第四百七十五話 コロッケ
日曜日、すがすがしい天気だったので、うめずと散歩に行くことにした。
「どの道を行こうかね~……」
いつもと同じルートでもいいが、今日はうめずの調子もよさそうだから、違うルートを行きたい気分だ。田んぼの中か、町か……ああ、そうだ。公園の方へ行こう。公園内でもいいし、公園近くにある中学校の裏には、車の通りの少ない道があるんだ。
中学校の方に行くのは久しぶりだなあ。卒業してから全く寄りついてないから、どうなってんのか分からない。まあ、あんま変わっていないだろうけど。
公園や中学校までの道のりは、坂道が多い。おかげで、中学三年間の登下校だけで、ずいぶん体力がついたものだ。小学校は近かったし、高校はもっと近いからなあ。中学校も遠いわけじゃない、むしろ近い方だけど、今までの中では一番遠い学校だ。
「おお、ずいぶん色づいてきたなあ」
ケヤキが車道の両脇に行儀よく並ぶ道の隅に伸びる歩道を行く。すっかり紅葉してしまった、とはいいがたいが、それでも確かに、夏の青々とした装いから変化し、落ち葉もちらほらと見える。
「わうっ」
道の傍らにこんもりと山積みになった落ち葉を見て、うめずが突っ込もうとする。
「まてまて、やめとけ」
「わーうーっ」
「公園、公園行くから!」
「うぅ」
何とかうめずをなだめて歩みを進める。なるほど、落ち葉がちらほらとしか見当たらないのは、掃除をしてあるからか。ところどころに落ち葉の山がある。
横断歩道を渡り、長い上り坂を行く。上り切ったら、市役所を横目に、公園までの殺風景で幅広い道を歩いて行く。市営球場とか体育館もあって、たまに大会とかやっている。今日は静かだなあ。
「さて、うめず。公園についたわけだが」
「わう」
「広場に行くか、中学校の裏を歩くか」
「わうん」
うめずは迷うことなく、中学校の裏の道を選んだ。
「そっちかよー」
「わふっ」
まあ、別にいいんだけどな。
こっちはこっちで坂道がある。長さはそうでもないが、勾配が急なのだ。自転車で登れない坂でもないが、中学生は上るときも下りるときも、自転車を降りなければならないという決まりである。
「今日は休みか」
見下ろした先にある中学校には、人の影があまりない。そりゃそうだ。日曜だもんな。でも日曜って、部活とか検定試験とかで何かと騒がしかった気もするんだけどなあ。かくいう俺も、いろいろな検定試験のために、日曜日の学校に何度も出向いたものだ。しょっちゅう忘れものもしてたしなあ。
夏になるとセミで騒がしい道も、今は静かなものだ。たまに使われているぼろい市営体育館、出入り口が開いているのを見たことはあるが人がいるのを見たことがない弓道場、そもそも今やっているのか分からない旅館、沼みたいな池。
「改めて見るとこの道、なかなか怖いな」
街灯もなければ人の気配もない。沼っぽい池を横目に行けばやっと住宅街に出るが、そこも夜になれば暗いんだろうなあ、という感じの場所だ。
若干早足で住宅街を抜けると、見慣れた道に出てほっとする。車の通りがないのはいいが、あまりにもなさすぎると、ちょっと怖い。適度だよな、何事もな。
ちらほらと街灯が立つ道を行く。お、この辺の道路工事、終わったんだなあ。きれいになってる。花も植わってるし、明るくなったなあ。緩やかな坂道だし、散歩にはもってこいの道だな。
この道を行くと……ああ、この道に出るのか。ケヤキの道。
「帰るか」
「わうっ」
今日は結構歩いたんじゃないだろうか。一時間弱、といったところか。
動くと程よく疲れるし、腹も減る。昼飯は何にしようかなあ。
うちに帰り、うめずに水分補給をさせながら、今日の昼飯の準備をする。
えーっと、食パンが中途半端に残っていたはずだ。あれ焼こう。それとキャベツの千切りもあったなあ。目玉焼きでも焼いたらいいだろうか。
「おっ、いいもの発見」
冷凍コロッケ。いいじゃないか、これ、揚げよう。
油を温めながら、パンを焼く。コロッケはいくつぐらい揚げようかなあ。四つでいいか。足りなかったらまたあとで揚げればいいし。
「あっつ」
揚げ物、油跳ねはいつまでたっても慣れない。おっと、パンも焦げないようにしないと。一人でいろいろ準備するのってやっぱ大変だなあ。でも、コロッケは揚げたて、パンは焼きたてで食べたいし、頑張るしかない。
キャベツは皿に盛って、コロッケはコロッケで別に盛る。パンも焼けたし、あとはソースとマヨネーズかな。
「くつろいでんなあ、うめず」
テレビでも見ながら食おうとソファのある所へ向かうと、窓際の日が照る場所でうめずが昼寝しているのが見えた。俺も後で昼寝しよ。
「今の時間何やってっかなあ……」
バラエティ、ワイドショー、二時間ドラマにアジアドラマ、再放送。うーん、いいや、DVD見よう。ディスクをセットして……よし、始まった。
「いただきます」
まずはコロッケだけで食べてみる。焦げずに、いい具合に揚がったようだ。サクサクと香ばしい衣にほくほくの中身。ジャガイモのうま味と甘さが程よく、ほんの少し入っている肉もいい感じだ。冷凍のコロッケはたまに苦手な時もあるけど、これはうまいんだよなあ。
ソースをかけてみる。少ししっとりした感じになって、程よい酸味が加わり、また違った味わいになる。マヨネーズもかけると、まろやかになるな。
「さて……」
パンにキャベツをのせ、コロッケをのせ、そしてソースとマヨネーズをかけ、またパンで挟む。コロッケサンド! はあ、見た目だけでうまそう。
ザクっと香ばしいパン、次いで、ソースの香りとマヨネーズの味。コロッケはジュワッとして、ほくほくとしたイモが口いっぱいに広がる。そんでキャベツのみずみずしさよ。それがまた、うまさを増しているのだ。
コロッケパンはホットドッグのパンでやってもいいんだけど、食パンで作ったのもうまいんだよなあ。カツサンドっぽくなって、なんかリッチな気分になる。
そしてこういう総菜パンには、オレンジジュースとかが合う、と、思っている。うんうん、爽やかな酸味がよろしい。
ソースがしっかりなじんだパンは、コロッケと一体化するようだ。これはこれでうまい。優しい歯触りで、どっしりとした食べ応えが増す。
うん、うまかった。また食べよう。
「ごちそうさまでした」




