第四百七十六話 焼きそば
今回のテスト範囲が張り出された。いつも思うのだが、コピーして配ってくんねえかなと思う。自分でメモすると、間違いそうなんだよな。一度誰かがこっそりコピーしようとして、見つかって、ひどく怒られていたのを見たものだから、大人しくメモを取ることにしているが。スマホで写真撮るのもだめらしいからな。
今日からテスト前ということで部活が休みになっているので、教室内に慌ただしい気配はない。おかげで、焦らずにメモできるわけだ。
「えーっと、英語が……」
「あ、一条。それページ違う」
隣で同じようにメモを取っていた宮野が指摘してくる。
「え、どれ」
「英語の教科書の範囲。それ、日本史の教科書の範囲になってる」
「あ、あーほんとだ。よかった、ありがとう」
「いーえ」
宮野は目をすぼめて範囲のプリントを凝視する。
「でもこんだけ密集してたら、見間違えるよね」
「範囲間違えるとか、大惨事だよなぁ」
提出物の範囲を間違えるのが一番の災難だ。提出当日に気付こうものなら、テストどころではなくなる。
「なーにやってんの、お前ら」
うおっ、なんだ。誰だ、この手は。今俺の肩に手をのせてんのは誰なんだ。
「なんだ、山崎か」
「二人して何を一生懸命見てんのかなーって」
あっ、宮野も肩組まれてんのか。信じられない、って顔してるな。びっくりしているような、混乱しているような、複雑な表情だ。
「何をって……テスト範囲だろ」
今のこの状況で、他に何を一生懸命メモするんだ。そう思って言えば、山崎はきょとんとしていた。そろそろ宮野の肩から手を外してやれ。なんか限界っぽいぞ。
「なんで?」
「は?」
「なんでわざわざメモすんのさ。必要なくない?」
「お前、これを全部覚えるつもりか?」
そう聞けば山崎は笑って、やっと俺と宮野から手を放しながら言った。あ、宮野、ほっとしてる。
「違う違う。誰かが写真撮って、クラスのグループチャットにのっけてくれるだろ? それ見りゃいいじゃん」
「……は?」
思わず、宮野と声がそろう。山崎からしてみれば俺たちの反応の方が意外だったようで「あれ?」と首を傾げた。
「学校でスマホ出したらいけないでしょ……? テスト範囲も、写真撮っちゃだめって言われてるし……」
宮野がおびえたようにやっと口を開く。すると山崎はとうとう声を上げて笑った。
「真面目だなーお前ら!」
ひとしきり笑うと、山崎は何でもないように続けた。
「まー、先生たちにばれなきゃいいんだよ。大体、コピーくれたらそんなことしなくていいんだけどなー」
言いたいことは分からなくもないが。山崎はこちらに反論の余地を与えず、というか、反論が来るとも思っていないような表情で話を進める。
「てかお前ら、クラスのグループ入ってないの?」
ふと山崎に聞かれ、宮野と視線を合わせる。
「そういえば、入ってないな、俺」
「あ、一条も入ってなかったんだ。僕も入ってない」
「えー! まじかよー!」
山崎はたいそう驚いたようで、流れるようにポケットからスマホを取り出した。
「おい」
「うわ、ほんとだ、お前らいないじゃん! 言えよー、招待する」
「いや別に気ぃ使わなくていいから」
宮野も、コクコクと首を縦に振っている。しかし山崎は聞きも見もしやしない。
「おし、招待完了っと。あとで参加しとけよ、絶対だぞ! 参加しといたら便利だって! 時間割り分かんないときとかさ!」
いや、時間割り分かんねえときはたいてい、宮野に聞けば何とかなるから、別にいいんだけどなあ。まあ、いいや。せっかくだし、参加するだけしとくか。宮野はまた複雑そうな顔をしていたが、この様子だと、参加するんだろうなあ。大変だな、お互いな。
その後、咲良が迎えに来たので一緒に帰ることにした。宮野はくたびれ果てて、勇樹と連れ立って帰って行った。その様子を見ていた咲良に色々聞かれたので、先ほどまでの話をしたら咲良は笑っていた。
「テスト範囲な、俺らのクラスもグループで回って来てるよ」
「あ、やっぱり」
そういうのに慣れなきゃいけないのかなあ。そうぼんやりと思っていたら、咲良は言った。
「まー、俺は見たことないけど。いっつも自分でメモしてる」
「え、なんか意外。すぐ頼ってそうなのに」
「失礼だねー、君は」
咲良は、何でもないように笑っていた。
「本来撮影しちゃダメなものを撮影してるわけだから、それ頼るのはなあ、って」
そう、それだよ。それが引っかかってたんだよ。ああ、でも、そっか。見なきゃいいんだ、自分が。
「なんかすっきりした」
「そう? なんかよく分かんないけど、そりゃよかった」
咲良は早々に話題を変え、アンデスの近況について話し始めた。よっぽどかわいがられているようで安心した。
またどっか公園に遊びに行きたいな、咲良はそう言って笑っていた。
なんか気分がいいので、晩飯はなんか作ろう。でも、気分がいいからといって疲れてないわけじゃないからなあ。簡単なものがいい。ああ、中華麺あったな。焼きそばにしよう。
具はもやしと豚肉でいい。まずは麺を炒めて、そこに豚肉を投入。火が通ったら洗ったもやしを入れ、ソースも加えてしっかり炒める。よし、こんなもんか。もやしたっぷりの焼そば。うまそうだ。
「いただきます」
麺ともやし、どっちが多いか分かんなくなっちゃったな。まあいい。
麺は程よくもちもちで、麺そのものの主張があまりないのがいい。それにもやしのみずみずしさとシャキッとした食感、ほんの少しの青さがよく合う。ソース味って、なんかいいよなあ。かなり主張の強い味なのに、いろんな具材をうまくまとめ上げる。
豚肉、ちっちゃくなっちゃったな。でも、カリカリしててうまい。脂身のところはちょっと甘くて、やわらかくて、豚肉の味もよく分かる。
そんで、焼きそばには白米。炭水化物と炭水化物の組み合わせは、うまいんだなあ。
白米のほんのりとした甘みにソース味がよくなじむ。焼きそばパンもうまいけど、白米と焼きそばってのもいいよなあ。
マヨネーズを合わせるとまったりとして、食べ応えが増す。
今度は紅しょうがも準備しよう。具材は……何にしようかなあ。
「ごちそうさまでした」




