


「それに、君には約束があったはずだ。僕は知性のある魔物、魔族に人権を与えるという約束は果たした。次は、君の番だとは思わないかい?」

「すべての魔族、魔物を管理し、人族に手出しをしない様にする、ですよね」

「ああ、アズの魔力反魂により復活した魔物は全てが服従していると聞いてはいるけど、ロードメリア全域に生息する魔物全てじゃない。アズの支配下にない魔物がゲートを勝手に作り出し、この地球に手出しするんじゃないかと危惧している人たちもいてね。君という人柱がいないと、この国はどうにも成り立たないらしいんだ」


 そんなレベルの魔物がいるとは思えない。

 しかし、あの世界は未知な場所が多い星でもある。

 可能性がゼロだというには、少々根拠が乏しい。

 思考を逡巡させた後、アズは腕を組みやや困った風を装いながらも、瞳を輝かせる。


「面倒な話ですね。ですが、私がロードメリアに行きその魔物を管理しようとした時、異世界法務省特命大臣という肩書は、間違いなく役に立ってくれそうです」

「是非を問うような形で提案してしまったが、実は君に拒否権はない」

「だと思いました、所詮私は魔族ですからね」

「その発言は、今ではマゾハラになってしまうよ」


 両肘を机につき手を口元で交差させながら、アルクは眉をハの字へと曲げた。


「魔族に無理難題を押し付けることで、相手に精神的ダメージを与えた場合に発生するハラスメントの一つ……でしたっけ。この世界の人族はいつだって面白いことを考えるものですね」

「人権っていうのは、そういう事だからな」

「ふふっ、本当に、実現しちゃったんですよね」


 魔族の命をも簡単には奪えない世界。

 魔王アズモンデオが望んだ世界が、今ここに実現したのだ。


「了解しました。その人柱、謹んでご指名賜りたいと存じ上げます」


 眩しいほどの笑顔で、アズはアルクの申し出を引受けた。

 異世界法務省特命担当大臣、アズモンデオの誕生した瞬間である。



 ――三か月後、Y県山中。


「それ、誰のお墓なんだ?」


 暑さたぎる気温の中、洞窟の手前で手を合わせる私へと、ガダ君が問いかける。

 木材を適当に打ち付けただけの簡素なお墓だけど、ちゃんと名前も堀ったものだ。

 

「キキっていう、私が魔力注入して殺しちゃった動物のお墓だよ」

「律儀だな、そんなの誰も気にもとめないだろ」

「……単純に殺しちゃったの、この子だけだから」


 知らなかったじゃ許されない、命は簡単に奪っていいものじゃないんだ。

 ぽんぽんと盛り土を固めたあと、お供えに虫を数匹。


「さてと、気がかりだったお墓参りも出来たし。それじゃそろそろ行こうかな」

「そうだな、クソ暑いし、とっとと行こうぜ」

「ガダ君ついて来なくてもいいんだよ? 多分、もっと暑い場所に行くんだからね?」

「嫁が行くって言ってんのに、旦那が行かない訳ねぇだろ」


 まだそれ言ってるんだ、別に私とガダ君は結婚なんかしてないけどね。

 でも、ボディガードとして一緒に来てくれるのは、ちょっと心強いかも。


「なにより、俺もリズに会いてぇからな」

「……うん、でも、それにはまず、アンちゃんを探さないとだよ」


 呪術転生が出来るのは、私が知る限りアンちゃんだけだ。 

 彼女を見つけ出して、別の肉体にリズを転生させる。

 

「そのために、紋様としてリズを残したんだからね」

 

 以前、千祢里のお腹にあった黒い紋様は、今は私のお腹にある。

 リズの魔力を受け取った際に、何とかしてリズを形として残したかった。

 私の肉体成形の時に、何とか残せたのがこの紋様だけ。


 ここにリズがいるのかどうかも分からないけど、アンちゃんならこの紋様からリズを取り出して、別の肉体に転生させることが可能かもしれない。


 ううん、アンちゃんは呪術の天才だったから、絶対に出来ると思う。

 なんて言ったって私を転生させたんだ、出来るに決まってる。


「そこ押すとアズが動けなくなるから、俺としては残して欲しいんだが?」

「絶対にダメです、っていうか押してるの? これリズの魂だよ? 何してんのアンタ?」

「いやいや、多分リズだって許してくれるって」

「そんな訳ないでしょ! いい加減にしないと本当に怒るよ!」


 私達が軽い口喧嘩をしていると、空が虹色に輝きだした。

 輪郭だけなんとか視認できるソレを見て、私はにっこりとほほ笑むんだ。


「キィ君にドラリン」

「お迎えに上がりました、アズモンデオ様」

「今の私は長月アズだよ。もうしっかりと国籍も貰ったんだからね」

「これは失礼を、では、長月アズ様、ゲートへとお送りします。どうぞこちらへ」


 私は約束を果たさないといけない。

 ロードメリアの世界の魔物を管理するため。

 リズとまた再会するために。


 私は、異世界法務省特命大臣として、ロードメリアへと旅立つんだ。

 そしていつの日か、その役目を終えて地球に帰ってくるからね。

 その時まで、バイバイ! 地球!



 ゲートを通過すると、一定時間は使用が出来なくなる。

 一定時間とは年単位の話であって、私達はそのぐらいの覚悟を持ってロードメリアの世界にやってきたのに。


「なんで、なんでここに楓子様がいるんですかーーーー!?」


 あり得なかった、地球の人でこっちの星に来れるのは、極々限られた人のみなのに。

 到着するや否や「ふぅ緊張した」とか言いながらキィ君のお腹のポッケから出てくるとか!?

 

「おや、アズ様のご親友でございますよね? 私とキィ君とでご一緒してしまったのですが?」

「はぁ⁉ そんなの聞いてないよ! 確かに楓子様と私は深い関係だけど、なんで!?」


 もうどうやっても戻せない、このままゲートに置いていく訳にもいかないし、カナディだって今は地球にいて連絡の取りようがないし。


 そもそも帰るつもりもなかったから、こんな緊急事態、想定の範囲外だよ! 

 なんで楓子様がここにいるの!? 本当に理解が追い付かないよ!?


「それよりも、先に言うべき事があるんじゃないの?」 

「え、え?」

「アズちゃん、ごめんなさいは?」

「え、ご、ごめ?」

「勝手に居なくなって、ごめんなさいじゃないの?」

「そ、そんな、今はそんなこと言ってる場合じゃな――――」


 腕を首にからめながら、力いっぱい抱き着いてきた楓子様。

 あ、なんか、懐かしい。

 

「どれだけ心配したと思ってるの、どれだけ寂しかったと思ってるの。気づいたらなんか政府のお偉いさんになってるし、黒い霧が見えるんだって言っても雑に扱われて終わりだし。やっと見つけた繋がりだったんだからね、もう絶対に逃がさないって決めてたんだから」

「つ、つながりって……そもそも、なんでキィ君のポッケにいたの?」


 ドラリンを見ると、彼は満面の笑みを浮かべながら答えてくれた。


「大魔導士ドドに手痛くやられた際に、楓子様が介抱して下さったのです。彼女が我々の前に立ちはだかって頂けなかったとしたら、きっと今頃は極大魔法で炭クズにされていたでしょうな」

「キィキィ!」


 ……そういえば、カナディ言ってたかも。

 ドドが苦戦してる、なんか知らない人間が割り込んできたって。

 あれ、楓子様だったんだ。

 え、結構時間経ってるけど、あれからずっと一緒だったってこと?


「ガダ君とドラリンとキィ君にはね、私のことは内緒にして欲しいってお願いしてたの。だってアズちゃんの事だから、私が近くにいたらまた逃げちゃうかもしれないでしょ? もう、離れたくないから……ずっと一緒にいたいから、私、頑張っちゃった」

「そ、そうだったの。ごめ、ごめんね? なんか、急に逃げちゃって」

「いいよ、人である私が怖かったんでしょ? ……もう、大丈夫になった?」

「う、うん、少しは、大丈夫に、なりました」


 最初の時よりは随分マシになったと思う。

 アルクを前にしても普通に喋れるし、人前に出ても大丈夫になった。

 

「それって、好きな人が出来たから、とか?」

「好きな人?」

「だって、ガダさんがずーっと俺の嫁だって言ってるよ?」


 ちらっとガダ君を見ると、親指を上げながらいい笑顔をしちゃって。

 ここいらで釘を刺さないと、コイツ世界中で嘘つきまくりそうだな。


「楓子様、それだけは訂正させて下さい」

「訂正? なにを?」

「私が好きなのはドラリンです。ガダ君じゃありません」


 瞬間、背後から物凄い殺気と、突き抜けるような叫び声が聞こえてきた。


「これはこれはアズモンデオ様、私めのことをご指名頂き、誠にありがとうございます。不詳ドラリン、これからも精神誠意尽くさせて頂きますゆえ! ――が!?」


 ニッコニコの笑顔で挨拶してくれたドラリンの首根っこを、ガダ君が片手で持ち上げてる!


「……おいドラリン、てめぇ、俺の嫁になにしてくれちゃってんのよ?」

「はて? 私は特別なにもしておりませんが? 大体貴方の異性への接し方が悪いんですよ。性欲から生まれたような考え方から治しては如何ですかな?」


 そうだそうだ! ドラリンが一番正しいんだ! って、前にも言ったな、これ。


「ほぉ、オーガ族の掟でな、嫁は殺してでも奪い取れってのがあるんだが」

「私を殺すのですか? ふん、この青二才が。ドラグル族とゴブリン族の混血児である私に、オーガごときが勝てるとでも?」


 あれ? なんか、ドラリンいつにもなくヒートアップしてる?

 

「上等だ……ブッ殺してやんよッ!」

「望む所です、炭クズにして差し上げましょう……ッ!」


 え、え、え、ちょ、ちょっと、ここ、ゲートの近くなんですけど!?

 壊さないでね⁉ 二人ともー!?


「ドラゴニック、インフェルノオオオオオオオオオオオオォッッ!」

「オーガ! バニッシャアアアアアアアアアアアアァァッッ!」

「新技とか、やめてええええええええぇ!」


 その後、ゲート復興まで結局旅立ちは延長。

 大魔導士ドドが激怒したことは、言うまでもない。

 

 ともあれ、私達の長旅は、まだまだ続くようである。

 リズの復活が楽しみだ、沢山の土産話用意しちゃうから、楽しみに待っててね。

 

 リズ……大好きだよ。



――お・わ・り――

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― 新着の感想 ―
[良い点] 諸々の苦難を乗り越えて、元の世界で望んでいた生活を送れるようになるまであと少し。 頑張って来た甲斐があって良かったです。 ただ、色々とこれからも苦労はしそうですが楓子さんも一緒に居てくれる…
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