遠くて近い
近距離で相手に背を取られる、それはサバイバルゲームで敗北を意味する。
普通ならばだ。
だがまだ終わりじゃない、僕には他の人には無いチートな能力があるからだ。
パキ、パキと小枝や草を踏みながら悠然と近づいてくる。勝利を確信した勝者の歩みだ。
今引き金を引かれるだけで僕は確実にやられる。なのに歩みよってくる。僕にも理解できる。撃たずに敵を倒す。銃撃戦における最高の勝利の形の1つ、まさにロマンだよね。
きっと僕が気づかずに通りすぎるのを薮に隠れながらドキドキしただろう。
でもね、君が1歩1歩ゆっくりと近づいてくる、それが僕を興奮させるんだよ。
君はあっけにとられ自分が何故負けたのかもわからないだろうけどな。
目が口元がヒクヒクとにやけそうになる、落ち着こう、冷静に距離をはかるんだ。
この技は照準がビミョーだ、出来れば理想は2メートル以上3メートル未満、タイミングが命なんだから
8メートルも離れていたら普通に反撃していたね
近すぎず遠すぎずがイヤな感じだけどチートの見せ場だ
そんなことを考えつつあともうちょっと、あともう1歩
パキ
今だ、敵に背を向けて突っ立っていた僕は両手で持っていたライフルをゆっくりと左手だけで持ち傷つけないようにストックからそっと地面に倒していった。
倒れていくライフルに相手が気をとられているだろう一瞬に僕は素早く振り返り右手相手に突きだした。
ホルスターの銃には触れてもいない空の手を、しかしその右手にはホルスターの中にあったはずのM93Rが握られていた。
薬室には弾が装填されセレクターは3点バーストに合わせてありあとは引き金を引くだけでOKだ。この近距離でハズレはしない。
自分でも惚れ惚れする姿だ。
グキン
その時本来は聞こえないはずの腰の悲鳴が自分の中で鳴り響いた。
ほんの一瞬ライフルに気をとられている間に華麗にターンを決め、まるでマジックのように現れた銃を突きつけられあっけにとられている相手に僕は一言告げたのだ。
「ヒット」
僕は降参した。
真っ青な秋晴れの下、腰をかばいつつガニ股でゆっくりセーフゾーンに戻った頃終了のホーンが鳴り響いた。
雲ひとつ無い綺麗な青空だ。
普段僕らがホームにしているフィールドを利用しているチームは10チームほどだ、しかも草野球やフットサルに中年層はゴルフなど兼任でそれほど混むことがない、年に3回の定例大会の時は100人位集まるが今日はウチを含めて3チームしか来ていない。
仲間たちは離れたとこにあるシューティングエリアで狙撃の腕を競ってる、お陰でセーフゾーンは静かだ。フィールドの管理人さんから貰った湿布が効いたのか腰の痛みは引いてはいるがつい先程までは皆に爆笑され学生達からは「もう、立派な中年ですね」と言われ、年上からは「三十路なんてまだまだガキなのに情けない」といじられまくった。
缶コーヒーの暖かさが心にしみるね
「なに黄昏てるの」
そう言ってきたのはジェーン姐さんこと亜沙美さんだ。僕より下の28才既婚者OL、旦那はマフィアのマサさんこと銀行員の正義と書いてマサヨシさん。背広に七三分けにすると人畜無害なイイ人に変身する。
マフィアスタイルだと悪人になるわけではないけど
「将来のビジョンが思い浮かばないなーって」
「あんた市役所勤めでしょ、民間と違って定年までのレールにとっくに乗っちゃってるじゃない。不安なんて無いでしょ」
なに言ってんのこの人みたいに亜沙美さんが笑って言った。
確かに僕は公務員で命のやり取りも国家を左右する重責もない市役所の窓口業務だ。このままでも可もなく不可もなくほどほどに昇進して定年を迎えるだろう、天下るコネもないけどね。
「そーゆー不安じゃなくて、僕がじーさんになったときに人生を振り返ったら何が残っているのかなとか、笑って想い出を懐かしめるかなみたいな」
自分でも漠然として何て言っていいのかわからないや。
「だったらイイお嫁さん見つけて子供つくりなさいよ、アタシ達夫婦2人でこうして遊びに来てるけど子供は実家に預けてきてるのよ。共働きだし昼はお仕事、夜は家事と子育て、土日祝日にしたって唯一の趣味がサバゲーだからね」
ここに託児所でもあればね、ぼやいている
「もう少し大きくなれば逆にかまってもらえなくなって寂しくなるんじゃないですか」
実際僕が小学生の頃は親の用事で連れまわされるより家で一人でゲームでもしながら留守番してる方が気楽だったな
「子供が大きくなる頃にはサバゲーやる体力なんてなくなってるわ
よ」
シューティングエリアにいる旦那をチラリと横目に天を仰ぐ
「空が高いわね」
僕もつられるように仰ぐ
「高くて青いですね」




