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宵闇の練習曲  作者: 由希
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ガライド編 第九話

「エレノア! どこだ!」


 大声を上げ、エレノアを探す。もう神殿のかなり奧まで来ている。そろそろ、エレノアの元に辿り着いてもおかしくはない。

 どんな些細な物音も聞き逃さないよう、耳を澄ます。頼むエレノア、返事をしてくれ――!


「――何をしている、早く聖女様をお連れしろ!」

「!!」


 その時、右の廊下から微かにそんな声が聞こえてきた。俺は叫ぶのを止め、急ぎ右の廊下に向かう。


(――いた!)


 右の廊下に入って暫く進むと、ある集団が見えてくる。その中央、急き立てられるように歩いているのは――。


「エレノア!!」


 集団の中、名を呼ばれたエレノアが緩慢に振り返る。まだ街外れの住人達を失ったショックから立ち直れていないのだろう、その顔に生気はなく、瞳もすっかり光を失っている。


「がら、いど、さん……?」

「ちっ、ツイードめ、賊如きに遅れを取るとは聖騎士が聞いて呆れる!」


 エレノアの腕を掴んで先を行く、司祭と思しき格好をした男が俺の方を見て舌打ちをする。そして後方に控える僧兵達に指示を下した。


「何をしているお前達! 聖女様をお守りするんだ! 行け!」

「は、はっ!」


 指示を受けた二、三人ほどの僧兵達が、メイスを手に俺へと向かってくる。だがこの人数、この武器、更に及び腰とあっては、ここまで辿り着いた俺の敵ではない。


「邪魔だ!」


 僧兵達がメイスを振り下ろす前に、俺の長剣が次々と僧兵達の胴を切り裂いていく。痛みにメイスを取り落とした僧兵達は、傷口を手で押さえながらそのまま崩れ落ちた。


「ひ、ひっ……」


 あっという間に護衛を失った司祭が、エレノアを盾にするように後ずさる。俺は長剣に付いた血を振り払い、未だ目の焦点の定まっていないエレノアに手を伸ばす。


「――来い、エレノア」


 昏かったエレノアの瞳が、微かに揺らぐ。その目の焦点が、ゆっくりと俺に合わされた。


「心を殺し、永久に籠の中の鳥のまま生きる必要はない。世界には、まだまだ君の知らないものが一杯ある。その中にはあの住人達のように、真に君の救いを必要とする人々もいるかもしれない」

「き、貴様、何を……聖女様、賊の戯言など聞いてはなりません!」


 司祭は慌てて声をかけるが、エレノアは俺から目を離さない。揺れ続ける金色の瞳に、少しずつ光が戻って来ているのを俺は見た。


「何より、俺が失いたくないんだ。君が自身で選び取るべき未来を。そして君の、心からの笑顔を」

「がらいど、さん……わたし……」


 エレノアの乾いた唇が、俺の名を紡ぐ。それに俺は、語調を強めて応えた。


「俺と共に来い、エレノア! 君に世界を見せてやる!」

「……っ!」


 光を取り戻したエレノアの瞳が、大きく見開かれる。直後、司祭の手を振りほどこうとエレノアが大きく暴れ出した。


「聖女様、何を!」

「離して下さい! お願いっ……!」

「くそっ……いいから大人しくしていろ、この小娘!」

「!!」


 予想外のエレノアの抵抗に逆上したのか、司祭がエレノアに向けて手を振り上げる。それを見た俺は剣を捨てて全速力で二人に近付き、エレノアの頬を打とうと振り下ろされた手をすんでのところで受け止める。


「ひっ……!」

「これはエレノアと、貴様らが踏みにじった人々の分だ!」


 そのまま、司祭の顔面に渾身の右ストレートを打ち込む。拳の先端に鼻の軟骨の折れる感触が伝わると同時、司祭の体は後方へと吹っ飛んでいった。


「ガライドさんっ……!」


 エレノアが涙声で、俺にしがみついてくる。俺はそんなエレノアの体を、優しく強く抱き締めた。


「私……あなたと行きます。あなたと共に生きますっ……!」

「これからは、俺が君を守る。俺に君を託してくれた、街外れの人々や聖騎士ツイードの分まで」

「はいっ……!」


 それ以上はもう、俺達に言葉はいらなかった。俺達はどちらからともなく手を繋ぎ、互いに頷き合った。


「行こう」

「はい!」


 そして俺は落とした剣を拾い上げ、エレノアと共に俺の一撃に完全にのびた司祭を追い抜いていった。

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