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第847話 お花見弁当

『今週末は暖かくなり、桜も一気に開花するでしょう。お花見に最適のお天気です』

 制服に着替えていたら、朝の情報番組で、心なしか楽しげな様子で気象予報士がそう言っているのが聞こえた。この辺りはもうずいぶん咲いてしまっているが、そうか、まだまだ咲いていない場所もあるよな。

「お花見だって。いいね~」

 ソファに座りコーヒーを飲んでいた母さんが言った。父さんも新聞から顔を上げ、テレビの方を見る。

「そういや最近はしっかり見に行ってないなあ。桜」

「そうねえ。ちゃんとお花見したのって、いつだっけ」

 テレビはそのまま、花見の話題に移った。

『花見といえばやっぱり、お弁当ですよね~。さて、今日はお花見にぴったりなお弁当の特集です』

 アナウンサーが朗らかにそう言った後、和楽器ベースの音楽が流れ始め、街中でのインタビュー映像が始まった。

『お花見シーズン、あなたはどんなお弁当が食べたいですか?』

『うちは昔から手作り弁当を持ってお花見に行くんですよ。からあげとか卵焼きとか……いろいろ入ってて』

『近所のお弁当屋さんの花見弁当を毎年買ってて。自分じゃなかなか作らないおかずが入ってるからうれしいんです』

 画面には、その弁当の写真が映し出される。幕の内弁当みたいなやつだな。

『コンビニ! 花見スポットの近くのコンビニで調達します』

『お弁当じゃないんですけど~ハンバーガー買っていっちゃいます。ドライブスルーで便利だし』

 ハンバーガーか。それもいいな。コンビニだとホットスナックもあるし。

「いいねぇ、お花見」

 母さんはカレンダーを見ると、何かぶつぶつつぶやいた後、「よしっ」と言って立ち上がった。

「今週末は皆でお花見に行こうか! じいちゃんとばあちゃんも誘って!」

「おお、いいね」

「あ、春都は何か用事ある? 部活とか」

「いや、ないよ」

「じゃあ、決まりね!」

 おお、なんかあっという間に花見の計画が立ってしまった。母さんは楽しそうに言う。

「お弁当はどうしようかな。春都は何食べたい?」

「えー……からあげ」

「からあげね。豚? 鶏?」

「どっちも」

「いいよ~、どっちも作ろう」

 父さんと母さんが話をするのを聞きながら、身支度を済ませる。

 花見でお弁当かあ……楽しみだな。


 天気予報がいった通り、週末はすっきりとした青空が広がるいい天気になった。近所の公園もいつもよりは賑わっていて、駐車場には車もたくさん止まっていた。

 桜は満開の一歩手前といったところだろうか。とてもきれいだ。暖かな春の日差しに揺れる薄紅色の桜。濃い焦げ茶色の幹とのコントラストが桜だなあ、と思う。

「きれいねえ」

「そうだな」

 桜を見上げるじいちゃんとばあちゃんは、なんだか様になる。何かの一場面のようである。

「こっちいいんじゃない? 桜もよく見えるし」

「ああ、テーブルもあるからいいね」

「よし、場所取りしておきましょう」

 父さんと母さんは手際よく場所取りをする。桜がよく見える、ちょっと小高いところにあるテーブルだ。広々としているが、意外と人がいない。桜のめっちゃ近くってわけでもないからだろうか。

 花見には十分な場所である。

「せっかくだし、写真でも撮ろうか」

 父さんが、昔から使っているカメラを持ってきて言った。公園内はどこを撮ってもよさそうだな。

 公園の中でも一番立派な桜の木の周りにはたくさん人がいた。花見客も多いが、写真を撮るスペースはありそうだ。

 みんなで並んで写真を撮るのはなんだかくすぐったいが、悪い気分ではない。周りも、桜の花のおかげか、あるいは春の陽気のせいか、心なしか浮かれている様子である。

 少し桜を見て回ったら、さっそく弁当にする。

 小さい頃から運動会なんかで使っていた大きめの弁当。この弁当箱を見ると、なんかそわそわ、わくわくする。

 おお、おにぎりにからあげ、ハム巻きと卵焼き。プチトマトもあるしクルクル巻いたパンもある。

「いただきます」

 割りばしで、紙皿におかずを取る。うーん、いい。

 まずはからあげを。鶏のからあげ、表面がしっとりとしているが、皮はカリカリしている。身はジューシーで、醤油の香りが香ばしく、よく味が染みている。お弁当の少し冷たいからあげ、好きなんだよなあ。

 あっ、チューリップだ、チューリップからあげ。なんかうれしい。骨の部分を持って、食べる。カリッとしていて、身もしっかり詰まっていておいしいなあ。

 豚肉のからあげも噛み応えがあっていい。ふわっとした衣とにんにく醤油の味わいが豊かな豚肉。脂身のところはジューシーで甘味もある。

「おいしい」

「よかった~。外で食べると余計においしいもんね」

「うん、おいしい」

 おにぎりは俵型で、のりが巻いてある。うちの定番だ。

 程よい塩気とのりの風味がいい。しっとりとのりがご飯になじんでいいんだ。

 パンを食べながら、ハム巻きを皿に取る。ふわふわの薄めのパンに塩気のあるハム、ジュワッと染み出すマヨネーズのまろやかな酸味がまたいい。いくらでも食べられそうだ。

 ハム巻きにはきゅうり。やっぱりかなり好きだなあ、ハム巻き。つまようじに刺さってるから、食べやすい。みずみずしいきゅうりとハム、マヨネーズの塩梅がいい。

 卵焼きは安定の甘味。甘い卵焼きは、お弁当って感じがしてすごく好きだ。

「はー……」

 オレンジジュースを飲み、一息つく。さあっと心地よい風が吹いて桜がふわっと舞う。

 春の、今だけの、掃かなくも確かに存在感のある景色。写真に収めようとどうしようとも、この心浮き立つ感じは今しか味わえない。

 今のうちにしっかり、味わっておくとしよう。


「ごちそうさまでした」


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