日本開国の方法を調べてみた
福州でセーブした後、ゲームから抜けた私は紅のヘッドギアを外し、息抜きがてら大航海時代当時の歴史を調べるため、スマホでネットサーフィンをした。
結構、忘れていたことや間違って覚えていたことが多く、正しい情報をいくつもインプットすることが出来た。VRゲームをきっかけに歴史のお勉強が出来るなんて、とてもいいことだと思う。それもあって、うちの学校でプレイする人が増えているのかも知れない。……いや、湖透先輩――生徒会長にゲームの中でお近づきになりたいためにログインしている人が大部分かも。
歴史のお勉強が終わった後、「ふわわ」とあくびを噛みしめるが、どうしても気になることがあるので、目をこすりつつゲームのマニュアルページをスマホで開く。その気になることとは、「鎖国中の日本の港にどうやって寄港するか」だ。
このVRMMORPGのグランド・デクヴェルトのマニュアルは不親切で、手抜きもいいとこ。開いた結果、マニュアルの不出来ぶりを再認識しただけに終わり、ため息をついて攻略サイトの方へジャンプする。こちらの方が良く出来ているのだから仕方ない。どの部分を汐留くんが書いたのかなと、記述の言葉遣いと彼の言い回しを対比させながら読み進める。
日本に関する情報は以下の通り。
1.初めて日本に行くプレーヤーは、オランダ船籍なら長崎に入港できる。他の国の船は砲撃を受ける。
2.港は、長崎、兵庫、大阪、下田、横浜、函館がある。長崎以外は、オランダ船籍を含めて、全ての外国船が砲撃を受ける。
3.全ての港に入国したければ、日本に開国を迫る。
4.開国のさせ方はプレーヤー共通ではない。レベルと所持アイテムによって、複数ある。
最後は、何度も開国に挑戦して楽しんで欲しい、という運営側の意図なのだろう。なにせ、14日間無料を過ぎたら、月額1,000円、オプションは機能ごとに月額200円なのだから、長くプレイしてもらいたいだろうし。
このゲームを始めた頃、ココが「300年くらいの歴史がごちゃ混ぜになっているから、交易品も船も港も同時に存在しない組み合わせがあるけど気にしないで」と言っていたが、歴史のイベントもごちゃ混ぜだ。初めてのプレーヤーは西に行くと新大陸発見のイベントが始まるが、それは1492年の話。オランダ船籍が長崎――実際は出島――に接岸できるのは1634年にポルトガル用として出島を完成させた後の1641年以降の話。日本の開国は、日米和親条約の1854年だ。これらがゲームの中でその国へ行っただけで体験できてしまう。
歴史の流れを重視する人には許せない設定だろうが、そういう世界観のVRゲームだと割り切って楽しむしかない。まあ、あの門前さんが楽しんでいるくらいだから、このくらいのぶっ飛び方はある程度なら許されるのだろう。
サイトのページの隅っこに、「先に開国したプレーヤーの船と一緒に、開国していないプレーヤーの船が入港しようとすると、開国していない方の船だけが砲撃を受けるので注意」とあった。これは、プレーヤーごとに進む時間が異なるから起こりうる事象だ。それぞれのプレーヤーが違う時間軸で活動し、広場で手を取り合い、海上では共同して海賊や敵対国の船を討伐できる。
並行世界がプレーヤーの数だけあって、それらが交差して混ざり合う。グランド・デクヴェルトは、なんと不思議な世界のVRゲームなのだろう。
そろそろ寝ようかと思ってスマホの電源をオフにする前に、チャットに書き込みがないかをチェックしたところ、ちょうどココが書き込んできた。
『あっちのチャットにいなかったでしょ? 寝落ち?』
私は「ごめん」と声を出して、書き込む。
『VRMMOで寝落ちって、そもそも出来るの?』
『できるよ』
『どうなるの?』
『放置艦長になる』
『だから、どうなるの?』
『勝手に造船、勝手に交易、勝手に海戦、勝手に沈没でゲームオーバー、そして勝手にリロード』
『最後は嘘っぽい』
『他は信じるんだ』
『訂正。全部嘘っぽい』
『今度やってみたら?』
『遠慮します』
『それはそうと、提督、ご報告が』
『いつから私が提督に?』
『仲間全員、東アジアに入ったよ♪』
『おめでとう! 全員揃って海賊撃破ね』
『みんなの話を聞くと、登場する海賊の名前もレベルも違うみたい』
『プレーヤーごとに合わせているのかしら?』
『だね。負けるかどうかハラハラドキドキって敵が、プレーヤーごとに登場する感じ』
なるほど。レベルも経験値も異なるプレーヤーに応じて、CPUの海賊が用意されて行く手を阻むようになっているようだ。私の場合、ここになりすましのプレーヤーのベラスケスまで乱入してきたが……。
『長崎に行ってみたけど、追い返されちゃった』
『あそこはオランダだけウエルカムだよ』
あのヨハンセン・ファン・デン・オルデンバルト――折森くんなら入れるわけだ。またあの事件を思い出してしまって、頭に血が上ってくる。
『頭来るわよね!』
『そこ、怒るとこか?』
『そうよ!』
『ああ、あいつか』
ココも思い出したようだ。
『ずるいと思う』
『まあ、ゲームにまで八つ当たりしないこと』
『わかってるけど』
『それはそうと、みんなはマカオとか廈門とか杭州にいる。招集かける?』
最初の漢字、アモイだっけ? 中国の地名は苦手だ。武将名もそうだし。
『招集はまた今度』
『待ってるよ』
『ねえ、海賊はいた?』
『いないよー』
『こっちも。なら、どうやってレベル上げするの?』
『さりげなく攻略方法を聞き出すこーみなのであった』
『いいじゃん』
『何かの条件で出現するはずだよ』
『そう?』
『汐留情報を探れば?』
『攻略サイトを読めって意味ね?』
『当たりー』
『書いてないよ』
『なら、本人に聞けば? それはですね、って答えてくれると思うが』
東アジアは最終局面だから、おそらくボスがいるはず。汐留くんに聞いてもいいが、少しは自分で考えていろいろ試した方が楽しいような気がしてきた。
『自分で考えてみる』
『おお、我が娘も成長したのう、うるうる』
『いつからお父さんになったの!?』
『3秒前』
こうやってココとのチャットに付き合って夜も更けていく。




