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VRの紺碧の海、紅のガレオン~女艦長スカーレットの冒険記~(改訂版)  作者: s_stein & sutasan


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リアルでの仲間の援護

 後ずさりした私はお尻に机が当たり、動きが止まった。


「コツなんかありません。じっくりやっていれば自然とレベルアップします」


「いや、そうでもなくて困っているんだ。どうしてもスカーレットが持っているあの剣と外套が手に入らなくて」


「私が手に入るくらいですから、手に入ると思いますが」


「その辺りをじっくり聞かせて欲しいんだけど」


「お話しするような情報はありません」


「タダとは言わないから。喫茶店、いや、ファミレスでよければ」


 こんなことを言うイケメンだとは思わなかった。幻滅したと同時に、自分の人を見る目のなさに腹立たしさを覚えた。


 さて、この場をどうやって逃げ切ろうかと頭をフル回転して考えていると、教室の隅でガタンと椅子が倒れるような大きな音がした。(おる)(もり)くんが「あん?」と言って音の方を向いたので、私もつられて音の方を見る。すると、そこには大門くんが立ち上がっていて、こちらを見ながら小刻みに震えていた。


「何かと思えば、でくの坊が椅子を倒したのかよ。図体でっけえんだから、学校の備品壊すなよ」


 ところが、大門くんは珍しく顔を怒りの色に染め、のっしのっしと私たちの方へ近づいてきた。


「なんだ、お前?」


 鼻息が荒い大門くんに迫られて見下ろされた(おる)(もり)くんだが、一歩も動かず顔をしかめる。


「人が話をしてる最中だろ? 見てわかんねえのか?」


「…………」


「わかんねえのかって言ってんだよ」


「…………」


「なんとか言えよ。声、出せるんだろ?」


 その時、大門くんがスーッと大きな音を立てて息を吸った。


「こ、()(うな)(はら)さんが、い、嫌がっているじゃないですか!」


 遠巻きに成り行きを見守っていたクラスメイトから「先生以外に初めてしゃべった」と驚きの声が上がる。息を吹きかけられて顔を背けた(おる)(もり)くんがゆっくりと大門くんの方を見て、眉をハの字にする。


「間近で、でっけえ声出すんじゃねえぞ」


「い、嫌がっているんだから、や、やめてください!」


「普段しゃべらないから、噛み噛みだし。笑えるぅ」


「帰ってください!」


 大門くんが私の前に移動して背中で私を隠した。大きな防壁が出来たようで、私は頼もしい彼の後ろで縮こまる。


「なんだぁ? 俺の彼女だってか?」


「…………」


「ねえよな、そんなコミュニケーション取れねえ奴が」


「…………」


「何とか言えよ。俺の彼女だとか」


 私の心臓の鼓動がドクンドクンドクンと止まらない。まさか、あのラブレターを書いたときの気持ちを今この場で高らかに宣言するのではないだろうか。そんなことをされたら、ど、どうしよう……。


 心の準備が出来ずにいると、大門くんがスウウウウッと息を吸った。


「こ、()(うな)(はら)さんは……ぼ、僕の友達だ!」


 教室中の音が消え、窓の外や廊下からの騒めきだけが流れ込んでくる。


「プッ……はは……ハハハハハッ!」


 大門くんの後ろからソッと覗くと、(おる)(もり)くんが腹を抱えて笑っていた。


「はいはい。ゲームで友達申請して許可もらったのね。おめでとさん」


 (おる)(もり)くんは両方のポケットに手を突っ込んで私たちから離れていったが、教壇辺りで立ち止まり、クルッと振り返った。


「でもよ。チートツール疑惑は払拭出来てねえぜ」


 すると今度は、別の方角でガタガタと椅子の音がする。そちらを振り向くと、汐留くんが立ち上がっていた。


「それはですね」


「なんだ? 今度はオタクかよ」


 半眼になった(おる)(もり)くんに汐留くんが拳を振り上げた。


()(うな)(はら)さんのレベルで月光のフランベルジュと祝福の外套を手に入れるのは、全然可能なんです! チートツールなんか、要りません!」


「全然の使い方、間違ってね?」


「あのVRゲームには運の要素が多分にあって、同じレベルでも取得できるアイテムが異なります!」


 それから長々とノウハウの解説が始まったが、(おる)(もり)くんは首を横に振り、右手を突き出した。


「もういい。知ったかぶりしてどこぞの攻略サイトの情報なんか語られても――」


「知ったかぶりなんてよく言いますね」


「何だと?」


「攻略サイト書いているメンバーの一人なんですが、何か?」


 それを聞いた(おる)(もり)くんは、苦笑して肩をすくめた。


「はいはい。運が悪いってことね」


 それから私の方を恨めしそうにジロッと見て去って行った。


 すると、門前さんが席を立ち上がり、大門くんと汐留くんを順に見て、


「うちの男子も、やるじゃない」


 それから、フッと笑って鞄を手に持ち、ゆっくりと教室を出て行った。


 私は二人に頭を下げた。


「大門くん、汐留くん、ありがとう」


 大門くんは私の方へ振り向いて見下ろし、気の毒なほど頬を真っ赤にして頭をガシガシと掻いた。汐留くんは、


「いえいえ! スカーレット艦長にはお世話になっていますから、いつでも援護射撃はお任せください!」


 そう言って何度も頭をペコペコと下げ、鞄を抱えて走り去った。


 リアルの世界で二人に守られた私は、嬉し涙をこぼした。


 私のうっかり一言から始まった騒ぎがこんな形にまで発展するとは想像すら出来なかった。学内でプレイしている人が多いと聞くから、これからスカーレットが時の人みたいになって注目され、追いかけ回されるのだろうか。友達申請も地方艦隊希望も急増するのだろうか。


 そうなったら、私もユキムラさんみたいに「学校名とクラスとリアルの名前を教えて」って言った方がいいのか、大いに悩むなぁ……。



   ◆◆◆


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