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VRの紺碧の海、紅のガレオン~女艦長スカーレットの冒険記~(改訂版)  作者: s_stein & sutasan


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ユキムラさんとラファエルさんの秘密

 バルバロッサの背中を見送った時、何か言い忘れた気がしてきた。こうなると気になって仕方ない私は、彼とマニラで会って何を伝えたかを順番に思い出していると、


「そうだ! 覇者の宝具の地図がゲット出来ることを言い忘れた!」


 聖剣の話をしていたら、急に長崎へヨシツネ討伐に行こうという話になったので、続きの話を横へ置いた途端に忘れたのだ。直ぐさま彼とチャットをつないで、エディンバラでその地図を発見出来ることを伝えると、『お前は律儀だな』と感謝された。リアルのバルバロッサ――セーラー服姿の彼女と、いつか面と向かって話をしてみたい。彼女は、このセリフをリアルでどう言うのだろう。そのギャップが楽しみだ。


 さて、次なる目的は、ユキムラさんの行方を追うこと。今から交易をせず、これに専念する。


 杭州を出港して、まずは大阪へ向かってみる。時折荒れる東シナ海を渡り、関門海峡、瀬戸内海を通って大阪へ入港する。日本の港はレベル90以上になって開国のイベントをクリアしていないと入れないから、噴水の所はほとんど人がいないはず。だから、人の姿が見えたならすぐに声をかけようと、胸を躍らせながら噴水の所へ駆けていく。しかし、誰一人いなかった。


 仕方なく西の兵庫へ行ってみたが、そちらにも人はいなかった。兵庫の港に入ると、カエサルさんが「史実は下田と函館を先に開港したのに、兵庫まで開港するなんておかしい」と言っていたことを思いだす。このVRゲームは歴史がごちゃ混ぜになっているので、あまり突っ込まない方がいいと伝えておいた。本当は、途中でゲームオーバーにならないよう、水と食糧を補給する港町が適度に設置されているから、史実より港が多いのだ。


 ならば、もっと東へ足を伸ばそうと兵庫を出港すると、東の方に複数の船影がチラッと見えた。スルスルと大阪に入っていくそれは、戦列艦だった。


「まさか、ユキムラさん!?」


 私はもう一度大阪に舞い戻り、広場で和服姿のNPCを掻き分けながら噴水へ向かう。すると、水が噴き上げる反対側に背中を向けて座っている人影が2つ見えた。ソッと近づいて左側へ回ると、左は真っ白の軍服らしい服を着た金髪ロングヘアの小柄な女性、右は黒の軍服らしい服を着たベリーショートで刈り上げの座高が高い人物であることがわかった。


(あっ、もしかしてデートの最中? だったら、私はお邪魔虫ね)


 抜き足差し足でゆっくり後退を開始すると、左の女性が突然振り返った。目が合った私は、体が固まった。何度もチャットの画面でアバターを見ていたから忘れるはずがない顔がそこにあった。


「ラ、ラファエルさん!?」


 驚きのあまり、思わず声を上げてしまった。すると、ラファエルさんはバネ仕掛けの人形のように跳び上がって右へ逃げる。同時に右に座っていた人物が立ち上がってこちらを向き、ツカツカとやって来た。


「彼女に何の用だ?」


 そう言って私を睨み付けるその人は、顔は女性。金ボタンが光る黒い軍服が実によく似合う男装の麗人――いや、ユキムラさんだ!


「も、もしかして、あ、あなたはユキムラさんですか!?」


 しどろもどろになる私を見て、ユキムラさんは眉根を寄せる。


「ユキムラだが、何か?」


 ユキムラさんとラファエルさんの二人に会える奇跡に、私は打ち震えて声が出なくなってしまった。唇が震え、奥歯までカチカチと音を立てていると、


「ん? 君はもしかして……スカーレットくんかな?」


 ユキムラさんが口元をほころばせたので、全身からほんの少し緊張が解けた。でも、目の前にいるのがもしかしたら(みず)()先輩ではないかと思うと、ドキドキは収まらない。


「は……はい」


「仲間募集の一覧で君のことはよく見るよ。レベル98って凄いじゃないか。僕は95で頭打ち状態さ。どうやって達成したのか、今度じっくり聞かせてくれたまえ。君が良ければ今でも構わないが」


 あれ? (みず)()先輩ってこんなに(じよう)(ぜつ)だったかしら? イントネーションもまるで違う。まあ、バルバロッサのようにリアルとバーチャルが正反対というのもあり得るから、リアルでは清楚で上品な言葉遣いや優雅な身のこなしが素敵な(みず)()先輩が、バーチャルではこういう男性っぽい話し方をしているのかも知れない。


「どうだい?」


 話のペースをつかまれそうなので、こちらへたぐり寄せる。


「あのー」


「ん? 何だい?」


「シャルロットはご存じでしょうか?」


「ああ、知ってるよ」


「シャルロットから友達申請をお願いしたことを覚えていらっしゃいますか?」


「シャルロットが? すでに友達だが?」


「いえ、私がシャルロット経由でユキムラさんに友達申請をお願いしたことです」


「あ……ああ」


 あっ、これは忘れているパターンだ……。すねたくなったけど、笑顔で隠す。


「『私を捜せたらお会いしましょう』と言われましたので、今までずっと捜していまして、ようやくお目にかかることができました」


「そっか」


 すっかり忘れていますね、ユキムラさん。んもう……。


「ID交換してよろしいでしょうか?」


「もちろん」


 二人で画面を表示し、私の友達申請をユキムラさんは許可してくれた。


 実に長い探索だった。万感胸に迫り、涙がこみ上げてくる。


「あのー、出来ましたら、地方艦隊に入りたいのですが」


 このVRMMORPG「グランド・デクヴェルト」を始めた動機は、先輩から声をかけてもらって地方艦隊に所属することだったが、今こうして私から申し出て許可をもらっても、達成したのと同じ扱いになる。


「その前に、早速チャットをしない?」


 ユキムラさんの提案に同意して、私は画面を表示し、私からチャットを接続した。すると、


『名前と学校名と学年を教えて』


 周りにラファエルさん以外のプレーヤーがいないのだが、チャットでこれを質問するということは、ラファエルさんは別の学校の生徒なのだろうか?


『小海原 睦海 ○○高校1年○組です』


『わかった。ありがとう』


 私は、ゴクリとつばを飲み込んで核心を問いかける。


『聞いてもよろしいでしょうか?』


『もちろん』


『ユキムラさんのリアルの名前を教えていただけますでしょうか?』


 彼女は画面に目を落としたまま、ニヤッと笑った。


『誰だと思う?』


『間違っていたらごめんなさい』


『大丈夫。気にしないから』


『清澄 湖透先輩ですよね?』


 すると、ユキムラさんがプッと吹き出した。


『影武者成功ってわけだ』


 不思議な書き込みをしてからユキムラさんがラファエルさんの方を向いて「そんな所に隠れていないで、こっちに来なよ」と手招きする。呼ばれたラファエルさんは、私の方をチラチラ見ながらスーッとやって来て、ユキムラさんの背後に身を隠した。そんな彼女を振り返ったユキムラさんは、


「なんだい、恥ずかしいのかい? ……まあ、仕方ないか。()()()()()()()()()()()()()()()()


「えっ?」


 想像だにしなかった言葉に、頭の中が真っ白になった。


「ほら、ハグしてあげなよ」


 な、何を言い出すのですか、ユキムラさん!


「ダメ? なら、手を握る。ほらほら」


 ユキムラさんはそう言ってラファエルさんの後ろへ回り、彼女の背中を押した。抵抗しないで前に出てきたラファエルさんだが、私の顔をまともに見られない様子で(ため)()いがちに両手を差し出した。私が彼女の手の上へ載せるように両手を差し出すと、優しく握ってきた。柔らかくて温かな手だった。


 伏し目がちなラファエルさんは5秒間ほど手を握った後、無言で軽く頭を下げると素速くユキムラさんの背後へ隠れた。


「シャイなんだから、もう」


 そう言ってユキムラさんが画面の上で手を動かす。


『僕は湖透じゃないよ』


 私は目を見開き、目の前にいる黒い軍服に身を包んだ人物をまじまじと眺めた。一体、彼女は誰なのか?


『影武者って、どういう意味ですか?』


『湖透の影武者って事でわからない?』


『どういう役目なのですか?』


『湖透がゲームに集中出来るよう、僕が湖透のように振る舞っているだけ。このゲーム、追っかけが多いからね』


『そんなに多いんですか?』


『ああ。僕は湖透の事を何でも知っているので、簡単になりすましが出来る。追っかけを一手に引き受けるのが影武者の役目さ』


 ユキムラさん、シャルロットもその手に引っかかった一人です。


『ということは、ユキムラさんは湖透先輩のお知り合いですか?』


『知り合いも知り合い。側近だよ』


『側近?』


『このアバターの側近、で気づかないのかい?』


 私はユキムラさんの顔を凝視する。その時、突然閃いた。生徒会長の側近でこの姿に似た人物と言ったら副会長しかいないではないか。


『赤羽橋 海心都先輩ですか?』


 ユキムラさんが微笑んだ。


『大当たり。そして、僕の後ろにいるのは?』


『湖透先輩ですか?』


『ご明察』


 ちょうどその時、ラファエルさん――湖透先輩がユキムラさんの後ろから顔を半分出して私の方を見た。


 衝撃的な結果に、私はしばし呆然となって二人を見つめていた。

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