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彼はそれでもペットをもふるのをやめない  作者: みずお
第三章 夏イベ 腐龍編
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07.彼はチームメイトと会議をする

 俺達十人は部屋に設えられた立派なテーブルに各々座る。

「……お、オカリナ、です。……メインは【神聖魔術】。さ、サブはまだありませんっ。よ、よろしくお願いしますっ!」

 少女――オカリナはアリシアと女性陣のお陰で何とか自己紹介をしてくれる段階まで心を開いてくれた。

 座った後もビクビクしている様子を見るに、完璧な分かり合いまでの道のりは遠そうである。

 大雑把なスキル構成などの一通りの自己紹介を改めて行っていき、今最後の番である彼女の紹介が終わった所だ。

 スキルはキャラクターの大事な情報である為、申告は個人の采配に任せられた。いくらチームを組むとはいえ、流石に強要するわけにもいかないからだ。

 大抵の人が主要なスキルを三から四つ言うに留まる。

 しかし中にはユーナのように五、六つ言う人も居れば、『魔女』のようにメインとサブの二種類しか話さない人も居る。

 自己紹介が終わり、最初に口を開いたのはユーナだった。

「あんた達のグループ、見た目からして変だと思ってたけど一番変なのはリクだったのね」

「ん。俺の何処が変だと?」

 このフード組よりも変だと思われるのは納得できない。

「二人は格好はアレだけどスキル構成はまともだもん。けどリクは見た目まともだけどスキル構成ちぐはぐだもの。そもそも高レベル『調教』だなんて滅多にお目にかかれ無いわ。しかもきちんとペットを手に入れてるのもレアケースね」

 『調教』は仲間に出来るMobが明確に提示されていない不親切なスキルだ。

 それはアプデ後も変わる事はなかった。運営しっかりしてください。

(あーでも。ペット化が簡単になったら、それはそれで虚しいな)

 ままならないものである。

「おいユーナ! 言いすぎだ」

 ジャンが仲間を窘める。

 他人のスキル構成に口を出すのは褒められた行為ではない。

 俺は気にしないから正直に話したが、不遇スキルを持っている人はそのスキルを所持している事を隠している事が多い。

「べ、別に非難してるわけじゃないのよっ」

 ユーナは慌てて付け足しながらも、気が咎めるのか眉尻を下げて申し訳なさそうな表情になる。

 裏表のない人だなー。と思いながらフォローする。

「別に俺は気にしてませんよー。寧ろこの二人に関してはもっと言ってくれた方が助かりますねー」

 万が一まともになってくれたらラッキー程度に言っておく。

「あらあら、酷いわね。……でも、そうね。気にしなくてもいいわよユーナさん。私とリューさんはそれ位じゃ動じないわ」

 リューネも鷹揚に頷く。俺は辟易しながら言う。

「動じてくれ。そして出来ればまともになってくれ」

「あら、貴女がそれを言うのかしら」

 俺達の気にしてないアピールの遣り取りにユーナはようやく笑顔に戻る。

「ありがと」

 少しわざとらしかったかな?

 俺達の遣り取りを見ていたジャンも会話に加わる。

「この中で一番まともなのはアリシアちゃんだな。普通なら美少女で目立つはずなのにな」

「わ、わ、私です、かっ!?」

 突然話を振られたがどもりながら答える。

 そんな彼女の代わりに俺が答える。

「いや、中身は俺達と同類だぞ?」

「お兄さんッ!?」

「ほら皆。今後の方針を話し合うよー」

 弛緩した会議の雰囲気にソラは苦笑しながらその場を纏めた。



  ◆



 静寂が降りる中、最初にソラが口を開いた。

 自己紹介でメイン【片手剣】サブ【二刀流】と言ったように、彼の両腰には二本の剣が差してある。

 確か【二刀流】は中級スキルだった気がする。

 そして中でも目を引くのは深緑エメラルドの剣。

 一目で業物だと分かる。

「さて。これからだけどどうしようか?」

 ソラは皆を見渡し、最後に俺を見る。

 ここで俺が発言した方が、俺の連れも発言しやすいと考えての行動。それが分かった俺はその思惑に乗る事にした。

「……そうですね。初日の今日は皆で出掛けましょう。職人組みが残っても肝心の素材が無いですからやる事は無いですし」

 無難な意見を出す。

「あら? そうでも無いわよ?」

 『魔女』がやんわりと否定する。

「このお屋敷には最終日の催しを楽しみにたくさんの貴族や商人が来ているわ。だからそこから情報を集める手もあるわよ?」

 最初の否定役を率先して行う彼女を何とも言えない目で見ると、彼女は微かに笑うのみだった。

「ほえー。そうなの『魔女』さん」

「ええ、確かよ。そうよね?」

 彼女はルゥイに視線を向ける。

 ルゥイは首肯し、答える。

「はい。先程もお答えしましたが、その通りでございます。貴賓の皆様は様々な事情に精通しております。その中には冒険者の皆様に有益な情報もございましょう」

 ルゥイが口を閉じる。するとソラ達を案内した緑髪のメイドさんが、その後を引き継ぐ。

「更に、貴賓の方々は娯楽に飢えております。余興となる一芸を見せ、気に入られればより有益な情報や貴重な物資を快く譲る事もありますでしょう」

「だ、そうよ」

「凄いですっ! こんな短時間でよく調べましたねっ!」

「え、ええ……」

 マリーが本を抱きながら、眼鏡の向こうから尊敬の眼差しを『魔女』に向ける。

 『魔女』はその視線に困惑している。

 ジャンが椅子にもたれ掛かりながら、

「確かに情報は重要だよな。この孤島結構広いから、無駄に歩き回るのはかったるいし」

「それに無駄にかける日数もないですからねー」

 俺もそれに同意する。

 ユーナが唇に指を当てて首を傾げる。

「いっそ皆で情報収集しちゃう?」

「ユーナ。自分のビルド見てから言おうか? 趣味系のスキル取ってないでしょ?」

「むっ。それはソラも一緒でしょっ」

 まあねとソラが肩を竦める。

 先程の自己紹介で彼らがメイン戦闘サブ生産のビルド構成である事は知っている。

 俺は全員の大雑把なスキル構成を思い出しながら発言する。

「だったらそっちの方はリューさんとマリーさんが中心になって活動した方がいいでしょうね」

「え? 私もですか」

 話を振られたマリーさんは驚く。

「ええ。確か【読書】スキルにも手を出しているんでしたよね。確か【読書】は趣味の分類だったと思います」

 本を抱くマリーさんは魔法使いビルドで、大抵魔法系統のビルドは、INTにボーナスの付く【読書】のスキルを伸ばしている事が多い。

「あ、そういえば趣味でしたねこれ。忘れてました」

 彼女の言うとおり【読書】はこの付加価値にばかりに目がいって、本来の使用方法を忘れられがちになる。

「リューさんは何でだ?」

 ジャンの問いにユーナが呆れながら答える。

「あんた自己紹介聞いてなかったの? 【舞踊】が高いって言ってたじゃない」

「そうだっけ?」

「……このポンコツ二号」

「その呼び方やめろよっ!」

「ふ、二人とも落ち着いてっ」

 いがみ合うユーナとジャンをマリーが慌てて諌める。

 ソラはその様子を眺めた後、俺達に向き直る。

「騒がしくて申し訳ないね」

「放っておいていいのかしら?」

「大丈夫ですよ『魔女』さん。二人とも本気じゃないですから。いつもの事だし」

「……ソラさんも苦労してるんだなー。こっちの厄介者メンバーもいりませんか?」

「あはは。俺の手には余るから遠慮しとくよ。――と、終わったみたいだね」

 ユーナとジャンは、マリーからの「めっ」て感じのお説教を受け終わっている所だった。

 会議進行を止めた二人が頭を下げ席に着いた後、俺達は話し合いを再開する。

「んとー。さっきまでの流れから探索班と情報収集班に分かれる感じでいいですかね?」

「俺はそれでいいと思うよ。皆はどうかな?」

 ソラが俺の言葉に同意し、皆を見渡す。

 その際、年少組の二人とも目を合わせて気遣っているのが見て取れた。

 二人ともビクッとなって首を縦に振っていたから、傍目からは強要しているみたいに見えたが。

 苦笑いを浮かべながら皆の同意を確認したソラが話を続ける。

「さて、大体の方針は決まった。後は班決めだね」

「比率はどうする?」

「六:四でいいと思うわ。丁度パーティの上限にも合うもの」

 探索六人、情報収集四人。

 まあ、妥当な所だろう。

「情報収集少なくていいの? 大事なんじゃないの」

「情報収集は探索と違って確実性がないもの。取りあえず今回は話を聞き出すのにどんなスキルが有用か分かれば充分だから人数は然程必要ないわ」

「んー。確かにそうね。魔女さんは頭がいいわね」

 ユーナが賞賛すると『魔女』が据わりの悪そうに口元を曲げる。

 マリーの時もだが、『魔女』は素直な好意を向けられるのに慣れていないようだ。

 捻くれてるからだな。と俺は内心失礼な事を思う。

「どう分かれるよ?」

「うーん。どうしようか?」

 ソラが頭を掻く。

 同じように唸ったりして悩む一同に、『魔女』が何でもないように言う。

「あら? だったら彼に決めてもらえばいいわ」

 そして彼女は俺を指差す。

「え? リクにですか?」

「ええ。多分この中で一番皆のスキルを理解しているのは彼よ」

 面倒を押し付けられる気がする。

「……あっはっは。十人分のスキルを覚えてる訳ないよー」

「あら? 貴方自身は抜くから九人分じゃない。それに罠満載のダンジョンを把握するより楽でしょう?」

「……」

 何でその事を知ってるんですかねー。

 半眼になる俺にユーナが半信半疑で聞いてくる。

「え? 本当に会ったばかりの私達のスキル含めて全員分把握してるの?」

「……まー、一応はー」

 本当は嘘でも言えば良かったが、今から力を合わせる相手にそれはあまりにも不誠実だろう。

 無駄に禍根を残すのは得策ではない。

「それが本当なら凄いね。試しに私のスキル構成言ってみてっ!」

 それに素直にこう言われると弱い。俺も人の事を言えない。

 俺はしぶしぶ言う。

「ユーナさんは、メイン【拳】にサブ【投擲】。スキル構成は典型的な回避グラップラー。個人での戦闘継続能力に優れる純戦闘ビルド。またその回避グラの特性上、防具は物防よりも魔防寄り。さらに聞いたスキル構成から平均的なグラよりもHPが高めのガチ構成で殲滅力も充分ある。一対一なら避ける固い痛いの反則級の強さを誇る。聞いたスキルは高い順に【拳】【ダッシュ】【見切り】――」

「す、ストップッ!!」

「ん?」

 どうかしたのだろうか。

 不思議に思いユーナを見ると、彼女は神妙な顔で俺を見ると断言した。

「リク。やっぱあんたが一番変よ」

「ん? これくらいは普通ですよ。ね?」

 俺は皆に同意を求めたが返ってきたのは苦笑のみだった。

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