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VRの紺碧の海、紅のガレオン~女艦長スカーレットの冒険記~(改訂版)  作者: s_stein & sutasan


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初心者、船を買う

 私は、船を買うよりも、アイテム獲得を先にやらなければという思いが先に立った。なぜなら、一番始めにアバターを決定した後、レベルアップのアイテムが満載だったクローゼットを開けずに広場へ飛び出してしまった反省もあるので。


「ねえ。この辺の建物の扉を片っ端から開けるのはどう?」


「何言ってんの? 造船所へ行くんだから、メニューからワープするよ。そんなところに秘密の通路なんかないし」


「いや。アイテムが転がっていないかと」


「ああ、そういうこと? まあ、RPGの鉄則だけど、そんなことは後回し」


「えー? なんでー? 誰かに全部取られてしまうんじゃないの?」


「その軍人さんの格好で女の子っぽい喋り方は、違和感半端ないが」


「なら、誰かに全部取られてしまうことはないのかね?」


「ないない。確かに、建物の中に宝箱があって、アイテムが取れるけど、プレーヤーが別なら、他のプレーヤーが取ったアイテムでも出てくるよ。そうしないとこのゲーム、何百人もいるんだから、早い者勝ち、遅い者負けでは不公平だからね」


「実際に考えると、なんか変……」


「なんで?」


「だって、宝箱に行列作って並んでいたとして、一人ずつおんなじアイテムが出て来るんでしょう?」


「まあ、理屈はそうだね。実際には、そんな場面に出くわしたこと、ないけど。でもね、複数のプレーヤーが同一空間で同一ゲームを共有しているんだから、そこはツッコミなしということで。……おっと、また変な連中が来た。メニューから造船所へワープしよう」


 前方を見ると、今度は三人のイケメンが横一列に並んでニヤニヤしながら歩いてくる。まるで、横に広がって行く手を塞いでいるかのようだ。この露骨な通せん坊は、NPCのイベントとは思えず、またナンパを目論むプレーヤーたちだろう。


「ナンパ競争でも始まっているのかしら? 誰が最初にあの女の子をものにするか、とか」


「いいから、早く!」


 すでに画面を表示したシャルロットに急かされた私は画面をサッと表示し、二人で同時にメニューの「造船所」をタップした。



   ◆◆◆



 一瞬にして辺りが薄暗くなったので画面に落としていた視線を周囲へ移すと、町の光景が一変して、ランプの光が揺らめく部屋の中に私たちはいた。ワープと言うから、体がトンネルに吸い込まれ、「うわー!」とか叫んでいる間に無数の光線が後方へ飛んで行くような高速移動を想像していたが、立ったまま景色が早変わりしたのには驚いた。


 奥の木の壁には3つの窓があり、1つの窓に一人ずつ年配のおじさんの上半身が見えていた。頭の高さから察するに、椅子に腰掛けていると思われる。その後ろは壁にはめ込まれた棚らしく、たくさんの引き出しがあって、こちらから見るとそれらが窓枠に切り取られて壁紙みたいに見える。ランプは、おじさんの左側に1つずつあって、部屋の両側の壁に2つずつある。


 おじさんは、いずれも鍔のない帽子を被り、お客さん相手に笑顔を正面に向けている。三人とも親戚かと思うほど、顔が似ている。私の正面にある真ん中の窓からこっちを見ているおじさんは、糸のような細い目で微笑んでいる。ぱっと見、細身の恵比寿さんだ。


「ここが造船所だよ」


 私の左にいるシャルロットがそう紹介して、「今日は客が誰もいないね」と言いながら真ん中の窓に向かってスタスタと歩いて行く。


「いつもは混んでいるの?」


 画面を消した私が彼女の背中を追いかけると、彼女はこちらに体を向けて後ろ向きに歩きながら答える。


「全然。いても一人二人。ほとんどがクイックモードで、ここに来ないで船を買っているよ。一回来ればいいやって感じ――かもね」


 そう言って窓にたどり着いた彼女はクルッとおじさんの方へ向き直り、「せっかく、こうして優しいおじさんが待っているのにねぇ」と言いながら体を右に傾け、「ねえ、おじさん?」と話しかける。すると、おじさんは彼女を見て「いらっしゃい。元気そうだね。今日はどの船を買うんだい?」と親しそうに問いかける。


「常連なの? しょっちゅう、ここに来るの?」


 私の問いかけに、彼女は頭だけ振り返り、ペロッと舌を出した。


「全然。私もクイックモードの口」


 苦笑しつつ窓にたどり着いた私は、窓とおじさんとの間に机があり、そこにファストフード店にあるようなメニュー表が置かれていることに気づいた。それには、たくさんの船の絵と名前と値段が書かれている。船の名前は、ここはポルトガルなのに、なぜか日本語だった。


 私はガレオンを探すため、メニュー表の左上から1行ずつ見ていく。すると、右下に「ガレオン 100,000」の文字が見えた。買うのに金貨10万枚が必要ということだ。これには、思わずため息が出てしまう。この値段は、装備なしだという。これに装備を加えるとどれくらい上乗せが必要なのだろう。


「おじさん。中古ないの?」


 シャルロットの言葉に、おじさんは「あるよ」と言ってメニュー表をスッと引っ込め、後ろを振り返って引き出しの一つを開けて別のメニュー表を取り出した。それを先ほどのメニュー表があった位置にぴったり置いて、彼女の方を向き「どれにするんだい?」と尋ねた。


「いや、買うのはこっち」


 彼女は私の方を親指で差すと、おじさんは私の方を向いて「どれにするんだい?」と繰り返した。そうは言われても何もわからない私は、経験豊富な彼女へ目で助けを求める。


「自分で探しなよ。フィーリングでね」


 ニヤニヤする彼女に突き放されて、私はメニュー表に目を落とす。フィーリングというから、絵を見てピンとくる物を探せと言うことなのだろうか。おお、船が私を呼んでいる――みたいな? あるいは、ねえ、買って買って、って船がアピールしているような?


 真剣に一つ一つ見ているところへ、彼女は急に突き放したのも悪いとでも思ったのか、左から息を吹きかけるくらいに近づいて(ささや)く。


「軍人なんだから、交易よりは略奪で儲けることになるよ。だから……小型のガレー船かな?」


 真剣に見入っているものだから彼女のアドバイスがまともに耳に入らなかった私は、聞き慣れない「ガレー」の単語が「カレー」の聞き間違いかと思って「えっ?」と声を上げた。でも、聞き直す初心者に無反応なので、具体的に質問する。


「それ、インドの船?」


「カレー船ちゃうねん。人の話、聞いとる? ガレー船は、これや」


 眉間に皺を寄せる彼女がそう言って指差す先を見ると、オールがいっぱい付いている船があった。三角形の帆が付いているのに、ボートを漕ぐみたいなオールが付いている。ということは、風と人が動力なのだろう。何だか早そう。


「ねえ。基本的なことを聞いていい?」


「何でも聞いて」


「どこの船を略奪すればいいの?」


「敵対国」


「って、どこ?」


「……あっ、今ポルトガルはどことも敵対してないや」


「とすると、いきなり失業!?」


「だね。平和なときは、交易にいそしむしかない」


「武士の商法って奴に陥るの? ……海賊稼業でも始めようかしら」


「みんなから集中砲火浴びるよ」


「敵対国って、ポルトガルを拠点とする軍人のプレーヤー共通? それともプレーヤー個別?」


「まと……鋭いこと聞くねぇ」


「今、まともって言いそうになったよね!?」


「ゲホゲホ。えっと、敵対国の設定は、全プレーヤー共通だよ。自分が拠点とする国家が――CPUだけど――相手国に宣戦布告した時に、敵対関係になる。で、海戦のイベントにプレーヤーが駆り出されて、ドンパチやって勝負がついたら和解交渉が始まり、敵対国の関係が解消する」


「敵対国に所属するプレーヤーの船を略奪するの?」


「そゆこと。敵対国にはCPUの船もあるけどね」


「プレーヤーとCPUは区別付くの?」


「つかない。ベータの時はついたけど」


「ナンパしに来たら、沈めてやる」


「難破させる」


 寒い駄洒落にはスルーする。


「軍人だけど商人になる場合、まさかと思うけど、アバター変えないよね?」


「それはない。ただ、欲しがっていたガレオン船は攻撃に特化しているから、交易に特化した船を買うのさ。特に、積み荷をたくさん積めるやつに。別に、軍人が乗ってはいけない船なんかないし。大丈夫だよ」


「でも、ガレオン船を交易に特化するように改造してもいいよね?」


「戦争がおっ始まった時、攻撃用に改造し直すことになるよ。日数もお金もかかるから、無駄無駄。だから――これを買う」


 そう言って彼女は、キャラベル・レドンダという船を指差した。売価は金貨3,000枚。中古だからこんなに安いのかしら?


「積み荷の部屋が2つに増強されている。大砲もデミ・カルバリン砲2門に変えられている。装備増強の時間も不要だから、これにしなよ。……何隻かあるね。いくら持ってたっけ?」


「6万」


「20隻買えるな」


「なくなっちゃう……」


「冗談だよ。これ3隻買おう。合計で積み荷の部屋が6つある計算になるから、じゃかすか売って儲かるし。いいよね?」


 6つで儲かるかどうかは初心者にはわからないので、


「お任せします」


 こうしてトントン拍子に話が決まると、おじさんは「船は波止場につないでおいたからな」と、さりげなく凄いことを言う。大量にリストにある中古の船の在庫がどこにあるのか? そこから誰が波止場へ瞬時に運んだのか? さすがゲームならではのツッコミ処だ。今まで見てきたゲームのリアリティに心を奪われていた私は、このリアリティのなさのギャップがツボにはまり、つい吹き出してしまった。


「軍人だけど、僕みたいに商人になっちゃったね」


「やり方がわからないから、経験者にお任せです」


「まあ、最初はみんなこんな感じのビギナーだから、しばらく我慢だね」


「慣れないことをして没落軍人にならないよう、頑張ります」


 と、その時、シャルロットは辺りを(うかが)ってから、私の耳元に口を近づけた。三人のおじさん以外いないのに、何の内緒話をするのだろうと思っていると、彼女が(ささや)いた。


「ちょっと小耳に挟んだんだけど」


「うん」


「あり得ないほど早くスキルを上げたり、めっちゃ稼いだりする連中がいるらしい」


「そんなこと、出来るの?」


「おそらく、チート。絶対どっかで、データいじってる。しかも、CPUが操る海賊船に偽装して、敵対国でなくてもプレーヤーの船を襲うらしい」


「チート……」


「ちーかま、じゃないよ」


「それはわかる」


「CPUの船に見せかけて、近づいてきたプレーヤーを撃破してゲームオーバーに追い込む。そんな連中を野放しにさせないためにも、ベータの時みたいに、プレーヤーのアバターの上にハンネを表示させておけば良かったんだよ」


「半値?」


「ハンドルネーム。プレーヤー名のことさ。……ま、そんなことしてる奴らがいるってことを覚えておいて、プレイ中は気をつけることだね」


「わかった」


 私は、広場を出て遭遇した例の二人のイケメンを思い出し、イヤな気分になった。まさか、あの二人がやっているのだろうか? いや、あっちはリアルの個人情報を引き出すのが目的だ。チートのことは、VRじゃない他のオンラインゲームにインした時、いきなりレベルMAXでプレイしていた人がいたので知っているけど、このVRMMORPGにもいるなんて……。


「じゃ、次は船員を雇いに酒場へ行くよ」


「うん」


 シャルロットと私は、人差し指で画面を表示させて、同時に「酒場」をタップした。



   ◆◆◆

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